第4話   人質救出

 ナビリア星域には、グリッドと呼ばれる、独特な形態の鉱山都市が、複数存在する。


 それは、衛星、小惑星もしくはステーションであったりと様々だが、国家や企業のような公的な勢力に所属せず、山師、難民、ギャング団のような、まつろわぬ者達の集合体である。


 当然、グリッドの治安は最悪。海賊団の根城であることも多い。グリッドは航路から離れ、採算性の悪い鉱山が多く、公権力も積極的に介入したがらない。


 しかし、何らかの要因で利用できると一転、さまざまな勢力が介入する。ホットスポットに早代わりする。




 「今回の我々の役どころは騎兵隊だ。悪漢に襲われているヒロインを、颯爽と救出し、夕日をバックにキスシーンで終わる」


 作戦参謀の下手な冗談に、笑ったのは少数だった。


 「諸君らも、承知していると思うが、3日前、ニルド亡命政府の要人達が乗った船が襲われ、数名が海賊どもの捕虜になった。ニルドは我が連邦の加盟国だ。当然、救出する。その筋を通して金銭での解決が図られているが、奴らはタシケントと我々の間で金額を吊り上げるつもりだろう。交渉が失敗すると前提して行動しなければならない」


 連邦に加入している小国ニルドは、一年ほど前に、内乱が発生した。その鎮圧を理由に、隣国のタシケントが武力介入。その後、ニルバで新政府が成立したが、その政府は連邦からの離脱を表明した。連邦はタシケントによる武力侵攻と認定し、亡命政権を樹立させ、ニルド奪還に動いていた。今回の人質救出作戦では、タシケント軍との交戦があるだろう。


 「さて、交戦が予想される敵戦力だが、タシケント軍が一個戦隊、10~12隻。海賊団が2~3隻と推定される。そこで我が軍は、戦艦イルドアを旗艦とし、一個水雷戦隊と一個機動戦隊、グリッド揚陸用として三個陸戦大隊を投入する」


 この戦力は、ナビリア方面軍としては、かなりの大規模編成だ。


 「ニルドの要人が捕らえられていると考えられるのが、グリッドNO14 通称『双子の牙』である。ここまでで質問は」


 士官の一人が手を上げる。


 「その、情報の信憑性は。突入して誰もいませんでした。では、人質に危害が及ぶ可能性があります」


 「情報部によると、確度の高い情報だ。この情報が過ちであった場合は、速やかに撤収するしか、今のところ対処法は無い。部隊を分散させると、最悪、タシケント軍に各個撃破される恐れがある」


 作戦参謀の説明はもっともだ。


 「諸君」


 初老の男が声を上げると、全員が彼に注目した。


 「今回の作戦は、来るべきニルド奪還作戦の前哨戦である。卑劣な海賊どもより人質を救出し、タシケントの跳梁を食い止めるのだ。総員、奮起せよ」


 「タウンゼン提督に敬礼」


 作戦参謀の号令に一斉に敬礼した。


 ニルド要人救出作戦、通称『双子救出作戦』の開始である。




 カルロ・バルバリーゴ少佐が艦長を勤める突撃艦コンコルディアと、アデレシア・ラ・ロンバッハ少佐の同系艦ムーアは、救出作戦のために臨時編成された、第924水雷戦隊に配属された。


 「久しぶりの、水雷戦隊だ。この艦になってからは初だな」


 「そうですね。54戦隊は名前だけで2隻しか、いませんでしたからね」


 ドルフィン中尉が頷く。


 コンコルディアは最新鋭のエスペラント級のため、ナビリア星域には、同系艦がムーア一隻しかなく、最小編成の4隻体制すら取れていない。54戦隊の指揮官も、先任順でカルロが暫定的に行っているだけだった。


