第五話 さらばシャインカイザー
「スミレ、探知範囲を限界まで広げてくれ」
『わかりましたカイザー、街と城の様子を探るのですね』
「ご明察ー! さあ、皆逃げてくれたかな……?」
――あれから2週間が経過した。
最初の数日間は逃げる人の姿はあまり多くは無く、王族もまた逃げ出す様子は見られなかった。よほど再降臨して騒いでやろうかと思ったが、ギリギリまで控えようとスミレに言われその場は我慢する事にしたんだ。
前回の地震により、王都や街も少なからず被害を受けている。出どころが怪しい予言よりも復旧作業が優先だ! という事なのだろう。
確かに、大きな地震一つだけでは予言を信じようとするものは多くはないだろう。どう見ても雨が振らなそうな晴天なのに傘を持っていけと言われたようなものだ。
しかし、その後、大きな地震が何度か起こると、予言の信憑性がぐっと高まるわけで。
予言で匂わせていたおかげか、ようやく重い腰を上げて大規模な避難が始まった。そうでなくとも地震が続き被害がどんどん増えて復旧作業がままならなくなったため避難せざる得なくなったのだ。
さらに「山が赤く光っていた」と言う噂が広まり、いよいよ山から龍が現れるという話の信憑性が高まると、最後まで民を見守っていた王家も今週初めには避難を初めてくれた。
王都からルンシールまでは200kmほど離れている。最後に出立した王家一行でも馬車をすっ飛ばしていけば余裕で避難できた筈だ。
……普通王家ってのは真っ先に逃げるものだと思ってたんだけど、ほんと立派な王様が治める国なんだなあ。こんな事が起きなかったら、王様が視察に来たりしてさ、話が盛り上がって……実はパイロット適性があって……国王専用機になる――なんて未来もあったかもしれないな。
っと、スミレに頼んだサーチの用意ができたようだ。
『センサー増幅完了、ノイズ除去完了、データ出力開始……』
「お、出た出た……うん、残念ながらチラホラ人影は見えるけど殆ど逃げたみたいだね。残ってるのは……動きからすると火事場泥棒かな……? まあ自業自得だよな……」
っと、今までに無く大規模な揺れ。あまりの激しさに倒れそうになるが俺にはどうすることも出来ない。
『カイザー、猛烈な地震を観測、マグニチュード9、同時に高エネルギー反応さらに増大。予定通り噴火が始まります』
「わかった。ありがとうスミレ。そして最後まで一緒にいてくれて……ありがとう……」
『カイザー、そう言う台詞を言うにはまだ早いですよ。私にはまだ……』
「いいんだ。こういうのは言いたいときに言っておかないとね。言えなくなってから言えば良かったと思っても、言っておくべきだったと後悔しても遅いからさ」
『カイザー……』
そして間もなく噴火が始まった。噴煙は空に暗雲を呼び雷を落とし地獄のような景観を作り上げていく。
そしてあたりを真っ赤に照らしながら火を噴く巨山、それはまさしく巨大な龍のようだった。
美しかった草原はどうどうと溢れにじり寄る溶岩流によってジワジワと焼かれ赤黒く染まっていく。。
色彩に溢れた世界は黒色と赤色に姿を変え、あたりはすっかり魔界のようなありさまだ。
機体が震えるほどの轟音が鳴り響き、噴火の激しさはさらに増していく。
溶岩流はとうとう近くの街をそっくり飲み込んで、今度は俺や城へゆっくりと迫り牙を剥き始めた。
高温の世界でじっと佇んでいるため、各種センサーが悲鳴を上げている。やがて溶岩流は俺へと達し、まるで風呂にでも入っているかのようにそれが機体に浸かり――
――超常的な素材で出来ている流石の装甲も限界を迎えようとしていた。
……思ったよりもこの時が来るのが遅かったため、スミレへのお別れを言ってから暫くの間なんだか微妙に気まずい空気が流れていた。
ああいうセリフはやっぱり死ぬ間際じゃないとだめだな。
とっておきのアレはやっぱその時に言おう。終わりよければ全て良しだ。
スミレも同じことを考えているのかわからないが、あれっきり喋らなくなり、会話の無いコクピット内ではセンサーの耳障りな警告音だけが鳴り響いている。
本来であればパイロットに脱出を促し、自らも退避行動に移るべきなのだが、護るべきパイロットも居なければ、動くこともできない。だから今となっては警告音などただのBGMにしかならない。
警告音がさらに増加し、システム全体が悲鳴を上げているかのようだ。ああ、死期の訪れを察する。長いようで短いロボ生だった。こんな事しか出来なかったが、あの神様的な存在は満足してくれただろうか?
でもいいよね、最後にこうして人助けできたしさ。ヒーローらしいこと出来たじゃないか。城に向かって座り溶岩から身を挺して護る! 例え其れが無駄な行動だとしても輝く勇者の魂が有る限り!!! とか、なんとかさ! どうだい、神様? カッコいいだろう?
っと、いけないいけない……本気で終わりの時が来たようだ。最後はきっちりシメないとな。例のセリフ、絶対に言ってやる。
「スミレ……あるか分からないが、ロボットの天国で会おうぜ……」
『カイザー……しかし……いえ……、カイザー、おやすみなさい……』
「スミレ……これは別れの言葉じゃないアイルビ……」
セリフを言い終わるまえに視界が溶岩に覆われていくのが見え、機体もとうとう限界を迎えたのか音声出力が出来なくなった。
ロボが死ぬ……壊れる瞬間どういう感覚なのかはわからないが、急激に意識が閉ざされていくのを感じる。ロボなので痛覚は無い。だからわからないが今まさに溶岩に溶かされているところなのだろう……。
はは、灼かれているってのに熱くも痛くもないとはね……これ……はほんと……この身体に感謝……しない……と……な……
……。
薄れゆく意識の中、俺の体からいくつもいくつも大切な物が抜け落ちていく感覚を覚えた……。
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