第53話 じぃじとおでかけ②


「おじちゃん、おいしかった、です!」

「ゆぅくんも! おぃちかった!」

「椅子もわざわざすまんな、感謝する。また来るよ」

「はいよ~! 坊ちゃんたち、また食べに来てくれな~!」

「「はぁ~い!!」」


 丸椅子を貸してくれた店主に礼を言い、早速ギルドに向かう。

 もうギルドの建物は、目と鼻の先に見えている。




「おじぃちゃん、あれは、なんですか?」

「ん? どれだい?」

「ちゅごぃねぇ! けむぃもくもく!」


 ハルトが指差す先には、猪肉や兎肉の串焼き屋があった。気の良さそうな親父がたくさんの肉を焼いている。


「あれは串焼きだな。お肉を食べやすい様に、ああやって串に刺して焼いてるんだよ。ほら、あの人がくるくる焼いてるだろう」

「「いぃにぉ~い!!」」

「……どれ、一本食べようか」

「「やったぁ~!!」」


 先程ピルスとトラウベを食べたばかりだからな、二人で一本で十分だろう。残せばオレが食べればいい。

 串焼き屋の店主に兎肉を一本くれと声を掛けると、なぜかまた椅子を貸してくれた。有難く使わせてもらう。通行人にチラチラ見られるが、この子たちが可愛いからだろう。気持ちは分かる。


「はい、お待ちどう~! やらかぁ~い肉を選んだからな、ゆっくり噛んで食べるんだぞ~?」

「わぁ~! おじちゃん、ありがと、ございます!」

「おぃちゃんありぁと! おぃちちょ!」


 店主が差し出したのは、取り分け用の小皿二枚。そして串一本分の肉を、わざわざ短い串に刺し直し、二本分にしてくれていた。


「わざわざ串を分けてくれたのか……! ありがとう。助かるよ」

「いいって、いいって! トーマスさんが珍しい事してるからな!」


 ハルトがいただきます! と嬉しそうに兎肉を頬張った。柔らかくぷりぷりした食感で人気の串焼きだ。この店独自の“秘伝のたれ”と言うのがあるらしい。


「このおにく、とっても、おいしいです!」

「じぃじ、ゆぅくんも! あ~んちて!」

「あぁ、悪い悪い。ほら、ちゃんと噛むんだぞ? あ~ん……」


 ハルトが美味しそうに食べるのを見て、ユウマも早く早くとせがんでくる。


「あ~ん……、……んー! おぃちぃ!」

「ほんとかい! 嬉しいねぇ!」


 そう言って、店主は客に次々と串焼きを手渡している。ハルトとユウマのタレの付いた口元を拭ったり手を拭いたりしていると、知らぬ間に並んでいた様で……。

 わざわざ串を短くしたり皿を貸してくれたりと、手間を掛けさせて悪かったなと気の良い店主に感謝した。




「おじちゃん、おにく、おいしかった、です!」

「ゆぅくんも! おぃちかった!」

「串も分けてもらってすまんな、忙しいのに手間だったろう? 感謝する。また来るよ」

「いいって、いいって! こっちも助かったよ! ちびちゃんたち、また食べに来てくれな!」

「「はぁ~い!」」


 椅子を貸してくれた店主に礼を言い、早速ギルドに向かう。

 もうギルドの建物は、目と鼻の先に見えている。






*****


「トーマスさんが? 嘘だろ~!」

「ホントだって! 一緒に馬車に乗ってきたんだから!」

「そんな事言っても来ねぇじゃねぇか、お前が来てから結構経つぞ?」

「そうだな……。でも嘘じゃないんだって!」

「はいはい、来たら酒奢ってやるよ~」

「あっ! 言ったな! 絶対だからな!」




 やっとの思いでギルドに着くと、オレたちが入った瞬間、周りの視線が一斉にこちらに向くのを感じた。

 ピリピリとギルド内に緊張が走るのが肌で感じ取れる。

 この感じは前にもあったな……。

 なんだ? 何かあったのだろうか?



