第14話 新人店員の研修初日


 昨日は家に帰ってからが大変だった。

 テーブルの上に置かれた山盛りの野菜と果物とお肉にオリビアさんが驚き、ユウマは果物があることに興奮して飛び跳ねて転ぶし、お揃いのアイボリー色の服に着替えてとハルトとユウマが騒ぎ、着替えたら着替えたでオリビアさんがまた泣くし……。

 トーマスさんと二人、無言で言葉を交わしたよ……。



「じゃあ早速、お店の準備から閉店までの流れを説明するわね」

「はい! よろしくお願いします!」

「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ!」

「うぅ~、ガンバリマス……!」



 オリビアさんのお店の開店前の準備は、


・朝一でその日使う分の牛乳や卵、お肉に野菜などを村の商店で購入する。

・戻ったら店の外、店内のテーブルや床を掃除。

・その日購入した品でメニューと値段を決める。

・食材の仕込み(皮むきや下茹でなど)

・釣銭の準備


 他にも細かいことはあるが、慣れてからまた教えてくれるそうだ。頑張って覚えよう!



 以前は日が暮れても営業していたらしいんだけど、いまはお昼だけしか開けていないんだって。契約していた農家さんや牧場の人たちに断り、それぞれのお店まで買いに行くそうだ。

 そして開店したらお客さんを席に案内し、注文を受け、あとは配膳と片付けの繰り返し。

 閉店したら店の外と店内の掃除、キッチンの片付けと売上金の確認。翌日の仕込みも以前はしていたが、いまはほとんど必要ないとも言っていた。


「お店を開けるまで、まだ数日あるし……。買い物はまだ行かなくてもいいから~……。そうね、先に料理も覚えちゃいましょうか! それじゃあ、キッチンの使い方を教えていくわね~!」


 楽しそうにルンルンと厨房の中へ入るオリビアさんに続いて、僕も緊張しながら足を進める。


「これがお肉用の冷蔵庫、こっちが仕込んだ野菜や牛乳用ね。小麦や調味料のストックなんかは、この棚にまとめてるわ。コンロはこの魔石に触れれば火が出るから。火力はここで調整してね。あとは~……」


 おぉ……! 家の中のランプがコンセントもないのに灯りが点いていて、電気やガスのない世界でどうしてるんだろうと思ってたんだけど……。

 どうやらこの世界には“魔石”っていう物があるらしく、コンロや冷蔵庫、オーブンなんかも、大小問わず全て魔石で賄っているそうだ。


 オリビアさんには少し不思議そうな顔をされたけど、笑って誤魔化しておいた……。


 水の魔石もあるけど少し高額で、村の人たちでお金を出し合って、この村専用の飲み水用の魔石を購入したらしい。

 各家庭に水道管が繋げてあるから、使う時は蛇口をひねるだけ。

 洗顔や身体を拭くときは、節約の為にこの辺りの家庭はまだ井戸の水を使用するのがほとんどなんだって。なるほどな。

 僕たちも増えたから、色々改築しようかしら、とオリビアさんは呟いていた。


 そしてオリビアさんが楽しそうに教えてくれるが、ここで爆弾発言をする。


「今日から開店までの間、お料理はユイトくんに作ってもらうから! 頑張ってね!」

「……えっ!?」


 失敗しても大丈夫よ~! トーマスに食べてもらうから! なんて笑顔でサラッと言うし、店と家を繋ぐ出入り口でいつの間にかハルトとユウマも覗いていて、おにぃちゃんのごはん~! なんてはしゃいでるし……!



 これは絶対、失敗できないやつだ~……!


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