第78話 宣伝効果は継続中です?


「ユイトくん! もうすぐパスタ茹で上がるわ!」

「分かりました! こっちでソースやっときます!」

「おにぃちゃん、おむれつせっと、ちーずいり、ふたつ、です!」

「はぁーい! カルボナーラ上がりましたー!」

「あぁ、持って行こう。ビフカツサンド三つ、追加注文だ」

「はぁーい! オリビアさん、揚げ物お願いします!」

「三つね、了解よ! コロッケ出来上がったわ~!」

「ころっけ、もって、いきます!」

「ハルト、気を付けてね! お願いします!」

「はい!」

「お待たせ致しました。二名様ですね、こちらへどうぞ」

「「「「いらっしゃいませ(しぇ)~!」」」」



 覚悟はできてたけどね、冒険者の人たちがこんなに来るなんて聞いてないよね。



 お店が忙しくなったら、ハルトとユウマは部屋に行く約束だったんだけど、そのまま続行でお客様の相手をしてもらっている。

 二人の昼食の時間も予定を超えてしまったので、一人ずつ交代でオムレツとコロッケを食べてもらった。

 お昼寝の時間もお手伝いすると言って、オリビアさんが涙ぐんでいたっけ。

 トーマスさんもスマートにこなしてくれるので、外に待ってるお客様がいるなんて誰も気付かないよね……。

 おかげで僕とオリビアさんは、調理に専念出来たんだけど……。


「おきゃくさま、おひやを、どうぞ!」

「おきゃくちゃま、おて…、ふき! どぅじょ!」

「「ありがと~~!」」


 フローラさんたちとカーターさんたちは、食べてすぐに退店。悪い事したなぁと思ったけど、二組ともこれから予定があるらしい。また来るね、と言って手を振ってくれた。

 去り際、トーマスさんがソフィアさんに明日はお邪魔します、と伝えたらお昼は腕を振るうわね、と笑っていた。

 どんなお料理が出るのか今から楽しみだ。


「おいおい、オレたちいて大丈夫か? 帰った方が良さそうじゃねぇか?」


 あまりの盛況振りに、いつもの強気な態度はどこへ行ったのか。イドリスさんが二度目のミートパスタと四度目のビフカツサンドを食べながらオドオドしている。


「え? なに言ってるんですか! まだブレンダさんが持ってきてくれた食材たくさん残ってますよ?」

「でもよぅ~……」

「気にしないでいいわよ? こんなにお客様が来る事、滅多にないんだから~!」

「しかし冒険者が多い様ですね?」

「この近くで何かあったのか?」

「あ! ハルトとユウマのあれのせいじゃねぇか? ほら、今入ってきたヤツも座ってるヤツも。アイツら、お願いされてたろ?」

「「「「あぁ~~~…」」」」


 皆でなるほど、と納得してしまった。よく見ればトーマスさんが笑顔で来てくれたのか、と話しかけてるし、ハルトとユウマに来たよ~、と声を掛けている。


「あの子たち、将来有望では……? 声を掛けておきましょうか」

「止めとけ、止めとけ。トーマスとオリビアに殴られるぞ」

「……。私も命は惜しいのでね、今回は止めておきましょう」

「ちょっと二人とも? そんなにお仕置きされたいのね?」

「「すみませんでした……」」


 オリビアさんに素直に謝るイドリスさんとコンラッドさんに、僕とブレンダさんは二人でこっそり笑ってしまう。ちなみに、ブレンダさんは五度目のフルーツサンドを黙々と頬張っている。


「にぃに~! ちゅぅもん、おねがぃしましゅ!」

「はぁーい! どうぞ!」

「おむれちゅと~、かるぼなぁら! です!」

「オムレツはチーズ入りだった?」

「えっとぉ……」

「チーズ入り~……!」

「ちーじゅぃり!」

「はい、了解です!」


 遠くの席で、お客様がユウマに聞こえる様にこそっと? チーズ入りと教えてくれた。ユウマはその人の席に行ってありぁと! とお礼を言っている。僕とオリビアさんも、そのお客様にペコっとお辞儀。他のお客様もにこにこして見守ってくれているので有難いなぁ。