 「今回は、言うこと聞いていればいいから、楽だな」


 「始まる前から、油断せんでください。あまり呆けていると、54戦隊が正式に発足したら、ロンバッハ少佐が戦隊指揮官になるかもしれませんよ」


 「それは、ちょっと困るな。能力は折り紙つきだが、絶対、苦労するぞ。我々が」


 「先方も艦長だけには言われたくないと、思ってるでしょうけど」


 「どこかに、優秀で優しい指揮官はいないものか」


 「新兵みたいなことを。いましたか?これまで艦長の軍歴で」


 「無能で屑ヤロウなら10人ばかり、心当たりがある」


 「油断していると艦長が11人目になりますよ」


 「こりゃ、まいった」


 ドルフィン中尉のきつい言葉に手を上げて降参した。


 「それでは、いつも通りやるか」


 「アイサー。いつも通りですね」


 いつも通りが一番であると結論付けた。




 艦隊は旗艦イルドアを中心に、先鋒が第924水雷戦隊、後方に航空機動母艦を擁する第471機動戦隊、最後尾に揚陸艦と補給艦の順に航行していた。


 先日、知人になった。クアンエイシ中尉も機動戦隊として、参加しているらしい。


 「艦長。総旗艦イルドアより入電。人質解放の交渉に進展なし。これより実力行使に移れ。以上です」


 「了解した。そうそう楽には行かんな」


 「水雷戦隊、旗艦イシュタルより入電。これより双子の牙の宙域に侵入する。全艦ワレに続け」


 「第一戦闘体制発令。イシュタルに続くぞ」


 軽巡洋艦イシュタルを先頭に単縦陣で突入した。


 「これは、厄介な宙域だな」


 「小惑星帯とは聞いていましたが、ガスが混じって、艦が不安定です」


 「辺鄙な、場所にグリッドを作ったな」


 ある意味、非合法集団にとっては、絶好の隠れ場所なのだろう。


 「艦長。塵とガスによりフィーザの反応が低下しております。索敵範囲が40%減少しています」


 「情報連結を絶やすなよ。目が見えないと戦闘どころの話ではないぞ」


 艦隊は比較的、小惑星の密度の低い空間を選んで前進した。


 「艦長。双子の牙を補足。モニターに出します」


 正面モニターに、映像が映し出される。


 「なるほど、双子の牙だな」


 カルロの感想どおり、双子の牙は4つの尖った小惑星をステーションに連結させた形状をしている。


 水雷戦隊は、グリッドを包囲するためU字型に展開していく。


 「双子の牙に反応あり。船です。次々と現れます」


 艦隊の登場に、蜘蛛の子を散らすように、船が逃げようとする。


 「感のいい連中だ」


 「イシュタルより入電。全艦。警告射撃を行い、逃走する船を停船させよ」


 「よし。主砲発射。当てるなよ」


 各艦より、威嚇射撃が行われたが、その程度で投降するほど、諦めのいい連中ではない。停船する様子も無く、逃走を続ける。


 「グリッドより発砲」


 パニックでも起こしたのか、グリッドの砲台から、散発的な砲撃がくる。


 「主砲の出力をレベル3に下げる。応戦、制圧せよ」


 逃げる船は一旦放置して、コンコルディアは主砲の出力を下げ、発火点に向かって応射した。ステーションに対して高出力の攻撃は出来ない。


 「着弾を確認。敵の発火点は沈黙」


 これで、揚陸艦が安全に接舷できる。


 「しかし。どうしたものか、撃沈するわけにもいかんし」


 カルロが腕を組むと、吉報が入る。


 「艦長。後方より、機動戦隊の艦載機が接近します」


 無数のスペンサーが、コンコルディアをを追い越し、逃走する船の鼻先に銃撃を加えた。中には機関を狙って攻撃し、無理矢理停船させる。


 「おおっ。助かる」


 これで、逃走する船は確保できた。


 艦隊は、グリッドを完全に包囲し、揚陸艦から陸戦隊が次々と突入していく。


 「これで、片がついたか」


 ごく短い、抵抗ののち、双子の牙は制圧された。しかし、肝心のニルバの要人は、発見されなかった。




 戦闘終了後、コンコルディアは、双子の牙の外延部に停泊していた。当初の予定であれは、目標が発見できない場合、速やかに撤収とあったが、司令部は待機を命じた。現在司令部で今後の方針が検討されているのだろうが、末端には情報がなかなか回ってこない。


