第23話 新人冒険者と討伐依頼


「よし、あとは運ぶだけだな。ここら辺で少し休憩にしよう」

「はぁーい」

「やっと座れる~!」

「こらケイレブ! 気を緩めすぎだ!」

「煩くてすみません、トーマスさん」

「いや、オレのことは気にするな」


 今日は近隣の村から出されたワイルドボアの討伐依頼の為、オーウェンとワイアット、ケイレブとケイティからなる新人パーティの指南役として依頼に立ち会っている。


 冒険者ギルドには、慣れない新人冒険者が無茶をして命を落とすのを防ぐ目的で作られた“訓練制度”というモノがあり、希望する新人には初めての討伐依頼を受ける際、ベテランの冒険者が一人付くことになっている。

 この四人は各々ソロで活動していた様だが、採取依頼などを終え、今回がパーティを組んで初の討伐となる。

 

 この“訓練制度”はこの数年で取り入れられたモノであり、これを甘っちょろいという奴もいるが、オレはこの制度を気に入っている。

 突拍子もないことをする新人がたまにいるから肝を冷やすが、冒険者というのは命の補償がない職業だ。最初くらいはいいじゃないか。


「ケイレブ、元気があっていいが、狩る前だと獲物が勘づいて失敗するぞ。それとワイアット、オレが休憩だと言っても周りを警戒するのはいい心掛けだ」

「はい、気を付けます…」

「─! ありがとうございます!」

「やだワイアット、耳まっ赤~!」

「こらケイティ、あんまり言うな。ワイアットのそれは昔から治らないからな」


 注意されてシュンとしているのはケイレブ。

 17才になったばかりの犬人族の少年だ。

 耳と尻尾で感情がすぐ読み取れるため目下訓練中である。

 

 それを叱り、周りの警戒を怠らなかったのはワイアット。

 体格が良くしっかり者だが、褒めるとすぐに照れてしまうのでよく揶揄からかわれている様だ。まだ19才の青年だ。

 

 揶揄っているのは猫人族のケイティ。

 愛想がいいが、素直すぎるところが心配だ。

 動きが俊敏で、高い木や建物にもすぐに登ることが出来るのが強みだな。ワイアットと同じ19才だが、もう少し幼く感じてしまう。


 そしてこのパーティのリーダーを務めるオーウェン。

 18才ながら剣の腕も良いし、性格も実直だ。

 このまま依頼を堅実にこなせばなかなかの冒険者になると思う。

 将来が楽しみだ。



「トーマスさん、これ討伐したら村長さんに見せて終わりですか? この猪は食ってもいいの?」


 ケイレブが耳をピコピコ動かしながら聞いてくる。食べたい盛りだからな。


「まずは依頼主に依頼完了のサインを貰って、ギルドに報告。あとはワイルドボアの解体と素材を売るかどうかだな」

「こんなデカいの……。俺たち、解体とかしたことないです」

「これは徐々に覚えて身に付けないと、獲物を森の中で仕留めた場合に処理できず素材を捨てることになる。自分たちが損することになるぞ」

「えぇ~!? そんなのもったいないよ~!」

「そう、勿体ない。覚えれば素材は売れるし、肉は売らなくてもいいなら森の中で食糧が確保できる」

「そうか。そうすれば、干し肉とか黒パンばっかりじゃなくていいですね」

「だが、そこで後処理を怠ると血の匂いで魔物が寄ってくる場合もある。獲物がデカすぎる場合もだ。パーティで魔法鞄を持っていない場合は素材を諦めることもあるな」

「なるほど…」

「やっぱ、小さくても魔法鞄は欲しいな」

「お肉も素材も欲しいよぅ~!」

「おれも肉食いたい!」


 今回のワイルドボアは依頼では一頭のはずだったが、実際にいたのは二頭。番の可能性もある。依頼内容と違う場合、リスクも発生する。万が一を想定しないと、命はいくらあっても足りないのだ。


 そのまま村長の下へ依頼完了の報告に行きサインを貰う。

 そして二頭いたことも忠告しておく。まだ仲間がいた場合、被害を受けるのは村の方だ。


「そうですか…。本当に助かりました。これで皆も安心して外に出れます」

「また何かあればギルドに相談してください。私たちはこれで失礼します」

「はい、ありがとうございました」


 村長は二頭分の報酬を支払うと約束してくれ、この子たちも喜んでいた。何せ初めての討伐でワイルドボア二頭だ。なかなかの出来だろう。


 作物や家畜に被害が出て困るという討伐依頼は、村長や村人からのモノが圧倒的に多い。だが領主や街で暮らす者より、稼ぎや貯えが少ない村人がほとんどだ。

 今回のように予定外の数がいた場合、報酬を渋ることもある。だが、ここの村長は助かったと言ってキチンと支払うようだ。村を思ってのことだろう、また依頼があれば受けようという気持ちにさせる。こういう依頼主ばかりだと助かるんだがな。


 ワイルドボアを二人一組で一頭ずつ担いで行こうとしていたが、村長が使っていない荷車を快く貸してくれた。

 四人はここの村長さんは良い人だから、依頼があったらまた受けようと楽しそうに荷車を引いている。

 このまま成長してくれれば、将来楽しみだな。



「トーマスさん、こないだギルマスが言ってた家にお邪魔するっていう話、本当に俺たちも行っていいんですか?」

「あぁ、大丈夫だ。だがお前たちがどれくらい食べるか分からないからな。とりあえず、たくさん食べると言っておいた」

「ハハ! おれたち結構食べるんで、いっつもカツカツです! ケイティが意外と食うんで!」

「ちょっとケイレブ! 私そんなに食べてないよ!」

「こら、ケンカするなよ。でもオレたちギルマスには負けるよな」

「あの人の胃おかしいもん! 一緒にしちゃだめだよ~!」

「「「確かに…!」」」


 この食い盛りの少年たちに、ユイトの作った料理を食べさせたらどうなるかな、と少し楽しみでもあった。


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