第33話 航空打撃群 2
帝国軍第4駆逐隊は救援に来た第2巡洋戦隊旗下の戦隊と合流することができた。
ひとまず巡洋戦隊の指揮下に入り態勢を立てなおす。
連邦軍の規模は突撃艦4空母1が確実。通常、空母には専属の防衛部隊が随伴している。この宙域にどの程度の規模の部隊が遊弋しているのか確認しなくてはならない。
帝国軍は敵艦載機から損傷艦を守れるように輪形陣に戦列が変更され迎え撃つ体制を取った。
誘導ビーコンを出し続けるコンコルディアの周りにイラストリアから発艦した3個飛行中隊が続々と集結する。一個飛行中隊32機。合計96機の編隊であった。その中には対艦攻撃に特化したスペンサーより一回り大型のドニエプル機動兵器が12機と電子戦機2機が含まれている。
「こちら。第54戦隊司令。バルバリーゴ少佐だ。各飛行中隊。これより我々は長距離雷撃戦を行う。各飛行中隊は雷撃後に突入してくれ。雷撃後、我々も突撃する」
周囲の飛行中隊に要請を行う。
本来。カルロには命令系統の違う飛行中隊を指揮する権限はないので要請するしかない。そのため断られる可能性もある。しかし、ここでは連携攻撃が必須である。無理を通したい。
「こちらスピン・ワン。要請受諾いたしました」
「ありがとう。よろしく頼む。スピン・ワン」
「礼には及びません。ウチのオヤジから54戦隊の指示に従えと命令を受けおります」
「そうか。大佐は話の分かるオヤジだ」
カルロは飛行中隊の指揮権を暫定的に手に入れた。
「第一戦速まで減速」
コンコルディアを中心に部隊を再編した。
「敵性勢力判明しました。大型艦2小型艦5ないし6 大型艦は巡洋艦クラスと推定されます」
「一番から四番。敵大型艦を照準。全艦に徹底させろ」
狙うは大物。駆逐艦をいくら沈めたところで巡洋艦一隻には及ばない。これはカルロだけではなく突撃艦乗りに共通した悪い癖であった。
同じ命を張るなら、雑役船より戦闘艦。小型艦より戦列艦。巡洋艦より戦艦。艦隊勤務者では多かれ少なかれ持っている感情ではあったが突撃艦乗りはその傾向が強い。
「魚雷発射管一番から四番発射準備よし」
「てぇー」
4隻の突撃艦から8本の10式量子反応魚雷と同数の34式囮魚雷が発射される。第54突撃水雷戦隊が発足してから初めての一斉雷撃であった。
突撃艦の魚雷の発射を見るやスペンサーが一斉に増速。コンコルディアを追い抜いていく。続いてドニエプル対艦攻撃機も後に続く。
「さて。我々も行くとしますか。進路変更527 最大戦速。単縦陣」
連邦軍の一斉雷撃は帝国軍に即座に探知された。
第2巡洋戦隊所属の巡洋艦ケントは直ちに対抗雷撃戦に入る。
連邦軍の量子反応魚雷は厄介な代物で長射程で高速。おまけに直撃すれば弩級戦艦ですらただでは済まない。巡洋艦なら2発も食らえば間違いなく轟沈するものだ。
連邦軍水雷戦隊はお家芸の様にこの量子反応魚雷を使った長距離雷撃を敢行するので帝国側でも対応策が出来ている。
大量の囮をばら撒き敵魚雷を誤認させ、それでも突破してきた魚雷を弾幕で叩き落す。
接近してくる突撃艦は連邦の新型エスペラント級だ。こいつは従来の突撃艦の二倍の発射管を備えている危ない艦である。しかし、16本程度の魚雷であれば巡洋艦2隻の能力で十分対処可能であった。
「敵魚雷。爆発。距離から自爆と推測されます」
接近中の魚雷一本が囮に食いつく前に爆発した。
「自爆?。早爆でもしたか」
不良品の魚雷が目標より手前で爆発することは帝国でも連邦でも珍しくない。
「小型艦の反応。8 急速に接近中」
確認された突撃艦は4隻。半分は確実に囮魚雷だ。囮に紛れて突撃してくるか、はたまた全て囮魚雷か。この段階では判断が難しい。確実にできることから潰していく。
「慌てるな。囮の可能性を考慮。敵魚雷に攻撃集中」
ケントの艦長が指示を出すと2発目の魚雷が爆発した。
「何の真似だ」
連邦軍の意図を図りかねた。
「敵の意図は不明だが、各艦、確実に食い止めろ。機動兵器による近接戦闘に警戒」
こうなっては4隻の突撃艦より空母艦載機の方が脅威だ。
「艦長。シュッティテンに異常。敵魚雷の爆発により探知に支障が出ています」
「これが狙いか。くだらない真似だ。他の艦との情報連結を密とせよ。主砲発射用意。目標、敵突撃艦。射程に入り次第、順次撃ち方初め」
巡洋艦ケントの大型連装砲3基が連邦軍の攻勢正面を指向する。一斉射で薄っぺらな突撃艦の装甲板を楽に貫通する威力がある。そして魚雷に比べて迎撃は困難。装甲で弾くか機動で回避するかのどちらかだ。
また。魚雷が爆発する。
