温泉5


 湯船にゆっくりとつかる。そういえば俺って今、裸なんだ。そんな当たり前の事実であっても、わずか数分ほどで起こった変な出来事のせいで忘れていた。それは良くも悪くも俺の緊張というものをほぐしてくれた。結果として今、リラックスしてつかることができているわけだが、それを思い出したせいでまた変な緊張が出てきた。


「大丈夫? 無理はしなくてもいいんだよ。無理したらよくないし、楽しむっていうことができないからさ」


 心配してきたのはさっきまで俺を困惑させた張本人である美海だった。


「改めてゆっくりしてみると、俺がここにいるのは場違いなんじゃないかって思うんだ」


 とは言ってももう女の裸で男の時のような欲情を起こすこともない。それは自分自身が女になってそういうことを考えることができなくなったというのが正しいのだろう。


「じゃ、今の恵の体の性別はどちらなの?」


「それはまあ、女もそれです」


 いや、頭ではわかっている。公衆浴場に来たらこの選択肢しか取れないことだって。でもそれでも、引っかかることだってあるんだ。


「多分、頭ではわかっているんだよね。でも心と思考が追いついていない感じなのかな。そんな感覚は私にはわからないから軽々しくアドバイスなんてできないけど、それでも思うんだ。今の君は少し性別という概念に捕らわれすぎているんじゃないかって」


 つまりどういうことだろう。性別にとらわれすぎているっていうのは。


「あまりわかっていないみたいだね」


 図星だ。よくわかるな。美海は本当に感が鋭い。


「そうだね、なんて説明したらいいのかな」


「出来たら優しい説明でお願いします」


 そうでないときっと俺の頭はついてこないだろう。


「私たちが持っている性別の違いってさ、身体のつくり以外に世間的に言われていることが大きいと思うんだ。もちろん、身体が違うし、それによって平均的な考え方の違いもあるかもしれない。でもそれすらも私たちの親やそのもっと前の人たちがずっと作ってきた考え方なんじゃないかって思うんだ。だからその……」


 美海は言葉に詰まっている様子だが、まだ俺の方も話しの終着点が見えないからなにもいうことは出来ない。


「だから男と女の大きいよ、もちろん大きい。互いに本当の意味で理解し合おうなんてそれこそ、君みたいに完全な形で性別がかわらないと無理だと思う。でもさ、私たち自身はその先祖が作り上げた男女の型にはまりすぎだと思うんだ。たとえばだけど、小さな子はさ、女の子ならお姫様に、男の子ならヒーローに憧れをもつとかね。実際、それに合わせておもちゃだって売られているし」


 確かにそうだ。男女っていうのは固定観念ではないはずだ。常に流動的でいいはずなんだ。


「男女の違いって成長して回りの環境が決めるものなんじゃないかな」


 確かにそうかもしれない。仮に男女とかいう考え方がない場所で成長した人がいたら、どんな成長をするのだろうか。男っぽいとか女っぽいというのはないかもしれない。そう考えると美海の言っていることは自然だろう。もっとも俺がどうこう言うことができるものでもないことは明らかだけど。


「だからさ、そんな世間的に思うような女になろうとか、あえて男を完全にやめてしまおうとか根詰めて思わなくてもいいと思うんだ。名前まで変えている君にこんなことをいいのはもしかしたら失礼なのかもしれないけれどね」


「そんなものなのかな」


「そうだよきっと」


 そうか、俺は少し悩みすぎていたのかな。いや別に悩んでいいんだ。だけど、型にはめすぎた考え方を持たないように考えていたのにそれに捕らわれていたなんてすごく馬鹿らしい。


「いやあ、たまにはイイこと言うねえ」


「まったくその通り。美海はたまに本当にごくたまにいいことを言う。だけどそれは稀」


 荒川と三浦が口をはさんできた。一見、美海を褒めているが、実は全く褒めていないようにも見える。いやそもそもダイレクトに悪口ではないだろうか。


「ありがとう!!」


 いや褒められていないよ! 天然なのかバカなのかわからんぞこれは。


「やっぱ美海は美海だな!」


 荒川は笑っている。よかった今度は馬鹿にした笑いではない。というか、しれっとディス

 れて気が付かない方もそれはそれで問題があるだろうが。


「さて、戯れが済んだならゆっくりとお湯につかろうよ。ここ以外にもサウナとか低温サウナとか酒風呂とか薬湯とか色々あるんだからね。三人とも満喫しようよ」


 荒川はすごく嬉しそうだ。というか詳しいな。


「ひーちゃん、本当にすきだよね。この温泉」


「ここは至高だよ。こんなに種類のあるところ中々ないからね」


 俺たちは荒川の先導でお湯につかっていくことにした。


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ここまで読んでくださりありがとうございます! 更新は頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。

作者、株取引をはじめましてデイトレードというものをしてみたのですが、元手が少ないと収益も少ないですね。まあ、当たり前のことですが。ともあれ株でお小遣い程度稼げると嬉しいです。

では明日また会いましょう!

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