「おじぃちゃん、ぎるど、おっきいです!」

「しゅごぃねぇ! あ! おぃちゃ~ん!」


 ユウマが手を振る先には、先程馬車で乗り合わせたドリューが仲間と話していた。何やら揉めている様だが……。

 ……と思ったら、今度は口を開けてこちらを凝視している。ドリューはユウマに手を振り返し、満足そうにふんぞり返っていた。

 楽しそうだな。


 さて、イドリスに店の事を伝えてさっさと帰ろう。



「あ~! おっきぃおぃちゃん!」

「あ! ぎでおんさん! こんにちは!」


 ハルトとユウマの目線の先には、解体部門主任のギデオンがいた。ギデオンは二人を目に留めた途端、こちらに駆け足で寄ってくる。


「お~! 元気そうだな! 今日はどうしたんだ?」


 ギデオンはハルトを抱き上げると、その柔らかい頬を右手でふにふにと掴みだした。やめろ、可愛い頬が傷ついたらどうするんだ。だがハルトはとても嬉しそうだ。


「あぁ、店を明日から開ける事にしたんだ。それを伝えに寄っただけだ」

「へぇー! ならいつでも食いに行けるのか」

「とりあえずは昼のみだな。夜はまだ分からん」

「なら、オリビアとユイトに夜も考えてくれと伝言頼むよ! 昼はなかなか抜け出せないからな!」

「伝えておくよ。あぁ、そうだ。お前とイドリスたちは来る二日前には連絡をくれ」

「え~!? なんでだよ!」


 ギデオンが大袈裟に不満の声を上げる。

 頼むからハルトの頬をむにむにするのは止めてくれ。


「あの日、店の食材を全部食ったのを忘れたのか?」

「……あぁ~、そんな事も、あった様な……」

「事前に連絡をくれれば、その分たくさん準備出来るとユイトが言っていたからな」

「分かったよ~、ちゃんと連絡するって!」

「頼むぞ? オレが怒られる」

「トーマスが怒られるって? ハハハ! 傑作だな!」



 騒がしいギデオンと別れ、イドリスと面会希望だと受付に伝える。

 いきなり子供連れでは行けないからな。残念ながら今日はエヴァは休みの様だ。周りの視線を感じるが、特に問題なさそうなので気にしない。


 しばらく待つと、わざわざイドリスが二階から降りてきた。足音がデカい。もっと静かに来れないものか。


「お~! トーマス! この間はごっそうさん!」

「いや、こちらもユイトの練習相手になってもらって助かったよ」


 イドリスもギデオン同様、ハルトを抱き上げ、頬をふにふにと掴みだした。

 ハルトの頬には、何か吸い寄せられるものがあるのだろうか?

 まぁ、オレもそうなんだが……。


「そりゃよかった! で? 店を開けるんだって? サンドイッチはどうなった?」


 わざわざそれを聞きに来たのか。


「あぁ、無事にメニューに入ってたよ。ユイトがオリビアに頼んでくれたおかげだな」

「ヒュー! マジかよ! ユイト最高だぜ!」


 イドリスは右手をグッと握りしめて嬉しそうだ。そんなイドリスを見ていたハルトとユウマは、ユイトが褒められていると分かっているのかにこにこしている。


「いどりすさん、おにぃちゃんの、おりょうり、すきですか?」

「おう! ユイトのサンドイッチは最高だ!」

「にぃにのふるちゅちゃんど、ゆぅくんもちゅき!」

「あれは美味いな~! 美味すぎてすぐ無くなっちまうぜ! フルーツサンドはブレンダも気に入ってたしなぁ!」


 そう言えば、ブレンダはあの日遅れてやって来たが、イドリス並みに食べていたな……。ブレンダにも忘れずに伝えておかないと……。

 オレがそう心配していると、ユイトの料理を褒められ、二人は余程嬉しかったのだろう。

 なぜかもじもじと照れだし……。


「また、おみせ、きてくれますか?」

「にぃにのごはん、いっぱぃちゃべてほちぃの」


 イドリスは一瞬グッと唸ったかと思うと


「うおぉおお──!! 当たり前だろ!? ユイトの料理は最高だからな! 食ったら忘れられねぇんだよ! また食いまくってやるぜぇ~~~!!」


 ギルド中に響く声で叫びだした。

 ハルトとユウマは耳を両手で押さえている。


「また休みの日に食いに行くから、今から予約しといてくれ!」

「ごよやく? ありがと、ございます!」

「ありぁとごじゃぃまちゅ!」


 ハルトとユウマは笑みを浮かべ、ぺこりと頭を下げた。

 これはもしかしたら、ハルトとユウマなりのイドリスを使った宣伝なのかもしれない……、のか?

 周りはギルマスが叫ぶほど美味しいのかと、ざわざわしている。


 オレは明日が心配でならなかった……。

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