第4話 出会い④
「
こくんと子供たちが頷いたのを確認し、トーマスとカーティスは病室を後にする。
「トーマス、あの子たちどうする気だい? 幸い、身体のどこにも奴隷紋なんかは見当たらなかったけど……」
「まぁ、あの子の意識が戻るまでは……。オレのところで面倒を見るしかないな……」
「ふ~ん……? なんだか最初から決めてたみたいじゃないか。放っておけないのも分かるけどね、お人好しも程々にしなよ?」
「……あぁ」
「ん? どうしたんだい? 歯切れが悪いね」
「いや……。オリビアに伝えるのを忘れていたな、と……」
「ハハ! あの人なら心配ないんじゃないのかい? 君以上のお人好しだからなぁ~!」
「だといいんだがなぁ……」
「似たもの夫婦だから大丈夫だよ!」
病室に戻り、改めて二人に向き合い伝えてみる。しばらくおじさんの家においで、と。オレとベッドに寝たままの自分たちの兄を交互に見る表情は、居た堪れなくなる程に不安気だ。
お兄さんも目が覚めたらおじさんの家に来るんだぞ、と言えば、安心したように頷いた。
それにしても、泥がまだ付いたままだな。オリビアに了承を得てから身体を拭いてやろう。
よし、早速だが連れて帰ろうか。
何故だか分からないが、この子たちの面倒を見るのは、オレにはごく自然な事のように感じてしまう。
明日また来ると伝え、少年の意識が戻るように願いながら医院を出た。
*****
オレの両腕には、ハルトとユウマが抱えられている。
二人はオレの服をぎゅっと握ったまま、忙しなく村の店通りを観察しているようだ。
「あら? トーマスさん、かわいい子連れてるわね! どうしたの?」
オレたちに声を掛けてきたのは、夫婦で肉屋を営むエリザだ。
「あぁ、村に帰る途中でちょっとな。しばらくうちで面倒を見ようと思う」
「そうなの? こんにちは、私はエリザよ。よろしくね! ボクたちのお名前は?」
「えっと、ぼくのおなまえは、ハルト、です」
「ゆぅくん!」
「おとぅとの、ユウマ、です」
「ふふっ、かわいいわねぇ~! トーマスさん、そうしてると“おじいちゃんと孫”ってカンジよ!」
そう言って笑うエリザの言葉に面食らう。
“おじいちゃんと孫”……。
まぁ、58だし年齢的にもそちらの方が正解か……。オレも年を取ったもんだな……、なんて少し感傷に浸っていると、腕の中で二人がもじもじしているのが目に入った。
どうしたと訊ねると、想像もしない答えが返ってきた。
「おじぃちゃん……?」
「じぃじ……?」
ふふっと内緒話のように小さな両手で口元を隠し、可愛らしく笑う二人は天からの使いなのかもしれない……。
グゥッと唸るオレを見て、エリザは口を開けて笑っていた。
たぶん……。いや、確実に明日には村中にこの事が知られているだろう。
だが問題はない。この子たちを見れば、皆同じ意見になるはずだからな。
「ハルト、ユウマ。もうすぐ家に着くんだが、オレの奥さんが待っている。ちゃんと挨拶できるか?」
「おくさん?」
「そうだ。オレが“おじいちゃん”なら、オレの奥さんは“おばあちゃん”、かな?」
「……! おばあちゃん……!」
もしかしたら、オリビアは自分がおばあちゃんなんて言われるのは嫌かもしれない。
しかし、この子たちに言われたら許すしかなくなるはずだ。
生活費も、ギルドの依頼を少し多めにこなせば子供三人分くらい何とかなる。
そこでふと、自分が“しばらく”ではなく、“ずっと”面倒を見る気でいることに気が付き笑ってしまった。
さぁ、もうすぐ家に着く。
この子たちの面倒を見ると伝えるのに、まさかここまで緊張するとはな。
プロポーズ以来じゃないだろうか。
そうしてオレはハルトとユウマを抱きなおし、意を決して家の扉を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。