第279話 すぐそこまで
「え……? こんな事も出来るの……?」
「クルルル!」
昼食を食べ終えた後、ユランくんにドラゴンに仕込んだ芸をお披露目。
ハルトとユウマも加わり、まるでお遊戯会の様だった。それを見たトーマスさん達は相変わらず唸ってたけど……。
「どらごんさん、これでおうとに、はいれます!」
「もんばんしゃんに、おちえるの!」
「門番さん?」
ハルトとユウマの言葉にユランくんは首を傾げていたけど、説明するとなるほど、と納得してくれた。そして、この子の為にありがとうとお礼を言われてしまった。
教えたのは単純に楽しいからっていうのもあるんだけど、この子は危なくないって知ってほしかったから。
「ん~……。ユランくんが寝たままだったら僕がしようと思ってたけど……。トーマスさん、ユランくんが合図を出した方がいいですよね?」
「……そうだな。その方があちらも納得するだろう」
「ぼ、ボクですか……!?」
もしあのままユランくんの体調が悪かったら、代わりに僕が門番さんたちに見せようと思っていた。
だけど、ちょっとふらついたりはするけど、今は顔色も良くなってるし……。それに、ユランくんがあの子をちゃんと言う事を聞かせている様に見せないと、いざという時にボロが出てしまいそうだ。
「僕たちはあの子に手で合図を出すだけだから、大丈夫!」
「ホントに……?」
「ね? 大丈夫だもんね?」
「クルルル!」
ほら、この子も大丈夫だって言ってるみたいだ!
「よ~し! じゃあ、早速始めよう!」
「ゆらんくん、がんばって、ください!」
「おぅえんちてりゅね!」
「は、はい……! お願い、します……?」
「クルルル!」
皆の声援を受けて、いざ開始!
*****
「ふふ、また楽しそうな事してたわね?」
「はい! これで完璧です!」
「楽しかったです!」
森を走る馬車の中、僕とユランくんはにんまりと笑みを浮かべる。
ユランくんは自分に出来るのかと不安そうだったけど、いざ始めてみるとドラゴンが合図を読み取ってすんなり成功してしまった。
その後、合図の順番を変えたりしても全部成功! この子は元々、頭のいい子なのかもしれない……!
これなら自信を持ってお披露目出来そうだ!
「ねぇ、ユランくん。この子には名前は無いの?」
僕の目の前には、楽しそうにクルルルと鳴きながらユランくんに撫でられるドラゴンが。こうやって見ると、ユランくんに甘えているのがよく分かる。
「名前ですか? ボクの村では、一人前に空を飛べる様になるまでは名前を付けないと聞きました。だからこの子もまだ。呼ぶときは基本的に口笛か指笛ですね」
「へぇ~、そうなんだ……。あ、じゃあ従魔の契約? とかはその時に?」
キースさんにアドルフの事を教えてもらった時も、冒険者になって村を出る時に従魔契約したって言ってたからなぁ。魔物と間違えて討伐されたらいけないって……。
サンプソンもきっと、ハワードさんの家の誰かが契約してるんだろうし……。
「う~ん……。契約はご先祖様がしてたみたいだけど、いま村にいる人たちはしてないですね……。村では五頭のドラゴンと暮らしてるけど、その名前もボクの知らない世代の人が付けたものだし……」
「そんなに前の人が付けてるの?」
「そうですね。だからボクも村の爺様たちも、ドラゴンとは契約してないので話せません」
ね? と言いながら、ユランくんの膝で甘えているドラゴンに話し掛けている。傍から見れば、十分に会話している様にも見えるんだけど。
ハルトたちもユランくんと一緒にドラゴンを撫でて満面の笑みだ。
「いま村にいるドラゴンの中で、一番長命なのは一千年は生きていると教えられました」
「え、一千年……!?」
「本当かどうかはボクも分からないんですけどね? まぁ、確かに、一番お爺ちゃんだしなぁ~って」
「おじぃちゃんの、どらごんさん、ですか?」
