第二百六十二話 宴の後
なんだか昨日は沢山飲まされたような気がした……けど、この体は意外なことにお酒に強いみたいでピンピンしてる。
なぜだかスーに連行され、そのまま一緒に寝る羽目になった私は目覚めた時に軽く混乱をしたけれど、横でくうくうと可愛らしい寝息を立てるスーを見て色々と思い出した。
『かいざーしゃあん、かいざーしゃあん! もう行方不明はいやでしゅよお!……んんにゃ』
『寝てないでしゅ! あああぁあ! かいざーしゃあん! 今度はしゅみれしゃんもつれてえ……にゃむ…』
こんな具合に目を開けたかと思えば回らない舌で私に絡み寝て、また絡みを繰り返していたスーを見かねた村の人が家まで運んで上げたんだった。そしてなんだか心配になった私が付き添うことになったんだけど……。
夜中目覚めたスーにがっしりと掴まれ、胸元に納められてしまい、そのまま朝まで一緒に寝ちゃったというわけだ。
「やれやれ……っと、ギルドの仕事があるんじゃないかな?」
スーをゆするも、この体格差ではどうにもこうにもだめだ。何か起こす方法は……。
顔をペチペチと叩くも駄目、耳元でささやくも駄目。こうなったら……!
部屋にあった水差しからコップに水を汲み、それを持ってスーの元へ。幸いこれくらいのことが出来る筋力と飛行能力があるらしい。
「こらー! おきろー!」
バシャリとコップの水を顔にかけると、ようやくスーが目を開けた。
「……んん? あれ? んんん? なんで……水が……」
「ごめんね、スー。何をやっても起きないから強硬策を取らせてもらった。目は覚めたかな?」
腰に手を当て、ちょっと得意顔でスーに言ってやった。水を顔にかけるというのは我ながらやりすぎだし、ちょっとした逆ギレ感があるよね。
と、ゆっくりと身体を起こしたスーが目を潤ませた。
「ああ……かいざーしゃんだあ……その……奇策と……頼りがいがある口調……かいざーしゃあん!」
「わっぷ!」
がばりと抱きつかれてしまい、また身動きが取れなくなる。
結局5分ほど泣き止むのを待つこととなる。
『少しずつ記憶が戻ってるのかも知れないね。今日は少し外を歩いてみるよ』
なんて言ってようやく解放してもらえたけど、これはあながち嘘でもないんだ。フィオラと共に行動をしているうちに、色々なものを見て、食べて、聞いて体験をしてきたけど、その際少しずつ私の中に何かが戻っていくような感じがしている。
今だってそう。失われた何かを戻しているような、こうして行動をしていると何かの負荷が和らぐような、そんな感じがした。
私から時刻を聞いて慌ててギルドに向かっていったスーに手を振って、フィオラ達が泊まっている宿へ向かう。
現在時刻は6時30分。ギルドが開くのは6時だからスーは遅刻だね。
「失礼しまーす」
と、女将さんに案内してもらった部屋に入ってみれば……
ラムレットがあられもない格好で毛布を抱きしめて熟睡している……。彼女も最終的に楽しそうにカッパカッパお酒を空けていたもんなあ。酔が手伝ってか、村のハンターたちと仲良く語り合ってたけど、願わくば酔いが冷めてもその縁が続けば良いなと思う。
実は女の子らしくて内気な所があるラムレット。きちんとすれば可愛らしい顔をしてるのに、男っぽい口調と装備でちょっと損をしてるんだよね。
まだ起きるには少しだけ早いし、そっとしておいてあげよう……。さて、フィオラは……
と、もう一つのベッドを見て見れば既に空になっていて、フィオラが目覚めて何処かに出かけたいうことを物語っていた。
まさか一人で先に出発を……なんて事は思わなかった。森に近い村、名物は鹿料理。そして今が旬と昨夜の宴会で話題に上がっていた。
導き出される答えは……。
広場から賑やかな声が聞こえてくる。窓から外を見ると、機兵に引かれた大きな荷馬車が止まっていて、村人たちが集まっていた。
なんだろう?そう思って窓から直接飛んでいくと、『朝狩り』に出かけた一団が森の街道を通って帰ってきたらしかった。
どうやらこの村の狩人は、この時期になると日が昇る前に森に入り、朝までの短い時間で鹿狩りをするらしい。理由として、なぜかは分からないが朝狩りで得た鹿は普通の鹿と比べ明らかに味が良いらしく、わざわざそういう狩り方をするらしかった。
荷馬車を引いていた機兵以外にも様々な機兵が並んでいる。中でも目を引くのはシュっとしたデザインの機兵。今まで見た機兵達は動物のような顔をした何処か愛嬌がある見た目をしていたけど、この白っぽい機兵は人型で、騎士のような見た目をしていてとてもかっこいい。
そんなのが数機、揃いも揃って大きな銃を背負っている。そこらに居たお兄さんに話を聞いてみると、白っぽい機体はエードラム弐型という種類で、新たな街道の開拓のため回されてきた新型なんだって。
銃を背負っているのはこの村のハンターは大抵が狩人であり、前衛より後衛が得意だからだと言っていた。あくまでも狩りの主役は生身の狩人達で、機兵はその護衛と運搬役なんだって。
『はあ、しかしそんなことまで忘れちまったのか。かなしーぜカイザー』
兄さんはそんな事を言って本当に悲しそうな顔をしていた。どうやらエードラムというのは私も開発に関わっているらしかった……。えぇ……? 一体何者なのカイザーって奴は。
と、ざわざわしていた群衆が突然ワっと歓声を上げた。
声の方角を見れば……ああ、やっぱり……いるね……。
「どうだー! 私の鹿が一番でしょー!」
荷台の上でフィオラが弓を天に掲げ吠えていた。彼女の足元にはそれはそれは立派な角の大きな牡鹿が横たわっている。
「フィオラー」
彼女の元へ飛んでいくと、土やらなにやらで汚れた顔でニッコリと微笑んだ。
「みてよルゥ! 凄いでしょ! 弓で一撃よ! みんなびっくりしてたよー」
フィオラの言葉に同行してたハンターが苦笑いを浮かべる。
「弓の腕も凄いけど、鹿を引きずって歩ける女の子なんて見たことねえよ。なんつうか、レニーと似てるけど中身は真逆だよなあ」
他のハンターたちも「そうだな」と同意して、クツクツと笑っていた。
それを聞いたフィオラも何処か満足気にしていたが……何故だろうか。私にはそうは思えなかった。レニーという少女の記憶は残っていない。しかし、フィオラを見ていると、不器用ながらも根性があり、やろうと思ったことはきちんと成し遂げるくせっ毛の少女が頭をチラつく。
男達に混じってにこやかに狩りの話をしているフィオラを見ていると
(前衛か後衛かの違いはあるけどそっくりだよ……お前達は……)
自然とそんなセリフが頭に浮かんだ。
ぼんやりと、ほんの輪郭だけだけれども『レニー』が私の中に帰ってきたかのような気がした。
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