 「どうするんだ、これ」


 「情報が、間違っていたようですね」


 カルロとドルフィン中尉は、お茶を飲んで時間を潰していた。


 「艦長。司令部より入電。ニルドの要人の消息が判明しました。機動戦隊が追撃するようです」


 「機動戦隊だけか。我々にはなんと」


 ドルフィン中尉はオペレーターに確認する。


 「機動戦隊のみです。水雷戦隊には、引き続き待機が命じられています」


 どうやら、ニルドの要人を誘拐した連中は、グリッドから離れた場所にも拠点を築いていたらしい。


 「まずいな。ここで戦力を分散するのは。タシケントの襲来に対処しにくくなる」


 カルロはカップを下ろす。しばらく考えて。


 「イシュタルに繋げ。いや取り消す。ムーアに繋げ」


 ここは、単独でイシュタルの司令に上申するより、ムーアのロンバッハ艦長と連名で行くほうが、効果があるだろう。


 「艦長。ムーアより入電。繋ぎます」


 ロンバッハ少佐の方が一足早かった。




 「バルバリーゴ艦長。先ほどの指令について・・・・・・・どうしました」


 自分では自分の表情は判らない。どうやら妙な顔になっていたようだ。


 「ああ。ロンバッハ艦長。丁度いい」


 「ええ。このままでは最悪このグリッドは、反応弾の攻撃を受けるでしょう」


 想像の上を行く返答が返ってきた。


 「反応弾で攻撃?。何もかも吹き飛ばして解決。そこまでするか?」


 そう言ったものの、充分にあり得る事態だ。タシケント側として見れは、ニルドの亡命政府、要人を確保する必要は無い。無政府状態のグリッドごと吹き飛ばしても、各国の非難はさほど強いものには、ならないかもしれない。ましてや、連邦の艦隊ごと吹き飛ばせれば、充分にお釣りが来るだろう。想像に想像を重ねた予想だが、頭の悪い指揮官なら実行する。


 「そうだな。あり得る。その場合、我が艦隊かここを離れても、攻撃される可能性がある。どうする」


 「そうですね。強度の低い、暗号通信で双子の牙には、要人が居ないと流しましょう。上手く解読されれば、グリッドは攻撃されません」


 「よし。それでいこう。ただ、それだけでは弱いな」


 カルロは額に手を当てる。


 「同じ強度の暗号で、別の場所に要人が発見されたと流すか。それでも弱い。水雷戦隊をその場所に差し向けて、信憑性を上げるか。」


 「その場合、我々が反応弾の餌食になりますよ。」


 困ったように、ロンバッハは微笑む。


 「反応弾といっても10も20も飛んでくるものではない、ダミーも含めてせいぜい3~4発だ。それならイルドアの迎撃システムであれば、落とせないか」


 戦艦イルドアには艦隊防空システムが搭載されており、長距離からの雷撃にも対処できる。


 「クリアな空間であれは、充分可能です。ただ、こうデブリが多いと。確実とはいえません」


 「そうだな。現状、索敵能力は低下している。情報連結で網を張るしかない。我々が前に出て、反応弾を発見するしかないぞ。そのためにもタシケントの進攻方向を特定しなくては。イルドアを中心にして輪形陣を構築。反応弾迎撃後に集結して艦隊を迎撃。どうだ」


