第228話 クッキーと朗読会
今日は朝からユイトくんは村の散策、トーマスとハルトちゃんはギルドにお出掛け。
家に残ったのは私とレティちゃん、ユウマちゃんにメフィストちゃん。そして可愛らしい妖精さんたち。梟さんは今日も庭で日向ぼっこしているみたい。どうやらユイトくんが作ってる干しシイタケ? を守ってるみたいなの。
森に帰らなくていいのかしら、と心配になっちゃう程にのびのびしてるわ。
「めふぃくん、こっちで、あしょぼぅねぇ」
「あ~ぃ!」
お店の一角にラグを敷いて、ユウマちゃんはメフィストちゃんと妖精さんに絵本の読み聞かせをしてあげるみたい。お気に入りで何度も読んでいるからか、内容を暗記しちゃったみたいなの。
ユウマちゃん、ライアン殿下とフレッドくんが帰った後も他国の言葉も勉強してるみたいだし……。天才なんじゃないかしら……?
「おばぁちゃん、これでいい?」
「えぇ、完璧! 後はオーブンに入れてじっくり焼けるのを待つだけよ~!」
私はレティちゃんにクッキー作りを教えている真っ最中。
王都に行ったら、一緒に奴隷として捕まっていた魔族の人たちに食べてもらいたいんですって。
そんな事言われたら、私も教えるのに熱が入っちゃうわ!
王都に行くまでに、たくさん練習しましょうね!
「じょうずに、やけるかなぁ……?」
「心配しなくても大丈夫よ~! 焼き上がりが楽しみね?」
「うん!」
日に日に穏やかに笑う様になったレティちゃんに、今日も心が癒されるわ……。
「『ひとりぼっちのくじらは、さがしています。ともにいきる、なかまを』」
クッキーが焼けるのを待つ間、レティちゃんと一緒にユウマちゃんの読み聞かせ……、いえ、朗読会と言った方がいいかしら? 参加させてもらう事にしたの。
「『くじらは、このくにに、しあわせをはこび』」
「『ひとびとは、かんしゃし、いのりを、ささげます』」
メフィストちゃんも、妖精さんたちも、ユウマちゃんの声に耳を澄ませ食い入るように絵本を見ているわ。
「『そして、くじらはゆらりゆらり。くもをくぐり、ひろいそらを、ゆうがにおよぐのです』」
ユウマちゃんが挿絵をこちらに見せながら、その間も自分は一切見ずに台詞をスラスラと……。ちゃんと発音もしっかりしてるわ! トーマスが見たら泣いちゃうわね……。
『 空飛ぶ鯨 』
世界樹の朝露から生まれたクジラが、自分と友達になってくれる存在を探しながら世界中を旅する物語。
クジラが雲を潜ると、連日の雨に悩まされていた村に太陽が戻り、クジラが
人々に感謝されながらも、クジラは自分の“声”を聞いてくれる“神の愛し子”を探して世界中の空を泳いで旅をする。
四百年程前に賢者が書き記したと云われる伝記を基に、国中の子供たちに愛される物語へと生まれ変わった。
「『そして、くじらはしあわせに、くらしました。おしまい』
とっても上手よ! そう思いながら拍手を送ると、ユウマちゃんはありぁと、とはにかむの。メフィストちゃんに妖精さんたち、レティちゃんも私の真似をしてパチパチと小さな手で拍手を送る。とっても可愛くて思わず唸っちゃうわ!