結局。こちらに向かって飛んできた魚雷8基すべてが自爆。その爆発エネルギーを広範囲にばらまく。そして接近してくる小型艦の反応が消えた時。初めて異常を探知した。
「敵艦。ロスト」
「探せ。近くにいるはずだ」
接近しているはずの突撃艦を見失った。
「敵。機動部隊接近」
「奴らの雷撃は機動兵器突入のための援護雷撃だ」
連邦軍の艦載機が帝国軍の艦列に突撃を開始する。
小型でちょこまかと動く機動兵器の攻撃を防ぐには隊列を維持しなければならない。死角を減らし僚艦と連携することで濃密な弾幕を浴びせることができるのだ。
出来るはずなのだが、敵突撃艦の長距離雷撃に対処するため僚艦との距離を取っていた。
万が一被雷した場合の二次災害を防ぐために必要な対応なのだが、そのためにコンバットボックスを形成するのに手間取る。
帝国軍は輪形陣の間隔を縮めようと苦心する。
その時間を稼ぐのが2隻の重巡洋艦だ。
「対空弾幕だ。隊形を守れ」
重巡洋艦の防空能力は駆逐艦のそれに比べて格段に高い。簡単には近寄れないはずだ。
だがどんな対空弾幕をもろともせずに突っ込むのが戦闘機乗りという人種である。
突撃艦の偽装雷撃により想定より安全に距離を詰めることが出来ている
「スピン・ワンより各中隊。歓迎用の花束は持ったな。全機突入。ありったけくれてやれ」
第115飛行中隊指揮官。バークリック大尉の突撃信号と同時に82機のスペンサーが二機編隊に分かれると一斉に突入する。
帝国艦艇から猛烈な対空弾幕が降り注ぎ運の悪いスペンサーが次々に火を噴く。
彼らの目的は被弾した第4駆逐隊の損傷艦にとどめを刺すこと。そして。
「コース。適正。発射まで進路固定」
6機、2個編隊で侵入する対艦攻撃機ドニエプルの進入路を作ることだ。
小型の短距離魚雷64式機動魚雷を一発搭載する本機は機動兵器として破格の破壊力を有するが、スペンサーに比べ機動力に劣るため攻撃のためには一定時間目標に向かって直進しなければならなかった。
無防備に直進するドニエプルを守るのもスペンサー隊の任務だ。
今回は敵機動兵器の存在は確認されていないので幾分楽だが、敵艦に見つかると最優先で攻撃されてしまう。
スペンサー隊は派手に動いて帝国軍を牽制する。
それでもこの物騒な機動兵器を探知した駆逐艦から迎撃ミサイルがドニエプル隊に向けられた。
進路変更できないドニエプルが次々に撃ち落とされた。
「lock on fox one fox one」
発射ポイントまでたどり着いたのは7機のみであったが、全機が64式機動魚雷を発射した。
7本中3本は撃ち落とされ3本は至近弾。そして1本が重巡洋艦ケントの右舷装甲板に突き刺さった。
スペンサーの攻撃とは明らかに違う大きな爆発が起こる。
「着弾。確認。撃破確実」
バークリック大尉が叫ぶように戦果報告を上げた。
帝国艦艇が連邦軍の機動兵器により自身のことに手一杯になりだした。
そのタイミングを見計らって彼らは動き出す。
「目標。捕捉。行けます」
「てぇー」
カルロが叫ぶと同時にコンコルディアから4本の魚雷が飛び出す。続いてムーア、ラケッチ、イントルーダからも発射。今度は全弾10式量子反応魚雷。
第54戦隊は初撃の後、進路を帝国軍正面から迂回し側部上面に機動。エスペラント級の足の速さを限界まで使った戦術機動を敢行した。
その結果。コンバットボックス形成のために徐々に間隔が狭まった帝国軍艦列に次々に魚雷が突き刺さる。
2隻が至近弾より損傷し1隻の駆逐艦が瞬時に轟沈。その残骸を縫うように4隻の突撃艦が巡洋艦に突き進む。
帝国軍駆逐艦から激しい砲火を浴びた。先頭を進むコンコルディアと次に進むムーアに砲火が集中した。
「艦首に被弾。第一魚雷発射管にダメージ」
「右舷第二区画に貫通」
「第1ジェネレータの出力低下していきます」
右舷に搭載されているジエネレータに異常が発生した。
「ジェネレータに被弾したのか」
ドルフィン大尉が機関長席に駆け寄り確認する。
「現状では不明です。被弾したのか動力伝達にダメージが入ったのか」
「第一ジェネレータを停止させろ」
この段階ではジェネレータが制御不能になり爆発するのが一番怖い。カルロは最悪を想定して命令する。
「第一ジェネレータ緊急停止」
4基のジェネレータの内1基が停止したことにより残りのジェネレータがパワーを取り戻そうとフル稼働する。
「速度は維持しろ」
「アイサー」
ここで減速してはコンコルディアだけではなく他の艦にも被害が出かねない。速度を守ることは命を守ることと同義だ。
