第114話 観察
「さぁ、どうぞ」
俺は半ば強制的に椅子に座らされた。目の前には長いテーブルと、温かそうなスープが置いてある。
さすがにここまでわかりやすいと逆に俺としても怪しくなってしまう。
「どうされたのです? 飲まないのですか?」
「え……あー……えっと、これは、メイドさんが作ったんですか?」
「ええ。そうです。料理や選択、掃除といったことは全て私が行っております。ですから、このスープも私が作ったものです」
ということは……このスープがミラやキリが言ったように、信用してはいけないもの、ということは俺でもなんとなく理解できる。
しかし……同時に俺は確信していた。
このスープには、毒なんて入っていない、と。
俺はスプーンを手にすると、スープをひと掬いする。
もし、毒が入っていた場合はそれで終わりだ。腕輪がない以上、毒に対する耐性も今の俺ではないに等しい。
だが、同時に俺はミラとキリの言葉を思い出す。自分以外を信じるな、と。
俺自身が確信している。この眼の前のスープには毒など入っていない、と。
例え、いかにもな状況であったとしても、俺自身の判断を信じる……それが、ミラやキリが言っていたことを守ることになるのだ。
そのまま俺はスプーンで掬ったスープを口に運び込む。
……美味しかった。まるで問題なくスープは飲み込むことができた。
「どうですか? お味は」
「……え、えぇ。美味しいです」
「そうですか。それは良かったです」
無論、遅効性の毒という可能性もある。だが、一つのことが思い浮かぶ。
今の俺は完全に丸腰だ。しかも、腕輪もないからレベルとしてもせいぜい40レベルくらいの冒険者である。
それに対して先程のメイド……ヨトの動きは明らかにレベル100を超えているようなものだった。だとすれば、わざわざ俺をスープで毒殺する必要なんてない。殺ろうと思えばいつでもできるのだ。
俺はスープを全部飲み干した。メイドは無表情のままに俺のことを見ている。
「……美味しかったです。ごちそうさま」
俺がそう言うと、メイドはなぜか俺のことを見つめている。俺は思わず気まずくなって目を反らしてしまった。
「なるほど。自分がどういう状況にあるか、そして、どういった行動をすればいいのか……貴方様は多少はそれを理解できる人間のようですね」
「……え? メイドさん、今なんて……?」
「言ったとおりです。貴方様が状況を把握できる人間かどうかを観察していたのです。あのバカ妹……失礼。ミラの仲間として、どのような人間か知りたかったので」
そう言ってメイドは俺の方を見ながら深くお辞儀をする。
「すでにお気づきとは思いますが、はじめまして。私がミラとキリの姉、ヤトと申します。よろしくお願いします、アスト様」
いきなりの自己紹介に俺は唖然とすることしかできないのであった。
いずれにしても、俺の前にミラとキリの姉であるヤトが姿を現したのであった。
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