姉と話


「さて、次は何しようか」


「もう少しゲームしたいところだけど、宿題のほうに時間をかけすぎて結構いい時間なんだよな。さすがにもう帰るわ」


「私も帰ろうかな。それじゃ恵也、ショッピングの件はまたあとでね」


 時計を見ると、もう7時半だ。ここいらが潮時だ。


「おいよー、じゃまた明日な」


 二人は帰っていった。ゲーム機を片付けて一階に降りると、姉がジャージを着てソファに横たわっていた。


「課題、終わったの?」


「恵也か。課題自体は朝には終わったよ。さっきまでやっていたのは別件、サークルで必要なことをしていて、大変だったよ。今日からしばらくはゆっくりしたい……」


「なんか大変そうだな」


 一体何をすればそんなに忙しくできるのか。


「そうだ、父さん帰ってきたよ。今、お風呂入っているから話したいことがあるならそのあとでね」


「あれ、母さんは?」


「まだ帰ってきてない。今日はトラブルがあってその処理で遅くなるかもってさ」


 母さんも結構忙しい人だが、仕事は早い人で残業をすることはほとんどない。トラブルが起きたというのはかなり深刻なのだろうか。と、そんなことを俺が気にしたところで意味がない。


「そしたら夜ご飯はどうしようか」


「あー、私が作っといた。お風呂入ったら食べようか。私は入ったし」


「姉ちゃん、少し聞きたいことがあるんだけど」


「なに?」


「確かアパートを借りていたよな」


 そう。つい忘れてしまいそうになるがこの姉は大学から近い場所にアパートを借りてそこに住んでいる体になっているが、どういうわけか、家にいることのほうが多い。


「そうね、確かに私はアパートを借りているけど、最近引き上げることも検討して知るんだよねえ」


「えっと、ここからだと遠いから借りたんでしょ?」


 姉は手を頭の後ろに回して掻いた。所作がおじさん臭いぞ。


「そのはずだったんだけどね、私は文系で案外時間あったし、最近バイクも買ったしそれで登校すれば時間がかからないことに気が付いたのよ」


 この姉は当然、車の免許も持っているがバイクを買ったのは、車だと維持費とかが大変らしく、バイクは車よりも安いことが理由らしい。


「それなら借りる必要は無かったんじゃ……」


「それは今だから言えること。この家から大学までは結構あるの。それなりに有名で、生徒も多いはずの大学なのにどういうわけか駅からは遠いし、便も悪い。電車の本数も、通学時間以外は少ないしね。あれはもう不動産会社の陰謀としか考えらないわ」


「なるほど、それがバイクだと急に便利になると」


「そうよ、この辺りに住んでいて車やバイクを買った人はかなりの割合でアパートを引き合上げているわね。今になって思うと、アパートを選んだ時何件も洗濯機とか冷蔵庫、ベッドまであったのはこういうことなのかってね」


「それで引き上げるなら、いつになるんだ?」


「そうねえ、まだ決めていないけど早いうちにはしようかな。家賃は私が払っているし」


 意外過ぎる。いつバイトしているのかは知らないが、バイクも自分の金で買ったと聞いている。本人が言うには親に出してもらっているのは学費だけらしい。


「やっぱり姉ちゃんはすごいな」


「恵也も大学生になったらわかるよ」


 何かわかることがあるらしいので、それはその時の楽しみとしておこう。


「おーい、出たぞ」


「お、父さんお帰り」


「むっ…、写真付きで知らされていたが、実際に見るとなかなか信じられないな。でもやっぱり恵也は恵也だな」


 父さんも優しい言葉を投げかけてくれるが、格好が下着なのがため息をつかせてくれる。それでも太っていないし、不潔ではないのが救いか。


「服くらいは着てくれよ」


 普段は着てくるのにどうして今日に限ってきていないんだ。


「すまんすまん、面倒とかではなくて出張明けで家で風呂上りにビールを飲む格好と言えばこれだろうというのがあってな」


 父さんの平謝りと共に冷蔵庫から取り出した冷えたビール缶を開けるプシュッという音がした。


「あー、家で飲むビールは旨いなあ」


「恵也も早く風呂に入るんだ。話したいことがたくさんあるんだ」


 俺も父さんとは色々と話したいことがある。下着とかを部屋に取りにいって風呂に入った。温度はちょうどよく温まる。蓮たちとゲームで流した汗が流れていき、気持ちがいい。肌が心なしかすべすべだ。

 髪の毛も以前より通りがいいしさらさらだ。洗い方とかは母さんに教えてもらった。あの姉も教えたがっていたらしいが、必死で課題をしていてそのような時間がなかったんだ。仕方がない。


「ふぁ~」


 声が漏れ出る。高い声にはいまだに慣れない。自分で話しているにに自分でない誰かが話をしているような感覚に襲われる。少し歌ってみようか。そういう風な歌になるのか。いや、やめておこう。やる意味もないし、早くでて父さんと話すことを優先したい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る