「コンコルディア被弾」
最後尾を進んでいたイントルーダからは先頭のコンコルディアに砲火が集中するのが見えた。
「機関最大。コンコルディアの前に出る」
コンコルディアの盾となるべくアルトリアが咄嗟に命じるが副長に否定された。
「艦長。既に最大戦速です。コンコルディアの前に出るのは難しいかと」
イントルーダのジェネーレータも轟音を上げ最大値で回っている。
「だが、このままでは」
言葉に詰まるアルトリアに副長がさらに続ける。
「それに命令も無しに戦隊の先頭に立っては指揮権への介入ととられかねません。ご自制ください」
バルバリーゴ艦長はそんなことは言わない。と言い返しかけたが、副長の言っていることは一般論でそのように解釈する者もいるということだ。
「わかりました」
アルトリアは奥歯を噛み締める。自分が熱くなっていることは自覚できた。
集中する火線を掻い潜り主砲の射程圏内にたどり着く。
「主砲。3連斉射。てぇー」
コンコルディア以下4隻の突撃艦の主砲がドニエプルの攻撃で火を噴く重巡洋艦に集中砲火を浴びせた。
目標に多数の命中を確認できた。
しかし、相手は砲撃戦を専門とする巡洋艦。突撃艦程度の砲撃では表面の設備を吹き飛ばすのがやっとで装甲板を抜くことはできなかった。
何より被弾した右舷をもう一隻の重巡洋艦がかばうように展開。破壊口を狙った砲撃は全てこの艦が受け止めた。
「巡洋艦に弾着。多数」
「進路そのまま。撤収する」
カルロは振り返らなかった。
「艦長。反復攻撃を具申します」
被弾してもまだ戦意を衰えさせないドルフィン大尉の具申にカルロは首を振った。
「却下する。敵の正確な規模は不明だ。ここで帝国軍にさらなる増援があった場合対処できない。戦果は十分だ。これで少しは奴らの足も鈍るだろう」
攻撃を終了した機動兵器と共に逃走に移った。
「敵艦。離脱していきます」
「主砲。旋回。逃がすな」
してやられたケントが僚艦と共にコンコルディアを狙うが、まともに旋回したのは3基中2基であった。
「第2砲塔大破。第1砲塔小破。砲撃可能です」
その後も被害報告が後を絶たない。
「対空砲の被害甚大。防空能力60%まで低下します」
「左舷第1区画に火災発生。消化システム作動確認。空気漏れが発生しています。ダメコン班に損害発生とのことです」
「第2通信アンテナ損傷。通信状況に問題なし。ただし予備はありません」
致命的な被害は出ていないが、かなりのダメージを受けた。
「敵艦載機の反応。第二波と思われます」
オペレータからの報告に艦長は冷水を浴びたような表情をする。
「命令を撤回する。防空態勢を維持し当宙域から離脱する。この宙域は放棄する」
ケントの艦長は敵が突撃艦だけではなく、最大の敵は航空母艦であることを思い出した。
帝国軍は隊列を立て直すとイーレハ宙域に向けて撤退していった。
イラストリアから発艦した第二攻撃隊は帝国軍を捕捉できなかった。
連邦軍との交戦は惑星レボルグへと向かう帝国軍主力に直ちに伝わった。
「閣下。報告であります。迂回機動中の第4駆逐隊が連邦軍と接敵。交戦の結果撃破されました。救援に向かった第2巡洋戦隊も多数の機動兵器により損傷。現在撤退中であります」
ケッセルリンク中将は戦艦ブリュンスタッドの作戦室に設置された豪華な席の上で眉をひそめた。
「機動兵器だと。それで損害は」
「はっ。第4駆逐隊が3隻撃沈。第2巡洋戦隊所属の重巡洋艦ケントが中破。同戦隊所属の駆逐艦3隻撃沈。ほか損害多数であります」
14隻中6隻が沈んだとなると組織的な動きが不可能なレベルの損害だ。
「ほぼ全滅ではないか。それほどの戦力が迂回していたのか。敵の戦力は」
「100機以上の艦載機と突撃艦4隻であります」
「空母2隻以上もしくは大型空母を擁する機動部隊の可能性が大です」
作戦参謀が口を挿んだ。
「ずいぶん器用な戦力配置ではないか。連邦に主力を分ける余力があるとはな」
「作戦を見直されますか」
「無用だ。引き続き各隊には迂回軌道を続けさせろ」
多くの部隊が惑星レボルグを包囲するように機動している。一つや二つの部隊の損害でやめるわけにはいかない。
「連邦軍もなかなかやるではないか、こちらの迂回を想定した部隊配置か。それともただの遭遇戦か。ともかくこの機動部隊を捕捉撃滅しなくては作戦に支障が出るな。部隊を編成せよ。うるさい犬には黙っていただこう」
「ヤヴォール」
戦いは始まったばかりだ。
続く
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