イントロバートガール·シヴァルリィ～無気力少女の異世界冒険記

第百四十二話 我々の理想郷

「“コントロール”だと?」

ワルキューレは、歪（ゆが）めた顔のままソニックを拘束（こうそく）している光（ひかり）の枷（かせ）を締（し）め上げた。

それでソニックの手足の骨（ほね）が折（お）れたのか、ゴキッと鈍（にぶ）い嫌（いや）な音が部屋に響（ひび）く。

「なんと馬鹿（ばか）げたことを言うのだ!」

怒鳴（どな）り始めたワルキューレは、ソニックに自分の顔を近づけて話を続ける。

我々（われわれ）は愚者（ぐしゃ）の大地（だいち）の住民（じゅうみん）のことなど知ったことではない。

それなのに、住民たちをコントロールするために規律（きりつ）を徹底（てってい）し、力（ちから）で押さえ付けるなど、どうして考えるのだと。

「我々が望（のぞ）むのは、愚民（ぐみん）どもが自（みずか）らの意志（いし）で服従（ふくじゅう）することだ話したばかりだろう!」

締め上げる枷の部分から血が流れ、皮膚（ひふ）が裂（さ）け始めている。

やめてよぉ……。

今のソニックは夜とは違（ちが）って、傷（きず）がすぐに治（なお）らないんだよ……。

ワルキューレは、痛（いた）みで意識（いしき）を失（うしな）いそうなソニック向かって、容赦（ようしゃ）なく言葉をぶつけていった。

「愚民どもは女神さまの恩恵（おんけい）があってこそ初めて自由（じゆう）になれる。恩恵――規律の先に自由と解放（かいほう）。さらに規律とは秩序（ちつじょ）だ。そしてそれを行（おこな）うのが権力（けんりょく）であり、権力とは女神さまで我々は権力の司祭（しさい）なのだよ」

ワルキューレはそういうと、指（ゆび）をパチンと鳴（な）らしてソニックの拘束（こうそく）を解（と）いた。

彼女にどういう意図（いと）があってソニックのことを解放（かいほう）したのかはわからないけど。

自由になったソニックは肉体的（にくたいてき）にも精神的（せいしんてき）にもボロボロで、とてもじゃないけど動けそうになかった。

だけど、ソニックの目はまだ死んでいない。

まだワルキューレに屈服（くっぷく）していない。

すごく苦（くる）しそうだけど、彼の眼差（まなざ）しはワルキューレをしっかりと捉（とら）えていた。

「どうだ吸血鬼（きゅけつき）? 自由になった感想（かんそう）は? それが女神さまの恩恵だ」

「恩恵だと? 支配（しはい）の間違（まちが）いじゃねえか」

「では貴様風（きさまふう）に言おう。我々が行う支配とはどのようなことを言うのだ? すでに身をもって知っているとは思うがな」

「……苦痛（くつう）を与（あた）えることだ」

「そうだ。口だけの服従（ふくじゅう）などに意味（いみ）はない。その者が苦（くる）しんでいることがわかって初めて、女神さまへの信仰（しんこう）が証明（しょうめい）される」

「そんな神に……いつまでもついていくわけがねぇ……」

ソニックは呻（うめ）きながらもワルキューレに言い返す。

ぼくとしては演技（えんぎ）でいいから、女神に従（したが）うふりをしてほしい。

でも、ソニックはそれができない性格（せいかく）なんだよね……。

そういう意味では、ソニックはビクニ以上に子供だよ……。

「ふむ。貴様は愚者の大地出身（しゅっしん）だったな。ならばわかるだろう? どんな状況（じょうきょう）になろうが、人間も亜人（あじん）も他者（たしゃ）を攻撃（こうげき）する快感（かいかん）は変わらないということをな」

ワルキューレに鼻（はな）を鳴らすと、ソニックに人差（ひとさ）し指を突き立てた。

そして先ほどとは違い、まるでこれから眠（ねむ）る赤子（あかご）に物語（ものがたり）でも聞かすように話し始めた。

だからこの世界には攻撃対象（たいしょう）が必要（ひつよう）なのだ。

その対象とは、この愚者の大地の外へいる者たちであり、女神さまに逆らう反逆者であり、住民たちは罵倒（ばとう）を続けることで快楽（かいらく）を得（え）る。

さらに我々から治療（ちりょう）を受けた者たちは、この部屋で自由と解放を獲得（かくとく）し、女神さまの足元（あしもと）へひざまづく。

そうすることで初めてこの世界での安泰（あんたい）と生きる権利（けんり）を手に入れることができるのだ――。

と、興奮（こうふん）していながらも、とてもた穏（おだ）やかな口調（くちょう）で言っていた。

それを聞いたソニックは――。

「てめぇらは……間違っている……」

傷（きず）だらけで痛みに震（ふる）える体を起こして、ワルキューレの目の前へと立ち上がった。