第56話 開店準備は完璧です
あれからオリビアさんの分の朝食は寝室へ運び、ハルトとユウマを呼んで、僕の目の届く様にお店のテーブルで朝食を食べさせる。
二人に昨日の残りだけどごめんね、と謝ると、美味しいから嬉しいと返ってきた。プリンも出すとすっごく喜んでくれた。
「ハルト、ユウマ。お兄ちゃん今から食材を買いに行ってくるけど、それまでお部屋で待てる?」
「うん、だぃじょうぶ!」
「ゆぅくんも! できりゅよ!」
「じゃあ、行ってくるけど、何かあったらオリビアさんにすぐ言うんだよ?」
「「はぁーい!」」
弟たちにいってらっしゃいと見送られ、僕は買い出しに走った。
*****
「じゃあ、トーマスさん寝込んでるのか?」
「そうなんです。疲れが出ちゃったみたいで……」
「そりゃ心配だなぁ……」
青果店のジョージさんに野菜を選んでもらいながら、僕は寝込んでいるトーマスさんの事を話していた。トーマスさんのそんな話は初めて聞いたって。やっぱりハルトの事でショックを受けたのかな……。
「ほら! 今日も美味しいの選んだからな、トーマスさんにもお大事にって伝えといてくれ」
「はい! ありがとうございます! ちゃんと伝えておきますね」
お代を払って、次のお店へと駆け足で急ぐ。
次はお肉屋さんでビフカツ用のお肉を多めに購入。頼んでおいた鶏がらも多めに貰う。エリザさんもネッドさんもトーマスさんの事を知って心配そうだった。
やっぱり寝込むのは初めてなんだって。
「今日は行くの止めておこうかしら……」
「あ、気にしないでください! 僕、来てくれるの楽しみにしてますね!」
「ふふ、ありがとう! じゃあ行かせてもらうわね!」
「はい! お待ちしてます!」
手持ちの買い物籠は、野菜とお肉でパンパンだ。一度お店に帰って、次は牛乳と卵だな。荷物を冷蔵庫にしまい、鶏がらは水に浸しておく。
ハルトとユウマの様子を見に部屋へ行くと、二人は仲良く絵本を読んでいた。僕たちがこの家に来た時にトーマスさんが買ってくれたもので、冒険者のお話だ。二人ともすごく気に入ってるみたい。
次のお店に行くと、ダニエルくんもフローラさんもやっぱり驚いていた。お店が忙しくなったら、事前に言ってくれたら次から配達も出来るよ、とダニエルくんが教えてくれ、暑いから体調崩しちゃったのね、お大事にと伝えてね、とフローラさんも心配な様子。
パン屋のジョナスさんに注文しておいた食パンとセットの白パンを受け取りに行くと、やっぱり心配そうにしていた。
皆、トーマスさんは元気なイメージなんだな。
トーマスさん、早く良くなるといいなぁ。
*****
「戻りました……。具合はどうですか……?」
買い出しを終えてトーマスさんの様子を見に行くと、まだ顔の赤みは引いていないがぐっすりと眠っていた。おでこには水で絞ったタオルがのせてある。
「さっき眠ったところなのよ……。ごめんなさいね、一人で任せちゃって……」
部屋から出て、オリビアさんと小声で話す。
「いえ、僕は大丈夫です……。オリビアさんは大丈夫ですか?」
「えぇ、私は平気よ。トーマスが寝込むなんて、久し振りすぎて驚いちゃったの」
「皆さんも心配してました。お大事にって……」
「治ったら、全部のお店に顔を見せに行かなきゃね」
「ふふ、そうですね。僕、準備してくるので何かあったら呼んでください」
「えぇ、ありがとう」
オリビアさんもいつもの元気がないから心配だな……。
トーマスさん、早く良くなります様に……。
「さ、やろうかな!」
僕はハルトとユウマをお店のカウンターに座らせ、ここで待っててね、とお願いした。二人とも頷いて大人しく座っている。さっきの絵本をもう一度読み返すみたい。
まずはさっき水に浸しておいた鶏がらをさっと洗い、灰汁抜きの為に沸騰したお湯へ。
出来たら骨の部分を少し折って、薄切りにした
お酒が欲しかったけど、ワインやブランデー、ウイスキーがほとんどで、料理用は売ってなかった。
ほんとは昨日のうちにしようと思っていたんだけど、ハルトの事があったからすっかり忘れていた。
煮込みたいけど今日は時短で……。ごめんなさい……。
カルボナーラに使う温玉は多めに作るので、鍋に卵を入れたら水から沸かし、60℃くらいの熱さまで上がってきたら弱火にし、水を足しながら温度をそのままキープ。
卵の殻が割れない様に、お玉でころころ転がして一つ割って確かめる。黄身がもうちょっとかな? もう少し置いて、確かめたら今度はいい感じ。
鍋に流水を入れ、ある程度冷めたら氷を入れて冷やしておく。あとは容器に並べて冷蔵庫で保管。一気に作れるから後がラク。
オリビアさんに仕込んでもらったミートソースとトマトソースも、弱火にかけ温めておく。底が焦げない様に、ゆっくりかき混ぜるのを忘れない様に。
しっかし、魔核ってスゴイな……。こんなにコンロをフル稼働させてるのに、お店の中はすごく快適。鍋の近くは少し熱いけど、離れたら全く気にならない。オリビアさんが倒した魔物ってどんなんだろう……。ちょっと怖いけど気になる……!