「おばぁちゃん、“ かみの いとしご ”って、なぁに?」
レティちゃんが絵本を聞きながら気になったみたい。メフィストちゃんを膝に乗せて私に尋ねてくる。ユウマちゃんも妖精さんたちも興味津々ね。
「昔の伝記でね、生きとし生けるもの、万物の声を聞く者って意味らしいわ」
「ばんぶつ?」
「いきとち?」
むちゅかちぃねぇ、と首を傾げるユウマちゃんに思わず笑みが零れてしまう。
「ふふ! ちょっと言いにくいわね? こんな風に、妖精さんや梟さんたちと一緒にいても、普通なら契約者以外は言葉は分からないでしょう? だけどね、“神の愛し子”は皆の言葉が分かっちゃうんですって!」
「すごい……!」
「しゅごぃねぇ……! ゆぅくん、みんなとおともらち、なりたぃ!」
「ゆぅくんにぴったりだね!」
こえがきこえたら、なにをする? なんて、可愛い相談をしている子供たち。
万物の声が聞こえるなんて、夢のようなお話よね……。確かに、ユウマちゃんならとっても喜びそうなスキルだわ!
そんな事を考えていたら、どうやらクッキーが焼けたみたい。バターの焼けるいい匂いが漂ってきた。
「レティちゃん、そろそろじゃない?」
「うん! わたし、みてくる!」
メフィストちゃんをゆっくり降ろし、レティちゃんはソワソワとキッチンの中へ。私も後ろから付いて見に行くと、丁度いい具合に焼けたようね!
「おばぁちゃん、とっても、おいしそう!」
「本当ね! レティちゃんの作ったクッキー、とっても美味しそうだわ!」
「えへへ……!」
ん~~~! はにかむ笑顔がとっても可愛い!!! 心の中でジタバタしちゃうわ!!!
「みんなで、たべよ!」
「そうね! ちょっと早いけど、おやつにしましょうか!」
皆の分の牛乳を用意し、今日はお庭でおやつタイム。
おやつを持って外に出ると、梟さんがパチリと片目を開けてこちらを見ているの。だけど眠たいのかウトウトしてる様子。ふふ、後でちゃんとあげるわね。
大きくなった庭の木の根元にシートを広げ、キッチンから持って来たおやつに牛乳を準備。
メフィストちゃんには栄養満点の粉ミルク。
妖精さんたちも嬉しそうに飛び回り、お庭でちょっとしたピクニック気分ね!
「じゃあ、みんなで、いただきます!」
「いただきます!」
「いたらきま~ちゅ!」
「あ~ぷ!」
レティちゃんはユウマちゃんが食べるのをソワソワしながら見守っている。いいにお~ぃ! とにこにこしながらクッキーを手に取り、小さなお口にパクリと頬張るユウマちゃん。
「ん~~~! おぃちぃ~~~!」
「ほんと? うれしい!」
にこにこ頬張るユウマちゃんと、満面の笑みを浮かべるレティちゃん。その様子が可愛くて、トーマスにも見せてあげたいと心の中で叫んだわ!
そして私の腕の中で美味しそうにミルクを飲むメフィストちゃん。こんなに小さな体なのに、どんどんミルクを飲んじゃうんだもの。このミルクは一体どこに行くのかしらと不思議で仕方ないの。
背中をトントンするとケプッと可愛い音が。満足そうな表情に、私も心が満たされる。
「あらあら、皆も美味しいのね?」
さっきから妖精さんたちは羽をパタパタとはためかせて、クッキーを頬いっぱいに詰め込んでいる。そんなに詰め込むと大変よ? 牛乳をスプーンに一匙掬い、妖精さんの口元へ。コクコクと慌てて飲んでいるから、やっぱり詰め込み過ぎて苦しかったのね? 意外とおっちょこちょいで可愛いの。
《 はぁ~! ありがと! 》
「いいえ、次は気を付けてね?」
「え?」
「あれぇ~?」
可愛らしい声に返事をしたけど、聞いた事のない声だったわね……?
レティちゃんとユウマちゃんも、お互いに顔を見合わせて首を傾げている。
《 くっきー、おいしい! 》
《 わたしも、おかわりしてい~? 》
次々と聞こえてくる可愛らしい声に、私は一気に悟ったわ。
あ、ユイトくん何かしたわね、って……。
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