第37話 僕の初めてのお客様・おてつだい大作戦本番
チリン、と音を鳴らして店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ! お席にご案内します!」
「ハハ! じゃあお願いしようかな」
僕が案内すると、トーマスさんは笑顔でテーブル席に着く。
「ふふ、トーマスさん! おかえりなさい!」
「トーマス、おかえりなさい」
「ただいま。ハルトとユウマがお出迎えしてくれたぞ」
「ハルトちゃんもユウマちゃんも、おじいちゃんを待つって聞かなくて」
「そうです! おじぃちゃん、おきゃくさま、です!」
「じぃじ、おきゃくちゃま!」
ハルトとユウマはハッとした顔をして、座っていたトーマスさんの膝から慌てて飛び降りる。
「いらっしゃいませ!」
「いらっちゃぃましぇ!」
そして、ぺこりと可愛くお辞儀をして見せた。
トーマスさんとオリビアさんは二人して唸っていたけど、ハルトとユウマが楽しそうで何よりです。
チリンと再びお店の扉の開く音がして、僕は笑顔でそちらへ向かう。
「いらっしゃいませ! お待ちしておりました!」
「お、おぉ…! こんにちは…?」
扉を開けると、見上げる程身体の大きなお客様がドーンと通路の真ん中で止まるものだから、続いて入って来た後ろの女性が怒っていた。
「え~! すっごく可愛い~!」
「トーマスさんの孫? 嘘だろ?」
僕を見ると、そんなことを口々に言いあっている。
「皆さん、お仕事お疲れ様です。こちらのお席へどうぞ」
「「はぁ~い!」」
「ん~。オレにはちょっと狭いから、そうだな……。こっちのカウンター席に座ってもいいか?」
「はい! ゆったり座れる方へどうぞ」
女性二人と眼鏡をかけた男性は窓際のテーブル席へ座り、身体の大きな男性三名はカウンター席へ。僕と年の近い男性三名はトーマスさんと同じテーブル席に着いた。あとから遅れてお連れ様も来るそうだ。
「メニューは席に置いているので、注文が決まった方からお伺いします」
「お料理はユイトくんが作るんだけど、絶品だから覚悟してちょうだい!」
「オリビアさん! ハードル上げないでください……!」
「大丈夫よ! いっつも美味しいもの! ね? ハルトちゃん、ユウマちゃん!」
オリビアさんの問いかけに、ハルトとユウマは二人して大きく頷き、皆さんの前に一歩出る。
「おにぃちゃんの、おりょうり、とっても、おいしぃ、です!」
「おぃちぃでしゅ!」
「きょうは、ごゆっくり、どぅぞ!」
「どぅじょ!」
そう言うと、またぺこりとお辞儀をして見せた。
「「「「「か…、かわいぃ~~~!」」」」」
お客様に混じってオリビアさんまで叫んでいた。
今のうちにメニューを聞いておこう。あ、そうだ。
「すみません、イドリスさんはどなたでしょうか?」
「ん? オレだ。どうかしたのか?」
あ、一番最初にお店の通路を塞いで怒られてた人だ!
「今日は来てくれてありがとうございます! 僕の作ったサンドイッチを、とっても気に入ってくれたみたいだったので……」
イドリスさんの前にトン、とサンドイッチの盛り合わせを差し出した。
「この前のと少し違うんですが、よければ召し上がってください」
お皿には茹で卵を粗く刻み、マヨネーズで和えた玉子サンド。
千切りにした
ベーコン、
そして最後に、ユウマの好きな生クリームにバナナと
イドリスさんは一瞬ポカンとしていたが、気を取り直していただきます、とサンドイッチに手を付けた。
パクパクというより、バクバクと言った方が正しいのかもしれない。一瞬でお皿の上のサンドイッチが綺麗に無くなった。
どうかな、前の方がよかったかな? とドキドキしていると、不意にイドリスさんが真剣な表情で、
おかわりを頼む
と、注文してきた。
皆も一瞬ポカンとしていたけど、僕がよろこんで、と言うと、自分も食べると次々と注文してくれる様になった。
「ユイトくん、
「はぁーい!!」
「おにぃちゃん、ころっけせっと、みっつ、です!」
「はぁーい!! オムレツと
「おむれつ、もって、いきます!」
「ハルト、気を付けてね! お願いします!」
「はい!」
「ナポリタン三人前上がりまーす!」
皆さんの食べる勢いが凄いのなんの…。
オリビアさんが揚げ物とサラダ、スープに注文と提供もしてくれて、ハルトは注文とお皿の軽いものの提供、ユウマは注文を聞いて、トーマスさんは空いた皿を下げてくれてる…。僕はひたすらパスタにオムレツ、サンドイッチを作り続けている…。コンロが大活躍だ…。
トーマスさんがカウンター席に座ったときは平気だったのに、今は料理を作っていると視線がすごく痛い。
特にイドリスさん。僕の料理が気に入ったみたいで、冒険者ギルドの食堂兼酒場で働かないかと僕を勧誘し、トーマスさんとオリビアさんに怒られていた。
あと、遅れてきたブレンダさん。細身の女性なのに、どこに入るのってくらいよく食べる。特にフルーツサンドが気に入ったようで「うまい!」と何度も注文してくれている。
エヴァさんとケイティさん(猫の耳が生えてる!)は、チーズ入りのオムレツが気に入ったみたいで二人で何個もおかわりするし、オーウェンさんとワイアットさんはナポリタン、ケイレブさん(この人は犬の耳!)はミートパスタにコロッケを嬉しそうに食べながら、尻尾をぶんぶんとさせている。
クラークさんはと言うと、ハルトとユウマが勧めたマイスと
カウンター席に座る大きな男性三人は、ひたすらに美味い美味いとパスタ、オムレツ、サンドイッチにコロッケと、メニューを何周もしている。
そう。ここで誰か気付いているかもしれないけど、ハルトとユウマが頑張って作ったピザは一枚も出していません……!
