第25話 ただ者ではない先輩に男として応えたい

「それで何かいい企画浮かんだ?」


「いえ、まだ浮かんでません。」


「まだ・・・ね。

じゃあ、せっかく海辺に来たんだし、

作戦会議でもしましょ。」


「あ、はい・・・」


言われるがままに返事をしてしまったが、

落ち着いて考えれば考えるほど

落ち着いていられなくなった。


なぜならヨット乗りのおじさ・・・お兄さんは

結果として美名城夏帆の兄だったが、

見ず知らずのヨット乗りに俺同様、

いや俺以上の暴言を大声で吐いたのである。


本当のところ、

どこから兄だと気付いたのか

想像しただけで落ち着いてはいられない。

ヨット乗りに悪い人はいないと言われてもね。

やはり、美名城夏帆はただ者ではない。


ただ者ではないが、

そんなただ者ではない美名城夏帆が

俺なんかに期待をして、ここに連れて来たというんだ。


男として応えなくてどうする。


「作戦会議の前に先輩のお兄さんにお願いがあります」


「おう俺にか、なんだ?」


「ヨット乗らせてくれませんか?」


「え?」

真っ先に驚いたのは美名城夏帆であった。


「なぜ急にヨットに乗りたくなったんだ?」


「それはですね、

一つパフォーマンスの案が生まれまして・・・」



「ねぇ、私の眼は正しかったでしょ」


「だいぶ序盤でバテてたけどな・・・・

夏帆が男を連れてくるなんて、

あいつ以来になるか・・・」


「そうね。

まぁ彼は連れて来たわけではないけど・・・」


「そうだったな。

俺にはあいつとそっくりに見えるんだが」



「どうかしらね」



学校に戻ると

すでに今日の看板チームの作業は終わっていた。


美名城先輩と出会って

色々あったことを頭の中で振り返りながら

荷物をとりに教室へ戻ると、

そこには孝也が腕を組んで座っていた。



「あれ、一人か?

どうした、考え事か?」


「どうしたもこうもない。

何か報告することがあるんじゃないか。」


一体何を報告しろと言うのだろうか。


「報告?」と首をかしげると


「さっき美名城先輩とタロちゃんが二人で

学校を出るところを見たんだってさ」


突如後方から駿が事情を語った。



「そういうことだ。一体どういうことなんだ?」

孝也、いや将軍様がご立腹であるようだ。


駿が太郎に聞こえるように

「孝也が崇拝してやまない美名城先輩だからね」

と告げ口した。


「てっきり看板チームで

準備に勤しんでいるのかと思いきや、

あろうことか、かの美名城先輩と外出とは何事か?」


太郎はこのとき

面倒ごとには巻き込まれたくないんだが、

真実を説明してやらないと

この先もっと面倒ごとになりなりそうなことを察していた。


「あれはな」


そう言いかけた瞬間、


「タロちゃん、さっきはありがとね。

デートみたいで楽しかったよ。」



空気が凍った。



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