 オリビアさんと二人でキッチンに籠ってしばらく経つけど、まだ外に並んでるのかな……? 前回のイドリスさんの時と同じくらい料理を作っている気がするし……。


「トーマスさん、外で待ってるお客様、あと何組ですか?」

「あと二組だ。他にもいたが、また後日食べに来ると言ってたよ」

「あぁ~~、そうなんですね。悪い事しちゃったなぁ……」


 今日はオリビアさんと僕の二人だったら、もっと待たせてただろうな……。そう思うと、少し落ち込んでしまう。


「そう落ち込むな。ハルトとユウマに会いに来たらしいから、二人を撫でて満足してたぞ?」

「そうだぞ、あんま気にすんなよ! オレなんかいっつも怒られてるぜ?」

「イドリスさんはもう少し、ギルドの代表という自覚を持った方がいいのではないかと……」

「な? こんなカンジだ!」


 そう言って、僕におどけてウインクしてくれたイドリスさん。


「ふふ、ありがとうございます。ちょっと元気出ました」


 ちょっとかよ! と、またおどけながら笑ってくれた。






*****


「はぁ~~! やっと終わったわね! お疲れ様!」

「今日は凄かったですね……。トーマスさんに手伝ってもらって助かりました……!」


 イドリスさんたち以外のお客様が退店し、お店の閉店時間。

 九時課の鐘は少し前に鳴ったけど、今日は少しだけ延長した。


「ハルトとユウマもありがとう! 疲れて眠いでしょう?」


 今日は二人とも頑張ってくれたから、かなり疲れているはずだ。だけどこの二人がいてくれたから、お客様も文句を言わずに待ってくれていたんだと思う。

 入ってくる人たち全員、笑顔だったし。


「すっごく、たのしかった、です! また、やりたいです!」

「ゆぅくんも! いっぱぃきちぇくれて、うれちぃねぇ!」

「二人ともすごく助かっちゃったわ! もう立派な店員さんね!」

「はい! ぼく、てんいんさん、です!」

「ゆぅくんもね! てんぃんしゃん!」


 ハルトとユウマは、カウンターに座るトーマスさんとイドリスさんの膝に座って楽しかったとはしゃいでいる。皆、その姿を笑顔で見つめていた。



「今日は残ってもらってすみません。皆さん、お時間は大丈夫ですか?」


 そう、昨日ブレンダさんが持ってきてくれた食材で作ろうと思っていた料理を、実はまだ出せていないのだ。イドリスさんたちには予め伝えて、お腹に余裕を持たせてもらった。お腹いっぱいで食べれなかったら、ちょっと悲しいし……。

 さっきオーブンにセットしたし、もうそろそろ出来上がるかな?


「オレたちは大丈夫だけどよ、一体どうしたんだ?」

「実は今日、皆さんに食べてもらおうと思ってた料理が出せてないんです。すみません……」


 僕がそう言うと、皆さん首を傾げ不思議そうな顔をした。


「料理? メニューなら何度も注文したぞ……?」

「私も一通り、注文したが……?」

「そうですね。注文した品は、全て出されていたはずですが……?」


 三人は顔を見合わせ、また首を傾げている。


「ふふ。ユイトくんね、ブレンダちゃんが持ってきた食材で、メニューと違うものを出そうって計画してたのよ!」

「違うもの?」

「はい、遅くなっちゃったんですけど。トーマスさんもお替りするくらい美味しいんですよ」

「あぁ、あれは旨いぞ。是非食べてみてくれ」


 魔力酔いでしんどそうだったのに、体調が戻った途端にトーマスさんがお願いしてきたアレ!