「じぃじ~?」
「アハハ! そうだよ。お爺ちゃんだけどね? 一番大きいんだよ~?」
「おっきい、どらごんさん……!」
「しゅごぃねぇ……!」
そう言って、なぜかトーマスさんを見るハルトとユウマに、ユランさんは笑いが堪え切れなかったみたい。二人にキラキラとした眼差しを向けられている御者席のトーマスさんも、声が聞こえていたのか視線を感じたのかこれには苦笑いだ。まぁ、後ろでオリビアさんが笑ってるけどね。
「お爺ちゃんっていうのは、見た目で分かるの?」
「見た目と言うか……。もう目がほとんど見えなくて飛べないらしくて、いつも岩場で日向ぼっこしてますね。動きも他のドラゴンよりゆったりしてます。あとその眼がね、とっても優しいんですよ。見えてない筈なんですけど、ボクたちが来たら笑ってるみたいに目を細めます」
「へぇ……! そうなんだ……!」
そのお爺ちゃんのドラゴンの餌は、この幼いドラゴン以外の他の三頭が狩って来るらしい。
いいなぁ~! お爺ちゃんのドラゴンかぁ~……。
僕も一目会ってみたい……。
「もしボクの村に来る事があれば、案内しますね!」
「本当!? やったぁ!」
「ぼくも、どらごんさん、あいたいです!」
「じぃじのどらごんしゃん! ゆぅくんもあぃちゃぃ!」
「いいですよ! 可愛いお客さんが来たと、きっと喜びます」
ハルトもユウマも、お爺ちゃんのドラゴンに会えるかもしれないと大興奮だ。
向かいに座るオリビアさんにも嬉しそうに報告している。
「二人とも可愛いですね」
「自慢の弟ですから! レティちゃんもメフィストも、皆可愛いです!」
「あぃ~!」
「なるほど……! 確かに」
「おにぃちゃん……!」
僕の言葉に頷いてくれるユランくん。僕は嬉しいんだけど、向かいに座るレティちゃんの顔がまたほんのり赤くなっている……。オリビアさんもそれを見て笑わない様にグッと頬に力を入れてるし、メフィストもオリビアさんの腕の中からレティちゃんをジ~っと見つめている。
ハルトとユウマにも、れてぃちゃん、おかお、まっかです! と指摘され、ぷぅと頬を膨らませているけど、その姿もとっても可愛い。
「ほら、皆! 道が変わった。夜には着けそうだ!」
「えぇ~! ほんとう?」
「ゆぅくんもみる~!」
ハルトとユウマはコケない様に、馬車の中を慎重に這いながらトーマスさんの後ろへと移動する。深い森を出ると視界が一気に開け、先頭を走るブレンダさんの少し先に、漸く整備された道が見えた。
このまま行けば、王都を囲う
「ユイトくん、楽しみね?」
「はい!」
待ちに待った王都! やる事はたくさんあるけど、どれも楽しみな事ばかりだ。
それに……、
( アレクさん、手紙読んでくれたかな……? )
イドリスさんの家に泊まりに行く途中で出した手紙。
二、三日前には届いてる筈だけど、アレクさんがもし依頼でいなかったら……。
いや、そもそも会えるかどうかも分からないもんな……。
「おにぃちゃん」
「……ん? どうしたの? レティちゃん」
僕を呼ぶ声にふと顔を上げると、レティちゃんが笑みを浮かべている。
「おうとについたら、おかしづくり、おしえてね!」
「……うん! 色々作ろう!」
「たのしみ!」
そうだ。まだ着いてもいないんだし、王都には暫く滞在する。レティちゃんやハルトたちも楽しみにしているし、予定はたくさん詰まってる。今から不安になってても仕方ない。
……だけど、アレクさんの手紙にあったあの言葉を思い出して、ほんの少しだけ期待してしまう自分がいる。
“ 王都に来たら、案内するから。また二人でデートしような ”
滞在中に、一目でも会えるかもしれないもんね……!
期待と不安を胸に、僕の王都での生活が、すぐそこまで来ていた。
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