1-15 僕の願い

7月となり、外は夏らしい暑さになっていた。

土曜日の昼下がり、お母さんに買い物を頼まれた。夕ご飯のオムライスに、必要な材料を買い忘れたらしい。お母さんの作る料理の中で一番オムライスが好きだった。暑くて外に出るのは嫌だったけど、オムライスのためだと思い、行くことにした。

買い物に向かう途中、偶然、凜ちゃんと藤澤君が仲良く手を繋いでいる光景を見かけた。二人にばれないように近くにある物陰にとっさに隠れた。凜ちゃんは、いつもより照れているように見えたけど、藤澤君の表情は、教室で見るのと変わらない気がした。


藤澤君は、楽しいのだろうか、、、


藤澤君は、幸せなのだろうか、、、


自分の中にドロドロした感情が溢れる。祝福したはずなのに、いざ二人が付き合う姿を見てしまったら、どうしても負の感情が自分の中を支配しようとする。もし僕と付き合ったら、もっと幸せになるのに。そんな傲慢な感情が溢れてしまう。付き合えるはずもないのに、、、

僕は、何も考えないようにして、買い物をさっさと終わらせた。

帰り道、どうしても二人の姿が目に焼き付き、離れない。


僕も藤澤君と付き合いたい、、、

僕もみんなのように普通に恋愛がしたい、、、

一度でいいから好きって伝えたい、、、

それが許されない恋だとしても、、、


重たい感情が心を支配する。一度、気分転換をしようと思い、いつもとは違う道で帰ることにした。小高い丘を目指して歩く。丘の上には、綺麗な公園があり、たくさんの木々が並んでいる。春になると桜が満開になり、地元ではちょっとした桜の名所になっている。久しぶりに訪れた公園は、何一つ変わっていなかった。木をよく見てみると、樹齢が長そうな木が多かった。

公園を散策すると、木々に囲まれた一つのベンチを見つけた。


僕は、そのベンチに座る。


木々がざわめき、僕を見つめている気がする。

どこからか優しくて、淡い歌が聞こえてくる。


いつしか、葉っぱが僕に優しく降り注いだ。



まるで、僕を包み込むように、、、



気がつくと、お花畑の上に立っていた。明らかに今までいた場所とは違う。どこかわからないのに温かくて居心地がいい場所だ。

辺りを見渡すと一つの大きな木がそびえ立ち、神々しい光を放っている。

見た瞬間、美術室にあった『願いの木』だと感じた。

僕は、近くまで進み、『願いの木』の前に着く。

近くで見るとますます大きくて立派な木だ。



木が、僕に願いごとを聞いている気がする。



目をつぶり一人願う。



「みんなと同じように普通に恋愛がしたい」



僕の願いに応えるように、風が吹き、木がざわめき始める。

葉っぱが優しく降り注ぎ、僕の周りを取り囲む。


いつしかお花畑が葉っぱで作られた階段に変わる。


僕は、自分の意思とは関係なく、歩き始める。


一歩、そして、また一歩、、


葉っぱの階段を一段一段踏むにつれて、何かを失っている気がした。


最後に眩い光に包まれて、、、、





気づくと、病院のベッドの上だった。

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