 コーディさんも尻尾をブンブン振ってたし、間違いないと思う。

 ……あ、コーディさんが今日の事を知ったら、また拗ねたりしないかな? あの人、トーマスさん大好きだしなぁ……。


「もしかして、さっきからしてるこの美味しそうな匂いですか? トーマスさんのお墨付きですか……。興味深いですね……!」

「期待できるな! 楽しみだ!」

「おいおい! そんなこと聞いたら腹が空いてくるぜ! もったいぶらずに早く作ってくれよ!」

「はい、もうすぐだと思います。このあとに甘いものもありますからね」

「本当か!? やった……!」


 ブレンダさんは甘いものと聞いてそわそわし始めた。デザートももう少しメニューに加えてみるか、後でオリビアさんに相談してみよう。



「どうぞ、お待たせしました! ハンバーグの目玉焼きのせと、ハンバーグのトマトソース煮込み、そしてこちらはチーズバーガーです!」

「「「おぉ~~~!」」」

「さ、どうぞ! お召し上がりください!」

「「「いただきます!」」」



「……ん、おいし……」

「「うまぁ~~~~~~~いっ!」」

「もっと静かに味わえないんですか!」


 コンラッドさんに怒られながらも、イドリスさんとブレンダさんはハンバーグを美味しい美味しいと無くなるまでお替りしてくれた。ホント、どこに入るんだろう……?

 ちなみにコンラッドさんは、さすがに食べきれないとの事で、トマトソース煮込みを一つだけ。あとは甘いもののために空けておくそうだ。


「トーマスさんの分も、お店の材料で作ったのでどうぞ。お替りもありますよ?」

「お! 本当か! 羨ましかったんだ、ありがとう!」

「トーマスさん、ハンバーグ好きですもんね!」

「ユイトくん、私もお腹空いちゃったから食べてもいいかしら?」

「どうぞ! 席に座ってゆっくりしてください! 今日は仕込みもしなくていいですし!」


 そう、明日はお店の定休日! 仕込みもせずにゆっくりできるのだ!


「そうね! お言葉に甘えるわ。ハルトちゃん、ユウマちゃん、おばあちゃんを癒してくれないかしらぁ~~?」

「おばぁちゃん、おつかれさま、です!」

「ばぁば、がんばっちゃねぇ~!」 

「はぁ~~……! 生き返るわぁ~~……!」


 ハルトとユウマは、オリビアさんの頭をいい子いい子と撫でている。オリビアさんはテーブルに突っ伏しているが、とっても嬉しそう。今日は本当にお疲れ様です。


「おばぁちゃん、どうぞ! おいしい、ですか?」

「ばぁば、ゆぅくんもあ~んちてあげりゅ」

「幸せ過ぎてどうしましょう~~~……」

「オリビア羨ましいな! ハルト、ユウマ、おじいちゃんにもしてくれ!」

「おじぃちゃん、どうぞ!」

「うん! うまい!」

「じぃじ、ゆぅくんもあ~ん」

「あ~ん……、うん! こちらもうまい! 最高だな!」

「「やったぁ~~!」」


 イドリスさんとブレンダさんは笑っていたけど、この光景を初めて見たコンラッドさんは、信じられないとばかりに口を大きく開けていた。

 さ、ブレンダさんが食べ終わったのを見計らい、待望の甘いもの!


「もう皆さん、食べ終わりましたね? 次はこちらです!」


 僕がカウンター越しに差し出したのはフレンチトースト。ブレンダさんが持ってきてくれた食材の中に、ハニービーという蜂の魔物の蜜が入っていた。とっても美味しくて人気があるらしい。


 牛乳、卵に生クリーム、砂糖を少し入れて混ぜた卵液に、朝からジョナスさん自慢の食パンを浸しておいた。

 熱したフライパンにバターを入れて溶かし、食パンを弱火で焦がさない様にじっくり焼いていく。

 両面にキレイな焼き色が付けば、ふわふわのフレンチトーストの完成!


「ブレンダさんが持ってきてくれた蜂蜜と、生クリームも添えてあるので、お好みでつけながら召し上がってください」

「「「いただきます!」」」


 皆さんがフレンチトーストを一斉に口に頬張る。


「……ん、おいし……」

「うまぁ~~~~~~~いっ!」

「もっと静かに味わえないんですか! ……ん、ブレンダさん、どうされました?」


 先程と同様に、イドリスさんが叫んでコンラッドさんに叱られている。だけど今回は、ブレンダさんはずっと無言……。どうしたんだろう?


「ブレンダさん……? あんまり好みじゃな……」

「……て、くれ……」

「え?」


 あまりよく聞こえなかった。イドリスさんたちも、ブレンダさんを見つめて首を傾げている。オリビアさんたちも心配そうだ。

 すると、ブレンダさんが急に立ち上がった。


「ブレンダさん?」

「おい、ブレンダ? どうし……」



「このふれんちとーすと!!! 私に教えてくれ!!!」


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