196. 仁義なき悪戯《タタカイ》 PART1
ここ最近、フットサル部で良くない遊びが流行っている。
良くない、と言っても犯罪スレスレの迷惑行為とかそういう悪質なものでは無いのだけれど。いや、どうだろう。あくまで部内においては悪質かもしれないが。
「この辺りじゃないかな?」
「たぶんな」
先頭の比奈がウロウロと周囲を見渡す。
練習を終え、お決まりの溜り場となった新館の談話スペースに5人揃って戻って来る。というのも、柄でもなくスマホをどこかに紛失してしまい、探しにやって来たのだ。
まあいっつも練習終わったら誰が集合を掛けるまでもなくここに集うのだけど。みんなお喋りしたり、スマホ弄ったりと自由に過ごしている。
さて、どこに行ったのやら。練習始まる前にここで弄っていたから、たぶんこの辺りにに落っこちているのだろう。
探すまでもなく、ソファーの上にほったらかしにされていた。危ない危ない。
と、スマホの下に雑誌が置かれていることに気付く。金曜日に発売されるアレだ。こんなところで、誰が読んだというのだろう。少なくともウチの面子じゃないよな。女子はフラ○デー買わないだろ普通。
「……ん?」
「どうかしましたか」
なにやら付箋のようなものが、雑誌の一番後ろのページに貼られている。つい気になってしまい琴音と共に近付いて雑誌を手に取り、ページを捲ってみると……。
『これさえ飲めば、世界中の男が貴方の虜に! 魅惑の野獣エッセンス、フルメンタルD、新発売! お求めはHP若しくは記載の電話番号へ!』
……………………
「…………ほほう」
ホモ向けの栄養剤かなにかだろうか。
いやなんだよホモ向けの栄養剤って。
そんなもん売るな。そんなんで虜になるな。
ワケが分からない。
なんで俺のスマホの下敷きがフ○イデーで、ホモ向け栄養剤のページに付箋が貼ってあるんだ。誰かが発見したら俺が読んで付箋貼ったみたいに思われるだろ。辞めてくれよ。
「…………いや、まさかな」
そんなはずないと思うんだけど、一応ね。
スマホを取り、画面を付けてみると。
『0120-××××-×××× 発信する場合は発信ボタンを押してください』
「……………………」
ページに載ってあった番号と一緒か。
これ赤いところ押したら発信されるな。
あれだ、緊急連絡用のためにダイヤル入力はできるんだよな確か。上手いこと考えたよ。本当に……考えたものだなッ!
「――――集合じゃフットサル部ゴラア゛アアアァァァァアアアア゛ンッッッッ!!!!!!!!」
「うるさいわねー、なによ急に」
「もう集まってるよーん」
「どうしたのー?」
「大きい声出さないでください」
「分かってやっとんだろッ!! 誰や俺のスマホでホモ向け栄養剤を注文しようとした奴はッ!!」
……そう。こんな感じで、現在フットサル部では主に各自の持ち物をターゲットに、何かしらのイタズラを仕掛けるのが大流行中である。
夏合宿のこと。瑞希が愛莉のウェアにホッカイロを貼ったり、靴に冷えピタを仕込んで茶化していたのが発端だった。
それからと言うものの、愛莉が瑞希に逆襲したり、それをまた瑞希がリベンジしたりしているうちに、いつの間にか俺もターゲットになり。
俺が腹いせに、比奈にちょっとしたイタズラを仕掛けたことで、結果的に部員全員に広まってしまったのである。
イタズラはこの数週間でドンドン巧妙化しており、専ら「面白いイタズラを仕掛けた奴が勝ち選手権」みたいな状況になっている。
一昨日はペットボトルのなかにクエン酸を混ぜられたし、こないだなんて愛莉と瑞希が鞄の中身を入れ替えられて家に帰った後に気付いたりしてる。
しかもそれを計画したのが琴音と比奈だったりするのが心底恐ろしい。全員犯人、全員被害者。
「まあ、ええわ。まだ掛ける前やったからな。それだけは譲ってやってもええ。が、百歩譲ったとして、俺にあらぬ疑いが掛かる寸前だったことは理解して頂きたい。ええな」
「そんなこと言われてもねえ?」
「うわー。酷いことする人もいるもんだー」
「いったい誰が犯人なんだろうねえ~」
「これは困りましたね」
それっぽいことを言いつつも、顔がニヤケている。誰も笑いを堪え切れていない。クッソ、楽しそうにしやがって。苛々するなッ!
「今のうちに名乗り出た方が得やで」
「あたしは知らないけどぉー、そんなことする人ウチにいないんじゃなーい? あ、でもしっかり犯人当てたらその人も反省する気がすんなー♪」
「コイツゥ……ッ!」
そう。これが二つ目の性質の悪い遊び。
こうやってイタズラを仕掛けて、誰が犯人かわざわざ探させるのである。ちょっとした推理合戦だ。で、誰かを犯人に指名し、正解したら素直に謝罪すると。
しかし、もし仮に真犯人ではない人物を指名してしまったら。
この場合、疑いを掛けられた人は「無実の罪を着せられ悲しい思いをした」という理由で、逆に被害者が謝らなければいけないという謎ルールが存在する。
無論、土下座で。
当てられてもそうだし、外した場合も土下座。
お気楽に「どうせお前だろ」とか言えないのである。
「……まぁ、ええわ。今回は簡単だろ」
「へえ。なんか根拠とかあるの?」
「まず琴音ではない。これは間違いないな」
厭味ったらしさ全開に愛莉は完全スルー。
名推理を聞いてもらうじゃないか。
絶対土下座させてやる。プライドに掛けて。
「ホモ向け栄養剤だぞ。琴音にそんな発想が出来るとは思わん。しかも、フラ○デーだ。こんなん買うのも一苦労だろ。なあ」
「なあ、と言われましても」
「琴音ちゃんも雑誌くらい読むよねー?」
「ええ。S○Aとゲン○イが特にお気に入りです」
「んなわけあるかァ……ッ!」
誰の入れ知恵だよ。
どうせアイツだろうけど。
「……まっ、推理するまでもねえ。瑞希、お前や」
「ほぉぉーーん。あたしかー」
ニヤニヤしながら身体を左右に揺らす瑞希。どうやらよっぽど自信があるようだが……お前如きに俺を騙せると思うな。土下座の準備しろ。
「なんやかんやで、愛莉もこういう話題には触れへんしな。比奈がやるとも考えにくい。お前しかおらん。決まりや」
「ふぅぅーーん…………ハルぅ、考えてみなよ」
「……なに……ッ?」
「確かにね、あたしも思うよ。あたしがやりそうなイタズラだなぁって。でもさっ、それってちょっと単純すぎると思うんよね。実際、ハルも一発であたしだって思ったわけじゃーん?」
た、確かにそうだ。瑞希が、瑞希らしいイタズラを仕掛けたところですぐにバレてしまうのは目に見えている……!
つまりこれは、いかにも瑞希が犯人であると思わせるため。俺に思い込みをさせるための巧妙な罠だというのか……!?
いや、待て。落ち着け。冷静になるんだ。
この発言自体、瑞希のブラフだとしたら……。
「……よし。分かった。まずは一人ひとり、しっかりアリバイを証明して貰おうじゃねえか。一番最初に更衣室に向かったのは俺だ……つまり、全員が犯行に及ぶだけの時間がある」
「さあ、洗いざらい吐いてもらうぞ……ッ!」
次回ッ、決着!(続く)
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