 カルロが捲くし立てた。


 「今、思いつくのは、それぐらいでしょうか。それにしても、さすがですね」


 ロンバッハはそう言って、褒めてくれる。


 「そうか。この程度、だれでも思いつくだろう」


 「そうかしら」


 そう言って、首を傾げた。


 「では、小官との連名で上申してください。頼みました」


 敬礼を残して、ロンバッハは通信を切った。


 「あっおい。クソ。仕事を押し付けられた」


 「何言っているんですか、本当に、ロンバッハ艦長に信頼されていますね」


 「今の会話で、なぜそう思う。それよりも、先ほどの会話の内容を上申書にして司令部に送れ」


 カルロはドルフィン中尉に仕事を投げつけた。




 カルロの上申書を、司令部は一部だけ、採用することにした。


 つまり、タシケント軍の反応弾攻撃を想定し、艦隊は双子の牙より距離を取った。


 「中途半端な指示だな。双子の牙が吹き飛ばされれば、艦隊に被害が無くても、叩かれるのは我々だぞ」


 「艦隊を危険に晒すリスクと、無法地帯のグリッドへの攻撃を見過ごした。と、叩かれるリスクを交換したのでしょう」


 ロンバッハが宥める。


 「先が見えない奴等だ。ここはナビリア星域なのだぞ。グリッドの影響力を過小評価している」


 「どうしますか」


 「こうなったら、やむをえない。独断専行する」


 「簡単に言いますが、どうするのです」


 「何か、良い案を募集する」


 「誰から」


 カルロの視線を受けて、ロンバッハはため息をついた。


 「小官をあてにされても困ります。感情的に行動しても、返り討ちにあうだけです」


 「そうだな。一旦落ち着こう。双子の牙から、距離を取ったということは、司令部も反応弾の攻撃を想定したということだ。この思考を利用できないか。つまり、引っ掛ける」


 「一歩、間違えると、軍法裁判です。落ち着いているとは言えない様ね」


 「貴官がさっさと昇進して、提督にでも成ってくれれば、こんなことに頭を悩ませなくてもすむのにな」


 「おべんちゃらも、泣き言も結構。建設的な意見を言いなさい」


 ぴしゃりと、窘められる。カルロはこの女の部下になれば、それはそれで苦労するなと感じた。


 「なにか、不愉快な感想を抱いているようですね」


 目が笑っていない、怖い笑顔を向ける。


 「いや。なんだ。ほら。そう言えば、そもそもどうして、追撃が機動戦隊のみで行われるのだ」


 「表向きは、高密度の小惑星帯のため、水雷戦隊が展開しにくいとのことですが」


 「なるほど、本音は、機動戦隊の実績作りか」


 「でしょうね」


 「別段そこに不満は無いが。では、今から機動部隊と合流しようとすると、手柄を横取りしに来た。と見られるのか。面倒だな。」


 「司令部の思惑を妨害しないように、グリッドを攻撃されないように、そして、我々が戦力的に不利にならないように、タシケントに対抗しなければなりません」


 ロンバッハが順序立てる。


 「無理筋だ。一つ一つは対処可能だが、全てを満たすとなると。ロンバッハ少佐。我々の最重要任務は」


 「ニルバ要人の確保です」


 混乱した頭を整理するために、事態を出来るだけ単純化することにした。


 「そうだ。それ以外は付帯条件でしかない。司令部の思惑に反してでも、機動部隊と合流し要人を確保。それをタシケント側に探知させ、グリッドへの攻撃が無意味であると思わせる。三つの条件の内、二つを達成できる。後はどうやって反応弾を防ぐだな」


 「それは、あなたの最初の案で発見するしか無いのでは」


 「そうだな。次の課題は提督の説得する方法」


 「そこは、ここで考えても結論は出ないでしょうね」


 「ということは」 


 「実力行使あるのみです」


 ロンバッハは獰猛な笑みをたたえた。


 カルロもそれに答えて笑いかける。横で黙って聞いていたドルフィン中尉は、嫌な予感に身震いした。


 「まず、イシュタルの水雷戦隊司令を説得する」


 「いいでしょう」




 第924水雷戦隊、旗艦イシュタルは総旗艦イルドアの左舷前方に展開していた。 


 「艦長。後方よりコンコルディアが接近します」


 「なんだと。また。バルバリーゴが癇癪でも起こしたか。所定の位置へ待機しろと伝えろ」


 イシュタルの艦長は、うんざりしたように命じた。


 「さらに、後方にムーアです」


 「なに


 「どうしたね。艦長。」


 水雷戦隊司令が口を挟んだ。


 「司令。それが、第54水雷戦隊の二隻が本艦に接近しております」


 「第54戦隊。ああ。あの二人か」


 「艦長。二隻が本艦に並びます」


 イシュタルは右舷をコンコルディアに左舷をムーアに挟まれる。


 「なにを考えとる」


 「なおも接近中。これは、強行接舷です」


 オペレーターは、悲鳴のような報告をする。


 「せっかち野郎と、じゃじゃ馬娘が、海賊にでも趣旨変えか」


 イシュタルの艦長が叫ぶが、両舷を挟まれ身動きが取れない。


 コンコルディアとムーアは無理矢理、イシュタルに艦を横付けにした。通常、他の艦に移乗する場合は、ランチのような小型艇で行うのだが、二人は海賊のような真似で、イシュタルに乗り込んだ。




 「お前たち、何をやったか、理解しておるのだろうな」


 イシュタルの艦長の顔面は真っ赤だ。


 「緊急事態につきご容赦ください。時間が惜しいのです」


 カルロとロンバッハは、しれっと敬礼する。


 「まぁまぁ。落ち着きたまえ。ここまでするのだ。それ相応の理由があるのだろ。通信では駄目なことなのだな」


 司令がその場を取り成し、話を進めさせた。


 そこから、事前に決めたとおり、主にカルロが話し、テンションが上がりそうになると、ロンバッハがフォローするスタイルで進めた。


 「よく判った。私から提督に話そう。艦長。ランチの準備を。」


 「いえ。我々と同じように、イルドアに接舷すべきです」


 イシュタルの艦長が答える前に、ロンバッハが静止する。


 「何を言っとる。そんな馬鹿な真似が出来るか」


 ロンバッハの進言に、イシュタルの艦長は呆れる。


 司令は少し考え。


 「なるほど、君らは戦略家だな。艦長。すまないがこの艦をイルドアに接舷してくれたまえ」 


 「司令。それは。ランチをご用意いたします」


 「そうではないのだよ。これは、艦隊に向けたパフォーマンスなのだよ。そうであろう」


 「ご賢察、恐れ入ります」


 カルロは敬礼して見せた。


 コンコルディアとムーアがイシュタルに接舷したのは、総旗艦イルドアからも、他の艦からも観測されている。そこに、イシュタルがイルドアに接舷するとなると、何かが起こってると誰の目にも明らかだ。こうして司令部にプレッシャーを与えるのが、二人の目的であった。


