第230話 伝える覚悟


「「ユイト(くん)、一体何したんだ(の)!?」


 トーマスさんとオリビアさんのあまりの慌て振りに、僕は何かしたっけ? と首を傾げる。

 ヴァル爺さんのお店で買い物をして、教会に行って料理教室みたいな事はしたけど……。特に何もしてない様な……。


《 ゆいと、なにしたの~? 》

「ん~? 何したか分かんなくって……」


 ノアがポンっと姿を見せると、家に残っていた妖精さんたちが次々にノアの下へと集まってくる。

 ハルトの肩にも知らぬ間に一人乗っていた様で、楽しそうにノアたちの下へ飛んでくる。


《 ふたりとも、おかえりぃ~! 》


《 きょうはね、れてぃのくっきーたべたよ! 》


《 ぼくたちのぶんは~? 》


《 ちゃんとあるよ! 》


《 やったぁ~! ゆいと、はると、くっきーたべよ! 》



  ──あ、



 妖精さんたちの楽しそうな会話を聞いて、僕は恐る恐るお二人の顔を見る。

 トーマスさんとオリビアさんは頭を抱え、ハァ~……、と深い溜息を吐いた。






*****


「きょうはねぇ、みんなとおしゃべりちたの! たのちかったねぇ!」

「あ~ぃ!」


 楽しい楽しい夕食の時間、ユウマはレンジで作った茶碗蒸しを頬張りながら、妖精さんたちとお喋り出来たと、出掛けていた僕たちに嬉しそうに教えてくれる。


《 ゆうま、おはなしじょうずだったの! 》

《 えほん、またきかせてね! 》

「いいよ~!」


 ユウマと妖精さんたちの可愛らしい会話に、トーマスさんとオリビアさんは頭を悩ませながらもいつも通り唸っている。


「ぎるどで、くんれん! たのしかったです!」

《 はると、かっこよかったんだよ! ゆみも、じょうず! 》

「えへへぇ~! ぼく、もっと、がんばります!」

《 ぼくも、おうえんするね! 》


 ハルトの肩には、内緒でギルドについて行った妖精さんが。褒められて照れるハルトに、トーマスさんとオリビアさんは頭を、以下略……。


「おしえてもらったくっきー、じょうずにできたの!」

《 とっても、おいしかった! またつくって! 》

「ほんと? うれしい……! またたべてくれる?」

《うん! たのしみ!》


 その手元には、よくレティちゃんの傍にいる妖精さんがちょこんと座っている。その様子に、トーマスさんとオリビアさんは以下略……。


《 えほん、おもしろかったね? 》

「あ~ぅ!」

《 こんどはなにかなぁ? たのしみだね? 》

「あぃ~!」


 僕が抱えるメフィストの目線の先には、以前メフィストから蒸しパンを受け取った妖精さんが。その優しい声と口調から、どうやらメフィストを可愛い弟だと思っている様子。トーマスさんとオリビアさん以下略……。


「あはは……。皆、会話出来るようになって、嬉しいね……?」



 満面の笑みで頷く妖精さんたち。

 トーマスさんとオリビアさんの視線を痛いほど感じながらも、女神様、本当に話せるようにしてくれたんだと実感した……。






*****


「ふぅ……。それで? どういう事か、説明してもらえるか?」

「はい……」


 ハルトたちが寝静まった時間帯。ダイニングにはトーマスさんとオリビアさん、僕と心配してついて来たノアの四人が座っている。

 オリビアさんも紅茶を飲みながら、心を落ち着かせている様だ。


「えっと……。どう言えばいいか……」


 女神様の事を言って、信じてもらえるだろうか……?

いや、お二人は優しいから、信じてもらえたとしてもどうして僕たちに? と言う疑問は残る筈……。やっぱり、僕たちがこの世界の住人じゃない事から説明しないといけないかも……。だけど、気持ち悪がられたりしたらどうしよう……。

 そんな事が僕の頭の中をグルグルと巡っている。


《 ゆいと、ぼくがせつめいしようか……? 》


 心配そうに僕の顔を覗き込むノア。あの時、女神様に僕たち兄弟のことを説明されたから事情を知っている。

 だからかぁ~! と魔力が無い事に納得していたけど……。


「ん~ん、大丈夫。心配してくれてありがとう。僕がちゃんと説明するよ」

《 ほんとう? 》

「うん」


 僕たちの会話に、トーマスさんとオリビアさんも神妙な顔になっている。


 やっぱり、お二人にはちゃんと言わなきゃいけないよね。


 僕は姿勢を正し、緊張を落ち着かせるため深く深く、二度、深呼吸をした。

 そして意を決し、口を開く。



「お二人に、僕たち兄弟の事で伝えておかないといけない事があります」



 僕の言葉に、今度はトーマスさんとオリビアさんが姿勢を正した。


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