報告
「それはもう学校には伝えたのか?」
「いやまだだけど、今日言うつもりではある」
「それじゃ、第三者で初めて知ったのは俺だな」
「そういうことになるな」
蓮は非常に嬉しそうに笑った。初めて知ったくらいでそこまで喜ぶ理由は分からない。言えることは一つ。この場に美海もいなくてよかったということ。どちらか一人だけだったから穏便に済ませることができている。まったく落ち着きのない生活だ。
「すると、役所とかにもいかないといけないのか」
「そうだな。でも俺は未成年でそういうのは保護者同伴のほうがいいだろうし、というかそうじゃないと受け付けてくれないだろう。でも父さんも母さんも休みが今週は取れないみたいだから、役所に行くのは来週だな」
「思わぬ準備期間が出来上がったということか。よかったのか、悪かったのか」
「いや、いいだろう。俺の精神面というよりも学校とかの書類書き換えの観点でさ」
でも俺自身にとっても有用な準備期間にはなる。それは俺が自分を見つめ、本当にこれでいいのかを確認する期間。変えようと必要は無いのかもしれないが、変わらざるを得ないこともたくさんある。生物学的にも男と女はまるで違う。それなのに今までと全く同じよう過ごせというほうが無理がある。
「みんな慣れないだろうなあ」
慣れては欲しいと心から思うが、なかなか難しいだろう。
「そうだな。でも俺たちの高校の人はいい人しかいない。多少、ひねくれた奴もいるけど、根はいい奴らだ。絶対に優しく受け入れてくれる。そういう人の集まりだよ」
「そこについては同感。あの学校の生徒に対する謎の信頼はある」
治安がいいというだけではなかなか証明できない。変人の集まりと称したり、称されたりすることがたくさんあるが、それが関係しているのだろうか。
「不満もいっぱいあるけど、基本いい高校ということじゃないか」
「そうだな。姉ちゃんも卒業してから、あの学校の生徒は民度が高い、とか人間的によくできている人が多いってよく言ってくるんだからそうなんだろうなあ」
「お前の姉ちゃんに何があったかは分からんが、大学で何かあったんだろうなあ」
そうとしか考えられない。あの姉はあれで人を見る目がある。何かうんざりするようなことがあったのだろう。
「コホン」
何やら後ろから咳払いが聞こえる。悪寒も走ったので、恐る恐る振り向くと、そこには美海が立っていた。しかも面々の笑みを浮かべており、それが怖さを増幅させていた。
「や、やあおはよう美海」
「おはよう恵也。そんなに慌ててどうしたの?」
「い、いや突然だったからびっくりしただけだよ」
本当に突然だったので別に嘘はついていない。それは美海に通用するかは分からないが、何も言わないよりもましだろう。
「そうなんだ。私には君とそこにいる男が秘密の話をしているように思えたけど?」
やはりだめだったようだ。さてこの状況をどう切り抜けようか。ここは俺と
蓮が余計なことを言わなければ、美海を刺激することなく、場を納められる。あれ、俺は一体何をしているのだろうか。だんだん、俺が美海と蓮が喧嘩しないように取り持たないといけないのか……
「そうだ、美海にも言っておくけど、俺名前変えるよ」
「そう、なんだ。新しい名前はなんていうの?」
「恵だ。いい名前だろ」
「そうね、すごくいい名前だと思う」
「おっと、俺は先に職員室に行くからここで」
いつの間にやら、高校の昇降口の前まで来ていた。そこで靴を脱いでスリッパに履き替える。上履きの高校もあるのだろうが、この高校はスリッパだ。不便なこともないしそれでいいと思う。
二人とはいったんそこで分かれて俺は職員室へと足を運んだ。時間が許すなら朝のうちに、
部活の顧問のところにも行こうと思う。
「失礼します、花崎です」
俺は職員室に入って、担任の机のある場所に足を向かわせた。うちの学年の担任の席は少し奥にある。
「おはようございます先生、少しお話があります」
「おう、おはよう花崎。どうしたんだ?」
「名前のことで少し伝えたいことがあります。僕は名前を変えることにしました」
「そうか、新しい名前は何というんだ?」
「恵です。両親に話したら真剣に考えてくれました」
「そうか、いいご両親だな。それで、戸籍はもう変更したのか?」
俺は現在の状況を伝えた。書類の書き換えのために早めに伝えたというと、気配りありがとうと言われた。
「書類の書き換えは大変だから助かるよ」
どうやら早めに伝えたのは正解だったようだ。話自体はそれで済んだのだが、その後の雑談に花が咲いて結局朝の時間に顧問に話をすることはできなかった。
「調子はいかが?」
俺は教室にふざけた調子で入った。
「おい、聞いたぞ花崎、名前変えるんだってな」
「お、耳が早いな。蓮から聞いたのか?」
「その通り。とは言っても、名前が変わっても花崎は花崎だしそれが揺らぐことはないし」
「芦屋の何気ない一言が心にしみるなあ。俺はいい友人を持ったもんだ」
それをあからさまに聞こえるように言うと、芦屋は照れてよせよと体をくねくねさせた。
「くねくねしないほうがいいよ。すごく変質者に見えるから」
「何だよ、田中。俺は変質者じゃないぞ。でもそう見えるというのなら、やめておこう」
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今日は少し調子が良かったみたいでそれなりに満足のいく文章が書けた思います。毎日文章を書いていると、日本語って難しい、物語を紡ぐ作業は大変である。この二つのことをよくよく理解させられます。
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