第62話 売り言葉に買い言葉

「フフッ……哀れですねぇ、アナタも」


 と、メルと対峙したホリアはこの上なくメルのことを馬鹿にした調子でメルに向けてそう言った。


「……何が?」


「だって、そうじゃないですか。私は勇者様のような素晴らしい人とパーティを組めて、アナタはそこのゴミとしかパーティを組めない……同じヒーラーとして同情します」


 心底馬鹿にした調子でホリアはそう言いながら、俺のことを見ている。俺は別にもうこう言われるのは慣れているからいいのだが……メルは大丈夫だろうか?


「……で、言いたいのはそれだけ?」


「は? な、なんですか、それだけって……いいですか!? どう考えたってアナタが私より優れたヒーラーであるわけがないのです。それならば、自らおとなしく負けを認めるべきなのでは?」


「別にアンタより劣っているなんて私、思っていないんだけど」


 売り言葉に買い言葉という感じでメルはまるで動じていないようだった。むしろ、煽り返されて怒り心頭なのはホリアの方のようであった。


「い……いいでしょう。さぁ、さっそく勝負を始め――」


「ちょっと待って」


 と、ホリアが杖を構えた途端に、メルが制止する。


「なんですか? 今更命乞いをする気になったのですか?」


「違うって。私達ヒーラーでしょ? それなのに……パワーで勝負するわけ?」


 ……確かに、戦士や魔法使いが純粋なパワーバトルをするのはわかるが、言われてみればヒーラー同士でパワー勝負をするっていうのもおかしな話である。


「……それならどういう勝負をするんですか?」


「そりゃあ、どっちが優れたヒーラーか比較するのなんて、お互いに治癒魔法をかければいいってだけでしょ」


 メルがそう言うとホリアは少し怪訝そうな顔をしていたが、なぜか急に嬉しそうに笑顔になる。


「フフッ……アナタ、愚かですね……この私の治癒力はヒーラーとしても超一流です! アナタは自ら負ける勝負を持ちかけているんですよ?」


「へぇ。いいじゃん。そんなに自身あるのならさ」


 まるで動じないメルに、さすがにホリアがブチ切れそうになっている。


 しかし、治癒魔法をかけるって言ってもそのためにはダメージを受けないといけないのだが……


「……荷物持ち! 来なさい!」


 と、ホリアは乱暴にそう叫んだ。メディがおずおずとホリアの方に近付いていく。


「な、なんでしょうか……?」


「腕を出しなさい」


「え……? こう……ですか?」


 メディが腕を差し出すと同時に、ホリアはいきなり懐から短刀を取り出し、その短刀を……思いっきりメディの腕に突き立てたのであった。

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