変化の日1


 ……眠い。目覚まし時計で目が覚めた。まだ、頭がぼんやりしている。それに体の調子がなんかおかしい。どれ、もうひと眠りするか。おやすみなさい。


「さっさとおきんかー!!」


「うわっ!」


 俺の部屋に突然怒声が轟いた。バカ姉の声らしい。朝からうるさいことだ。というかなんでアパートに戻っていないんだろう。こうなったら絶対に起きない。


「……」


 いつもならこうしていると、姉は俺の毛布をひっくりえして、ベッドから落とそうとする。姉が大学生になり引っ越すまでずいぶんとやられた。しかし今日はそんなこともない。不思議な心地だ。


「ねえ、恵也、あんた鏡見てきなさい」


 姉がかけてきたのは意外過ぎる言葉だった。俺はその意味が理解できず、首を傾げた。


「いいから、見てこい。ホラ、起き上がって」


 姉に誘導されながらも、調子の悪い体を起こして隣の姉の部屋にある姿見に映された自分自身を見た。


「? 姉ちゃん、俺をおもいきりつねってくれ」


 姉はしょうがないと言いながらも俺の頬をつねってくれた。結論をいうと、それは痛かった。つまり夢ではないということだ。


「現実を見るのよ。早く病院に行きましょうか」


「ち、ちょっと待て!」


 姉は俺の手を強引に引っぱり一階へと駆け降りた。

 ……姿見に映っていたのは俺ではなかった。いや、俺なのだろうが、昨日まで俺が理解していた自分ではない。髪も長くなっていたし、胸も膨らんでいた。俺は部活で筋トレをかなりしているので胸筋で胸は堅かったが、それは見た目だけでも明らかに弾力を持っていた。それに目線もいつもより低い気がする。


「お母さん、恵也を病院に連れていく準備をして。今すぐに」


「何なの朝から焦って。恵也に何かあったの?」


 母は姉の真面目な口調にただ事ではないこと思ったのかすぐに俺たちのほうを見た。


「……弓弦、その子はあなたが誘拐してきた子じゃなくて、恵也なのよね」


「そうよ、ここにいるのは正真正銘恵也よ。それと私は犯罪なんてしないわ」


 姉は強く反発した。実の母親に犯罪を疑われるなんていったい、今までに俺の知らないところで何をしたんだ。


「でも病院に行くのはご飯を食べてからね」


「どうしてなの。早く言ってみてもらわないと」

「弓弦の言うことももっともなんだけど、恵也は話せるし、大事になりそうではない。それに恵也のお腹の音を聞いてみなさい。なっているでしょう」


 うっ……、聞かれていたのか。


「それは確かにそうか。それなら早くご飯を食べて病院に行きましょう」


 俺の胸の膨らみと言い、話すと声も妙に高い。その上に目線も違う。認めたくはないからまだ確認はしていないけれど、股間に膨らみもない。これは俺の勘は当たっているのではないか。


 母が随分と冷静なのはどうしてだろうか。母は強しというのはこのことなのだろうか。ともあれ、朝ご飯を食べて、母と姉と共に病院へと向かった。ちなみに父は一緒に住んでいるが、現在、一週間の予定で出張中だ。明日には帰ってくることになっている。



 病院に行く前に予約をしようとかかりつけの医者に電話すると、近くの大学病院に行くように指示された。そのため、紹介状をもらって大学病院へと向かった。


「これ、結構大事になっていないか」


「でも恵也はそんな風に話しているし、ダイジョウブなんじゃない」


 大丈夫という言葉がどうにも不安に感じられる。姉もそう思っていたのか抑揚がない。正直、不安だ。

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