温泉1
「そうでしょ、そうでしょ。すごくいい映画だったよね。あの見る人を選ぶ感じがまたたまらなくいいんだよねえ」
「私には少しきついかな。だってさ、あんなにドロドロしたのに結局バッドエンドだなんて登場人物に対してひどすぎるよ。そうは思わない?」
美海は少しきつかったようだが、三浦はどうなのだろうか。俺は三浦のほうへ目線を向けた。彼女はただ笑っているだけだった。
「あの映画、そんなに笑う要素あったかな……」
「違うよ、そこにいる二人の話を聞いていたら面白くて面白くて。むしろそう思わないほうが謎。でも映画自体は面白かったと思うな。あそこまでドロドロしてるのを見たのは初めてかもしれないけれどあたし的には満足」
美海は少しきついという反応を見せたが、それ以外はおおむね満足してくれたようだ。よかったよかった。自分で選んだ映画を喜んで見てくれるというのは中々憂いしいことだ。
「そしたらここからはどうするんだ? 時間的にはお昼と言いつつ今食べているしさ」
「買い物の続きでいいと思うけれど、二人ともどうかな?」
「あたしもそれでいいよ。見たいものも沢山あるし、花崎に試したいことも沢山あるしな。それにこの後暇になっても時間はあるしカラオケとか行けばいいんじゃね?」
「そうだね、私もそれでいいと思うよ。それにしても地方は遊ぶところが少ないことが難点とか言うけど実際どうなんだろ」
荒川の言うこともわかる。都会の人間は地方には遊ぶ場所がないという。これは事実なのだろうが、ないわけではないので事実と異なるともいえる。
「俺は東京みたいな都会には住んだことはないしそこに住んでいる人が地方には遊び場がないという理由はよくわからないけれど個人的には言われるほどないとは思わないよ。だってここで生活して満足している学生だってたくさんいるだろうし」
「そうだよね。このまえテレビにインタビューされていた人で都会にはおしゃれな店とか遊ぶ場所がたくさんあるけど地方にはないと言っていたから少し気になったんだよね」
そんなこという人がいるんだ。俺的には東京23区内に住処を構えるほうが大変だと思うけどそれも人それぞれなのだろう。
「あ、でも私思うんだよねー」
唐突に美海が口を出してきた。
「東京の家は狭そうじゃない。なんか東京に行ったときに街を見たことあるけどすごく密集していたし、あんな小屋みたいなところに住んでいるほうが苦労しそうだなって」
なるほどそれは一理ある。でもそこに実際に住んでいる人たちに、あなたたちの住んでいる建物は家とは言えない。それは小屋だ、なんて言ったら怒られそうだな。
「そんなことよりも、早く行こうぜ。いくら時間があると言ってもそんなことに使っていたらなくなっちまう」
それもそうだ。俺は三浦に賛同してファミレスを出る提案をした。そして向かったのは駅前から少し離れた場所にあるショッピングモール。駅前にあるのとは異なるがここも大きい。ここでは何を見るというのか。それにここで見られるものはすでに駅前で見ているような気がするのだが。
「あれ、恵もしかして私たちが何を見たいのかわかってないのかな?」
なんか癪に障る物言いだな。
「……そうだよ。だから教えてよ。何を見て何をするというのかをさ」
美海は少し考える仕草をわざとらしく見せてから、満面の笑みでだ~めと言い放った。腹が立つことこの上ない。三浦と荒川を見ても笑っているだけだ。
何はともあれ、半ば連行されるような形でショッピングモールに行った。さてどこに行くのか見当もつかない。
「なあ、いい加減どこに行くのか教えてもらってもいいかな?」
答えなど教えてくれないことは分かり切ってるが、それでも聞いてみた。
「もう着いたよ。目的地はここ」
「ん?」
俺はショッピングモールの敷地には入っているが建物には入っていないハズ……
「いやだからあそこだよ、目的地はさ」
美海が指さした先にあるのはスーパー銭湯というやつだ。そこは天然温泉を売りにしているし、俺も何度か家族と来たことがある。ああ、なんだか嫌な予感がしてきたぞ。
「あの、美海さんの指さしている方向が銭湯に見えるんですが……」
「あそこ以外に何があるっていうの」
よし、一度二人を見てみよう。反応を見てみたっていいではないか。
「花崎君、ファイト!」
「花崎、気持ちいいぞ!」
ダメでした。もはや入らないという選択は俺には残されていないようである。不安だ、どこまでも不安だ。
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