第23話 ヨット乗りは二十代のおじさん?

美名城夏帆の

突拍子のない思い付きと決断力の早さには

まともな返事をする余裕すら与えてはもらえなかった。


結局、海辺に勢いで来てしまった。

しかも美名城夏帆のチャリで二人乗り。無論漕いだのは俺だ。


設置班の人には何の断りもなく来てしまったが大丈夫なのだろうか。


夏休み期間中とはいえ、みんな体育祭に向けて

頑張っているというのに、思いつきでヨット乗りに会いに来るなんて。


絵画班や塗装班のリーダーはもちろん、

看板グループの人にバレたらただ事ではない。


この状況は設置班リーダー(取締役)という

特権の横領にしか感じないが、

何の考えもなくヨット乗りに会いに来たのだろうか?


確か美名城夏帆は言っていた。


俺が忙しいから来たのだと。



「タロちゃん早く!こっちこっち!!」



俺にはどうやら美名城夏帆の勢いは止められそうにない。


この広い海辺に着いて、はや十分でヨット乗り・・・

詳しくは大海原に掲げるように黄色い帆を張るヨットに乗る男性を見つけた。


距離も少し遠くサングラスをしているため

年齢などは見分けがつかないが、ヨットに乗るぐらいだ。

若者だろう。


俺はその若者のヨットさばきを眺めていると



「おーい、おじさーん」



と大声でヨット乗りに手を振った美名城夏帆。

するとヨット乗りがこちらに気付いて、

「おーい」と返事が返ってきた。


いやいやいや、待て。

おじさんはまずいだろ。

俺の見立てだと若者だぞ。

視力エリートの俺がそう察するのだから間違いない。

美名城夏帆の声量と言動でこちらに気付いてしまったではないか。



やばいやばいやばいやばーい!!




「先輩、帰りましょう。」


最悪の事態を想定して言うと

「タロちゃん何言ってるの?

ほら、おじさんこっちに気付いて近づいて来てるよ♪」


そうも穏やかにワクワク感を出して言われると

こちらとしても調子が狂わされる。


「先輩、

あれはおじさんじゃないですよ。

若者ではありませんか?」


「大丈夫よ、心配しないで。」


いや、そう言われてもね。


「私たちより年上なら

若者もおじさんも同じよ」

とんでもなく強引な解釈だ。

今すぐ逃げた方が

身を守るためには正しい選択だろうが、

美名城夏帆と一緒にここまでついてきてしまった以上、

男として覚悟を決めた方がいいのかもしれない。


そして、・・・ヨット乗りが海辺に到着した。


「おうおう、誰がおじさんだって?」


やっぱり聞こえてたのかーー


「あなたをおいて他にいないわ」

美名城夏帆――。頼むからこれ以上口を開かないでくれー。


「俺はまだ二十代だぞ」


「あ、思ってたよりおじさんだ」

・・・・口がすべってしまった。最悪だ。

美名城夏帆の勢いで

俺まで開いてはいけない心の声を口にしてしまった。

生きた心地がしない。


「ふははは」

ヨット乗りは笑い出した。

頭にきておかしくなったのだろうか?

恐る恐る

「どうかされました?」と尋ねると


「どうされましたもこうもないよ。

君は選ばれたんだ。」


・・・・選ばれた?何がなんだか・・・


「夏帆のパートナーに」


「あ~、美名城先輩のパートナーね。

・・・・Pardon!?」



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