第72話 わんちゃんとパンケーキ


 キースさんについていくと、そこには灰色の毛並みをしたもの凄く大きくて、尻尾をブンブンと振り回す大型犬が……!


「うわぁ~! わんちゃん……!」

「おっきいです!」

「わんわん! かあいぃねぇ!」

「わんわん……?」


 おばあちゃんちの近所で飼われてた、ゴールデンのリンちゃんより大きい……! わぁ~~! 久し振りにあの毛並みを堪能したい……!


「キースさん……、この子、触っても……、いいですか……?」


 ちゃんと許可を取らないと、いきなり触るのはダメだからね。


「怖くないの……?」

「えっ? もしかして触られるの、あんまり好きじゃない子ですか……?」

「……いや、大丈夫……。触ってもいいよ……」

「やったぁ~! ありがとうございます! ハルト、ユウマ、触っていいって!」

「「やったぁ~!」」

「じぃじ、おろちてぇ~」

「あ、あぁ……。ほら」

「わんわぁ~ん!」


 キースさんの許可を得て早速わんちゃんに近付くと、こちらに気付いて尻尾をブンブンと振っている……! 顔はハスキーっぽいけど、もっとシュッとしてるかな? どちらにせよ可愛い!


「二人とも、優しく撫でようね~!」

「はい! すごい……! かわいい、です……!」

「わんわん、かあいぃねぇ~」

「ワフッ!」

「「「かわいぃ~~~!!!」」」



「……トーマスさん、あの子たち、おもしろいですね……」

「いやぁ、ハルトとユウマは泣くかと思ったが……。嬉しそうだな……」


 喜んで撫でている僕たちの後ろでは、トーマスさんとキースさんがなにやら話しているみたいだったけど、この可愛いわんちゃんをかまうのに夢中で全く耳に入ってこなかった。

 お腹を見せてくれてる! 人懐っこい!

 それにしてもおっきいなぁ。犬だよね?


「キースさん、この子の名前は何て言うんですか?」

「……名前? アドルフだよ……」

「アドルフ! カッコいい名前だねぇ~!」

「あどるふ!」

「あどりゅふ~!」

「ワフッ!」

「「「かわいぃ~~~!!!」」」



 アドルフはキースさんの父親が可愛がっていたグレートウルフ? の子供で、キースさんとも幼い頃から家族同然に暮らしていたんだって。

 契約していないと魔物と間違えて殺されてしまうかもしれないから、キースさんが冒険者になったときに契約したと教えてくれた。

 討伐の時も、アドルフが森の中を走り回って魔物を集めてから仕留めると早く終わるらしい。


 あ、アドルフを触るのに夢中でパンケーキの事すっかり忘れてた……! でも犬に砂糖はあんまり良くないんじゃないのかな? チョコレートはダメって聞いたことあるし……。


「キースさん、やっぱり砂糖が入ってるんで、この子にはあんまり与えない方がいいかも知れません……」

「……そっか……。美味しいから、食べさせてあげたかったんだけど……。残念だね……」

「ん~、南瓜キュルビスとかさつまいもスイートパタータなら大丈夫かなぁ? ちょっとオリビアさんに訊いてきますね!」

「……え? うん……」


 僕はオリビアさんに訊きに店の中へ走っていく。久し振りにわんちゃんを触れてテンションが上がってしまったみたい。


「ユイトが走ってるのを初めて見たな……。ハルトとユウマも、そろそろ中に戻ろうか?」

「んーん! あどるふ、いっしょ、います!」

「あどりゅふ、かあいぃねぇ~」

「……アドルフ、よかったね……」

「ワフッ!」

「「かわいぃ~~~!!」」




 店内に戻ると、走ってきた僕にオリビアさんがびっくりしてる。あ、皆さん食べ終わってお皿を集めてくれてる! ありがとうございます!


「どうしたの? ユイトくん。そんなに慌てて……」

「オリビアさん、わんちゃ……、キースさんの従魔にパンケーキを作りたいんですけど、キュルビスとかスイートパタータならあげても平気ですか?」

「ん~? 従魔の事はあまり知らないけど……。牧場でも甘いお野菜はあげてるから大丈夫だと思うわ。もうお客様もこの子たちだけだし、作ってもいいわよ」

「わぁ! ほんとですか! ありがとうございます!」


 キースさんに大丈夫だと伝えると、フードの奥で笑顔を覗かせてくれた。ハルトとユウマはアドルフと一緒にいるみたいで、トーマスさんが傍で見てくれている。

 アドルフのために、美味しいパンケーキ作るからね!



 オリビアさんの許可も得られたので、早速パンケーキを再度作ります!

