359. 年金全部ソシャゲにつぎ込んでるから超強い
「ふぃーっ。買った買ったぁ」
「アンタそのお金どこから出て来るのよ」
「バイト代全部つぎ込んでっからな。余裕よゆー」
「私の前で良く言えたわねそんなこと」
「あぁん? 長瀬に言われたくねーしっ。勝手にハル連れ出してる時点であたしに文句ゆーすじあいねーから!」
「はぁっ!? なにアンタうざっ!」
「いきなり髪切ってんじゃねえよ! あたしとキャラ被んだろーが!」
「なによ急にっ!? ていうか何回言うのよっ!」
「クソ似合ってるのマジでうざい!」
「褒めるなら褒めるでタイミング選べっ!!」
「陽翔くん大丈夫?」
「そう思うならちょっとは手伝えや……ッ!」
「じゃんけん負けたセンパイが悪いんですよ」
「お前もな! 買い過ぎなんだよッ! もっと賢い金の使い方出来ねえのかッ!」
「良いじゃないですかあ、趣味みたいなものなんですから。ノノのお小遣いどう使おうがノノの自由ですっ。ノノのおばあちゃんも言ってました。年金全部ソシャゲにつぎ込んでるから超強いって。おじいちゃんも言ってました。タイヤが擦り減ったら車ごと買い替えるのが良いと」
「知らんわボケッ!!」
市川ファミリーのイカレた金銭事情など知ったことではない。山のように積み上がる大量の買い物袋を無事に運び切らない限り、この怨念と積み重なる疲弊は決して晴れないのである。
愛莉とのデートはそう長く続かず、張り切って集合時間よりだいぶ前に集まった連中の大ブーイングを持って打ち止めとなった。
そこからはもう女性陣の一方的な展開。服も髪型も真新しい愛莉をみんなして弄り続け、ワイワイ騒ぎながらアウトレットを回っているうちに、すっかり時間が経ってしまっている。
唯一の男だからという理由で荷物係にしようとして来ないのは彼女たちの良いところだが、結果的にじゃんけんで負けては意味が無い。腰に来る。シンドイ。
「にしてもすっかり暗くなっちゃいましたねえ。流石にセンパイが過労で死んじゃいそうなので、今日はこの辺にしときますか?」
「まー欲しいもんだいたい買えたしなー。ハルとは明日デートすっから今日は別にいいや」
「はっ? それはノノ的に許されないんですけどっ。ちょっとはセンパイを労わる気ないんですかっ?」
「それこそノートルダムに言われたくねーなー!」
「ほっほっほ。ノノはただセンパイを引き摺り回す瑞希センパイみたいなのとは違うのですっ! あれですあれ、ノノが動くからセンパイは動いちゃダメですってやつです!」
「オイッ! ベッドの上での話してるだろっ!」
「センパイの童貞はノノが予約済みなので!!」
「譲って堪るかァァ!!」
「グヌぬぬぬぬぬッッ!!」
「…………なんかもう、ごめん。逆に」
「愛莉が謝らんでも」
「流石に声抑えて欲しいなあ」
改札前でプロレス始めるのホント辞めて欲しい。すっごい見られてる。部活のテンション外に持ち込むな。いやそもそも日頃の言動を改めろ。
しかし、ノノの言う通り外はもう暗くなっている。流石にこのテンションに連日付き合う余裕は無いのでデートのお誘いは断るとして。
「おら、自分の回収しろ。俺もう帰っから」
「あ、待ってあたしも一緒に帰る!」
「ノノも同じ方面なんでお相手しまーす!」
駄目だ状況が変わらない。
と、ここで愛莉から助け船が。
「もうっ、ホント騒ぎすぎっ! ハルトの死にそうな顔見えてないのっ!? 悪いけど今日は私が回収するから!」
「えーー愛莉センパイですかーー!?」
「ほっほーん! なら午前中のばんこーについてことこまやかに説明してもらえるんだろーな!」
「……いっ、良いわよ! 教えてあげるっての!」
自ら身を切って俺を自由にさせてくれるのは非常に有難いのだが、今日一日における疲労の一片はお前にもあるからな。愛莉。ちゃっかり荷物載せて来てるの忘れんなよ。
「じゃっ、わたしたち一本先に帰るから」
「センパーーイ愛してま~~す!!」
「あたしたちのことっ、わすれないでねぇっ!」
「うるっっっさいわね早く歩けばかっ!!」
……愛莉に引き連れられ強引に改札の奥へと消えていく。本当に喧しかった今日ずっと。アイツら言うて学校でもそこまで元気じゃねえだろ。メンド。
「みんな嫉妬してるんだよ」
「……あ?」
「愛莉ちゃんと勝手にデートするから。ね?」
「そんな目で見ないで頂きたいのですが」
「わたしもちょっと怒ってまーす」
クソ、まだ厄介なのが一人残ってた。
それに関してはなにも弁明出来ぬ。
「まぁ楽しかったから、全然良いんだけどね。たまにはこうやって学校の外でみんなと騒ぐのも大事だと思うよ。でも次は二人が良いかな?」
「……近いうちにな」
「わーい。じゃあいつにしよっかな~」
スマホを取り出してスケジュールを確認し始める比奈。お前もお前で抜け目ないというか、ちゃっかりしてるんだよな。
あの三人とは頭の作りが決定的に違う。
悪口ではない。決して。
「……あれ?」
「ん、どした」
「今日ずっとスマホ見てなかったから気付かなかったんだけど…………琴音ちゃんから連絡来てる」
「琴音?」
DVD見て研究していたはずでは。
まさかこちらに合流したくて連絡したとか? いやでもそれなら、全体のグループチャットに一本入れれば事済むわけだし。謎は深まる。
(あっ)
ふと気になって自分のスマホも確認してみると、琴音から個人宛てのメッセージが何件も届いていた。全部電話だな。俺と比奈になにか特別な要件でもあるということだろうか。
「比奈、お前にも……」
「うん、すっごい着信入ってる」
「……どうする? どっちから折り返す?」
「じゃあ、わたしが掛けるね」
スマホを耳元にかざし琴音からの反応を待つ比奈。それほど時間を掛けず、通話が始まった。
「あ、琴音ちゃん? ごめんね、全然気付かなくて。それでどうしたの? …………うん、うん、うん…………え、それって……ええっ? ほんとにっ? い、今どこにいるのっ? まだおうちの近く? …………うん、分かった。じゃあわたしもそっち向かうね…………陽翔くん? 一緒にいるよ。陽翔くんも来た方がいいかな? …………おっけー。じゃあ迎えに行くね。待ってて。はーい」
比奈と琴音のコンビにしては、随分と大袈裟なリアクションを交えての会話だ。話を断片的に聞いている限り、あまり穏やかではない様子のようだが。
「で、どうしたって?」
「……琴音ちゃん、家出したんだって」
「…………はっ?」
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