この勢いだと、トーマスさんに食べてもらう前に全て無くなってしまうと判断し、皆さんのお腹が落ち着いたところで出そうと思っています……!
「はぁ~~! しあわせ~~!」
「ちょっと休憩~」
そんな声がチラホラ聞こえてきた。今がチャンスかな、とオリビアさんに耳打ちし、ハルトとユウマをキッチンの中へ。トーマスさんはお皿を片付けてくれている。ありがとうございます……!
「ハルト、ユウマ、今からピザを焼くからね。焼けたらトーマスさんに二人で作りましたって言うんだよ?」
「おにぃちゃん、おいしく、なるかな?」
「ゆぅくん、どきどきしゅる!」
「大丈夫! 絶対美味しいよ!」
お店の中にチーズの焼けるいい匂いが漂ってきた。皆さんも鼻をひくひくさせて、いい匂いと言っている。特にケイレブさんの尻尾の揺れ方が激しすぎて、隣に座ってるワイアットさんに鷲掴みにされていた。
あ。そろそろ大丈夫かな?
「トーマスさん、こっちに座ってもらえますか?」
「ん? どうしたんだ?」
トーマスさんにテーブル席に座ってもらい、僕がキッチンに合図すると、ハルトとユウマが二人でピザを運んできた。
「おじぃちゃん、ぴざ、ぼくたちで、つくりました!」
「じぃじ、いちゅもありぁと! どうじょ!」
トーマスさんは目をこれでもかというくらい見開いて驚いていたが、次第に瞳が潤んでくるのが目に見えた。泣くのを我慢していた様だけど、それでもポロリポロリと次々に溢れて止まらなくなってしまったようだった。
「おじぃちゃん、どぅしたの?」
「じぃじ、かなちぃの?」
「いや、嬉しいんだよ……。二人とも、ありがとう……! 上手に出来てるよ」
「おじぃちゃん、たべれる?」
「はるくんとちゅくったの」
「あぁ、とっても美味しそうだ……! いただきます」
パクリと大きな口でかぶりつくと、トロ~っとチーズが伸びている。トーマスさんは最高に美味しいと言って、丸々一枚分のピザを食べてしまった。いつの間にか涙は止まったようだけど、泣いたのが分かるくらい目がまっ赤になっていた。
周りの皆さんはこの光景を固唾を飲んで見守っていたけど、まだもう一つあるのです、すみません。
「ハルト、ユウマ、準備できたよ!」
「「はぁーい!」」
二人はとてとてとオリビアさんの下に駆け寄り、トーマスさんと同じテーブル席に座らせる。
そして、キッチンから器に盛ったバナナアイスを落とさない様にそ~っと持っていく。
「おばぁちゃん、あいす、ゆぅくんと、つくりました!」
「ばぁば、いちゅもありぁと! どうじょ!」
オリビアさんも自分に用意していると思ってもみなかったのか、両手で顔を覆い、何か言おうとするけど言葉に出来ない様だった。
「おばぁちゃん、なぃてるの、しんぱぃです……」
「ばぁばもじぃじといっちょ?」
「……ふふ、ハルトちゃん、ユウマちゃん。おばあちゃんね、とっても幸せよ……。ありがとう…!」
「よかった、です!」
「ばぁば、なくのかなちくなっちゃぅ」
「あらあら、ごめんね? とっても美味しそう! 食べてもいいかしら?」
「はい!」
「どうじょ!」
「ん~~っ! これは最高よ! 二人は天才だわ!」
オリビアさんはそう言ってアイスを一口、もう一口と、大事そうに味わいながら食べている。
そして食べ終わると同時に、お二人はとっても幸せそうにハルトとユウマを抱きしめていた。
「さぁ! 皆さんの分も作ったので、是非お召し上がりください!」
「やったぁ~! 美味しそうだったから食べたかったの~!」
「この匂いでお預けは拷問だぜ、まったく! パタータ多いの食わせてくれ!」
「それ、ぼく、つくりました! どぅぞ!」
「あ! おれこのマイスいっぱいのったの食いたい!」
「それゆぅくん、ちゅくったの! どうじょ!」
「マジで? ありがとー! いただきまーす!」
「「「うっま~~~!」」」
「とっても、うれしいです!」
「ゆぅくんも!」
自分たちが頑張って作ったピザを褒められてうふふと照れるハルトとユウマに、皆がメロメロになるのは一瞬だった。
僕の初めてのお客様。そして、ハルトとユウマからのトーマスさんとオリビアさんへのお礼は大成功!
……で、いいのかな?
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