 これで駄目なら、後はどうとでもなれと、半ば自棄になっていたことは否めないが。




 「あれで。よく説得できましたね」


 ドルフィン中尉が、用意したコーヒーを差し出す。


 「今、思うと無茶をしたな。だが本番はこれからだ」


 受け取ったコーヒーを一気に飲み干す。


 イルドアに司令と共に乗艦し、タウンゼン提督を説得した。発言は全て司令が行ったが、参謀連中の冷たい視線は、司令ではなく、カルロとロンバッハに降り注いでいた。


 作戦は、カルロの考案したものを、司令部が修正を加えたと、称したものに変化した。欺瞞情報の拡散と機動部隊との合流。そして水雷戦隊は広く展開し、反応弾への警戒にあたる。


 「しかし。ここまできて何も起こらなかったら、どうしよう。二人の突撃艦乗りの妄想で終わったら」


 「今更悩まんでください。大丈夫です。そうなったら今度こそ、懲戒処分でしょうね。なにせ、艦隊司令部と、機動戦隊、水雷戦隊司令、イシュタルの艦長に迷惑かけたわけですから。」


 ここぞたばかりに畳み掛ける。


 「どこが大丈夫なんだ。大丈夫の意味を調べなおして来い」


 「ロンバッハ艦長を見習ってください。きっと今頃、どんと構えていますよ」


 「いやいや。案外。そわそわ、もじもじ、・・・・・・・・しとらんだろうな」


 自分で言い出して、想像できなかった。


 「今度、ムーアの乗り組みに聞いてくれ。どんな態度だったか」


 「嫌ですよ。ご自分で確認してください」


 コンコルディアの艦橋で、艦長と副長のくだらない会話が続く。




 悩むカルロに、吉報と呼んでよいのか、微妙な報告が来た。


 「艦長。シラサギより全艦に緊急警報。高速で接近中の物体を探知。数3」


 「本当に来たか。今回の殊勲賞はロンバッハ艦長のものだな。」


 カルロはシートから身を乗り出す。


 「イルドアよりイージスポイトシステム発動。対抗雷撃戦始まります」


 戦艦イルドアは、シラサギの探知した目標に向かって迎撃弾を送り込む。


 「よし。こちらも警戒を怠るな。タシケント艦隊の本体を補足するぞ」


 「アイサー」


 タシケントの放ったと思われる物体は、艦隊の遥か手前で、イルドアにより全弾撃墜された。


 その後、水雷戦隊は集結しつつ、タシケントの艦艇を捜索したが、探知には到らなかった。奇襲が失敗した時点で、攻撃を諦めたようだ。


 「頭悪いのか、良いのか判らん連中だな」


 「不利を悟って、素早く撤収したのであれば、バカではないでしょう」


 「艦長。陸戦隊より全艦へ、目標の保護を確認。繰り返します。目標の保護を確認」


 「終わった」


 ドルフィン中尉は、肺の空気を一気に吐き出した。


 コンコルディアの艦橋は歓声に沸いた。


 カルロは、軍帽を脱いで扇いだ。額に滲んだ汗が流れた。




 「バルバリーゴ少佐の予想通りになりましたな」


 「そうだな。よくやってくれた。やり方に多少問題はあったが、これで、許してやりたまへ」


 イシュタルの艦橋では、艦長と司令が話していた。


 「アイサー。危なっかしい男ですが、実力はあります」


 「そうだな。しかし、ロンバッハ少佐あっての行動だろうな」


 「確かに。そうですね」


 イシュタルの艦長は笑う。


 「良いコンビだ。誤解を恐れずに言うと、あれが理想的な突撃艦乗りだ。・・・・・・・・後先考えずに、敵陣を食い破れ。味方の勝敗なんぞ、我らには関係ない。目標を捕らえてただ突撃。後のことは知ったことか。それが我ら突撃艦乗りの生き様さ」


 「突撃艦乗りの歌ですね。確か司令も元突撃艦乗りでしたね」


 「さすがに、あやつらほど無茶な突撃は、しなかったがね」


 「艦隊司令部に突撃ですからね」


 そう言って二人は笑いあった。






                                        続く

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