温泉3
「そっか、ならこの温泉を楽しもうぜ! ここの風呂は最高なんだよ。お前ももしかしたら知っているかもしれないけれど」
「いや知らないよ。ここに銭湯があることは知っていたけれど、来たことはなかったからさ。でも雰囲気からしてよさげであることは間違いなさそう」
そう、ここは絶対に気持ちの良い温泉を提供してくれる場であると本能的に告げている。それが正面に天然温泉だと銘打っていたからというわけではないだろう。全体的な雰囲気によるものだとしか言いようがない。
「じゃ行こうぜ! まずは体を洗わないとな」
三浦が洗い場に俺を連れていく。その豊潤な体つきを俺に見せつけてくるが悪意は何もないのだろう。それがわかるから目のやり場に困る。女性の体になっても慣れない裸を見慣れて、違和感がなくなる日は来るのだろうか。自分で決めた道である以上、いつかはそのような時が来てほしい。
「早くしろよ。話したいことは沢山あるんだからさ」
「そうだよ、話したいことは沢山あるの。映画のことも含めてね」
「お、びっくりしたあ」
荒川が三浦に同調したのは、突然というほどではないがそれでも少し驚いてしまった。
「それに美海がいると話せないことだってあるでしょう。仲がいいからこそ話にくいこともね。あの娘は比較的自分のペースで入るのが好きみたいだし、話したくなったら、自分から寄ってくるでしょう」
「それは確かにあるかもしれない。荒川はそういう気配りというか、とにかくそれができるんだな」
「そんなお世辞は使わなくても大丈夫よ」
そう言って荒川は否定しているが、顔は嬉しそうである。今は眼鏡もコンタクトもつけていないので、彼女の顔をしっかりと見ることができないのが残念だ。今度みんなでここに来るときにはお風呂ようの安い眼鏡でも買ってそれをも持ってくるようにしよう。
「それで、割と時間は経ったみたいだけど、その生活には慣れてきた?」
いきなり核心を突いたことを聞くな。主語を言わなかったのは周りから好機の目で見られることを防ぐための配慮だろう。
「そうだな、体には少し慣れてきたかもしれない。気持ちも名前も改めて過ごしているわけだし。でも、生活習慣というか例えばお風呂の入り方とかはまだ全然慣れていないよ。あと、運動能力なんかもかな」
「そうだよね。君は結構運動は出来るほうだし、それが思うように動かないというんならつらいかもしれないね」
確かにこの前の体育で体が思ったより動いているのは事実だ。しかしそれだけではないのだ。身長も筋力もなくなった今、重いものを持つのは難しい。それに目線が変わっているものだから、自分の感覚が合わないでつまずいたり、ぶつかったりということが多い。それはどうしてもダメだ。注意していてもなくならない。
「でも人間関係は何とかなっているよ。これだけは本当にありがたいことだな」
「そうだよね。君は人間関係では苦労はあまりしていなさそうだったもんね。これは今までの人徳のおかげかな。誇っていいと思うよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいな。高校の連中はいい奴ばかりだし本当にストレスというか、悩まないで済んでいるよ」
「そっか、あの高校には理解できない人はたくさんいるけど悪い人はいなしみんな穏やかだからね」
本当にありがたいことだ。
「まあ、その人徳があれば学校外は分からないけど、学校内で問題が起きることはないだろうぜ」
「まったくよね、君の人徳はどこからくるのか気になるよ」
「それあたしにも教えてほしいな」
突然聞かれても、まったくわからない。俺は普通に過ごしているだけなのに、人徳があるとか言ってくれるのだから。ありがたい話ではあるのだけれど、どうも答えることが出来ない。そのように伝えた。
「それをわからないと言えることがすごい」
「まったくだよな。あたしなんかじゃ絶対に言えない」
何なんだこの2人の評価は。
「もう、3人とも私抜きで何話しているのよ~」
「ヒィ!?」
美海が後ろから突然抱き着いてきた。恥ずかしいとかいう感情はないのかこいつは!
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お久しぶりです。すぐに更新しようと思っていたら、半年程開けてしまいました。申し訳ありません。そして、これからもよろしくお願いします。
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