 さっきは生クリームが無くなって皆さんにお替りを作れなかったけど、わんちゃん用だから問題なし!

 手をキレイに洗ってから調理開始。


 材料は小麦粉、卵、薄めた牛乳、そしてキュルビスとスイートパタータ。キュルビスとスイートパタータは時間を短縮するためにあらかじめ薄く輪切りにしてお鍋で茹で、茹で上がったら角切りにして少し冷ましておく。

 卵は卵黄と卵白に分け、卵黄には小麦粉と薄めた牛乳を入れて混ぜておく。卵白は角が立つまで泡立てて、メレンゲが出来たら先程の卵黄と切った野菜を一緒に混ぜ、フライパンで焼いていく。

 焦げない様に気を付けながらじっくり焼き、ひっくり返して両面に美味しそうな焼き目が付けば完成。

 アドルフはいっぱい食べそうだから、何枚か多めに焼いておこう!


 出来たパンケーキを何枚も重ねてお皿に盛り、一本分のすり潰したバナナを添えてキースさんの下へ。お腹を壊すといけないので、生クリームはなしで。

 食べ終わっていたアーチーさんやダリウスさんたちも、面白そうだからと付いて来た。



「キースさん! お待たせしました~! これどうぞ!」

「……わぁ、こんなにたくさん……! ありがとう……! あげてもいい……?」

「はい! 野菜は細かく切ったんで、消化にはいいと思います」

「あどるふ、おやつ、きました!」

「おやちゅ~!」


 キースさんがパンケーキを持ってアドルフに近付くと、尻尾をブンブンと振りながら待ての状態でお利口に座っている。

 僕はアドルフがパンケーキを食べてくれるかな、と少し心配だ。


「……アドルフ、食べてみて……」

「……フン、フン……、……ガフガフッ」


 アドルフは差し出されたパンケーキの匂いをフンフンと嗅いだ後、すごい勢いで食べ始めた。その勢いに僕もダリウスさんたちもおぉ~っと声を上げる。

 量的には足りないと思うけど、皿を綺麗に舐め取り、長い舌でペロッと舌なめずりし完食。ご馳走さまなのか、足りないぞ、と言っているのかは分からないけど、ワフッと一鳴きし、しゃがんで見ていた僕のほっぺをベロンと舐めてきた。

 ハルトとユウマも同様に、ベロンベロンと舐められ大はしゃぎ。

 ……アーチーさんたちは、少し引いていた気がする。




 ダリウスさんたちは明日も依頼を受ける為、今度は隣村に行くという。全員が大食いだから、依頼をたくさん受けないとお金がすぐ底をつくと嘆いていた。ダリウスさんが一番食べている気がするんだけどね。大きいから仕方ないね。

 別れ際、トーマスさんに頭を撫でられてコーディさんがすっごく嬉しそうだった。尻尾がジュリアンさんにバシバシ当たっていたけど、よかったな、と言って諦めムードみたい。

 ジュリアンさんには頑張ってほしいなと思う。




「いやぁ、どの料理もすごく美味しかったです。また皆で食べに来ますね」

「はい! 是非いらして下さい。お待ちしてます!」


 ブラントさんたちは依頼でまたしばらくこの村には来ないらしい。少し寂しいけど、また来てくれるよね。

 キースさんとアドルフも、こちらを一度だけ振り返ったので、ハルトとユウマと一緒に大きく手を振って見送った。

 それにしても久し振りのわんちゃんは可愛かったなぁ~!

 明日のイドリスさんたちの予約も頑張れる気がする!












「……今日は、いっぱい喋った、から……、疲れた……」

「まぁ、よかったじゃないか。いい子たちだったな」

「……うん……。でも……、ユイトくんたち……、魔力が無かったよ……」

「魔力が? そんな事あるか?」

「……少ない、とかじゃ、……なくて、……全く、ない……」

「なんでしょう……? トーマスさんたちが引き取っているくらいだから、訳ありでしょうか?」

「……かも、……しれない。でも、何かあったら……、助ける……」

「ワフッ!」

「フフ、そうですね。私たちの事を見ても怖がったりしませんでしたし」

「なぁ~! ブラントなんかすぐ泣かれるのに、ぶらさんって! ブフフッ」

「ビリーはお仕置きがご所望の様ですね?」

「いったぁああ~~~!! ひどい!! 舌出すの止めて! 二つに割れてて怖いから!!」

「お前たち、少しは静かに歩けんのか……」










※ユイトたち兄弟はアドルフを最後まで犬だと思って接しています。

 “グレートウルフ”と聞いても犬種かな?くらいの感じ。

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