鍋に火をかけている間に、今日の日替わりコロッケ! 中身は
あとは何だろう……?
パスタの生地も昨日切ったし、ビフカツ用のお肉もコロッケも揚げるだけ。パスタのソースもいい感じだし、サラダ用の野菜も、スープもパンも大丈夫……。茹で卵も厚焼き玉子も、あとはパンに挟むだけ……。
あ! 生クリーム!
うっかりしていたフルーツサンドの生クリームをホイップする。冷やしておかないと、せっかくのクリームがだれてきちゃうからね。角が出来たらハルトとユウマにも味見をしてもらう。おいしいと太鼓判。冷やすために、しばらく冷蔵庫の中へ。
鶏がらはもう少し煮込んで、その間にオニオンをバターでゆっくり炒め、しんなりしたら薄力粉を加えて焦げない様にさらに炒める。
そこに煮込んだ鶏がらスープ、牛乳、トマトソースに赤ワインを加えて煮詰めていく。
(ん~、もう少し煮込んだ方が美味しいかな……)
味見をして物足りなかったので、さらに煮込む事にした。
中濃ソースがあれば楽なんだけどなぁ。
「まぁた一人でブツブツ言ってるわね、ユイトくん」
「うわっ! びっくりしたぁ……!」
気付かないうちに、オリビアさんが向かいのカウンター席に座っていた。
「おにぃちゃん、また、いってました」
「にぃに、しゅごぃねぇ」
「気付いてくれないなんて悲しいわぁ~」
「「「ねぇ~」」」
「うぅ……、ごめんなさぃ……」
三人は息ピッタリだ。肩身が狭い。
「トーマスさん、どうですか?」
「熱もだいぶ下がってきてるし、ゆっくりすれば大丈夫だと思うわ」
「そうですか、ちょっと安心しました……!」
「ユイトくんにね、これ渡すの忘れてたのよ。使ってちょうだい」
そう言って手渡されたのは、オリーブ色のエプロン。
「お店を開いたときにね、私の名前もお店の名前も“オリーブの樹”だから、エプロンもオリーブ色にしよう、ってトーマスがプレゼントしてくれたの。それからず~っとこの色のエプロンなのよ。だからユイトくんにもこのエプロン、着てほしいの」
私とお揃いよ、と後ろの紐を結んでくれる。
「おにぃちゃん、かっこいい、です!」
「にぃに、おみしぇやしゃん!」
「ユイトくん似合うわねぇ! よかった! とっても素敵よ!」
「ありがとうございます……! すごく嬉しいです!」
なんだかちょっと照れ臭い。でもすごく嬉しいな。
「私はもうちょっとトーマスの傍についておくけど、キツくなる前に呼んでちょうだいね?」
「はい、分かりました」
「ハルトちゃんとユウマちゃんも、今日はごめんね? おじいちゃん治ったら、また呼んでもいいかしら?」
「ぼく、おじぃちゃん、しんぱいです……。でも、いいこで、まってます!」
「ゆぅくんもちんぱぃ……。けど、ゆぅくんもいぃこできりゅよ!」
「ほんとう? ありがとう、おじいちゃんにも伝えておくわね?」
オリビアさんはハルトとユウマを撫でて寝室に戻って行った。
もうそろそろ時間かな?
「ねぇ、ハルト、ユウマ。もうすぐお店開けるんだけど、お客さんがいっぱい来て混んできたら、自分たちのお部屋に行ける?」
「うん! ぼく、だいじょうぶです! ね、ゆぅくん!」
「うん! ゆぅくんもはるくんいっちょ! だいじょぶ!」
「ありがと。じゃあ、開店するね」
「「はぁ~い!」」
仕込みもしたし、釣銭の準備も大丈夫。店内も綺麗。
……よし!
いまから“オリーブの樹”、開店です!
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