無能な家族に追放された貴族少年、実は天職が《チート魔道具師》で、辺境で内政無双をしていたら、有能な家臣領民が続々と移住してきて、本家を超える国力に急成長。あとチート魔道具で軍事力も半端ない

ハーーナ殿下@コミカライズ連載中

第1話報われなかった毎日

「ライル、お前のような愚息は、追放じゃ!」


 ある日、いきなり義父から“追放”を言い渡されてしまう。


「ど、どうしてですか、父上? ボクがなにかしでかしましたか?」


「『ボクがなにかしでかしましたか?』ではない。キサマは、何もしてこなったから追放なのじゃ! 成人を過ぎた十五歳になった今も、初級攻撃魔法さえ使えず、簡単な子鬼ゴブリンでさえ倒せないじゃいか⁉」


「あっ……それは……」


 義父が指摘してきたことは、間違いではない。


 大陸の貴族は生まれた時から、魔法の才能を持つ者が多い。

 成人の十四歳を過ぎた頃には、大抵の貴族は初級魔法を習得。領地を脅かす魔物を討伐するのが常識だ。


 でもボクは生まれた時から、攻撃魔法の適性が無かった。

 そのため成人を過ぎた十五歳の今でも、攻撃魔法による魔物退治を済ませていなかったのだ。


「ふん! それみたことか!」


「で、でも父上。それでしたら魔法による魔物狩りではなく、領地の役に立つ道具を、ボクは作らせてください! それなら自信があります!」


 ボクは攻撃魔法を使えないけど、道具作りは幼い時から得意。義父や家族の目を盗んで、色んな物を作ってきたのだ。


「はぁ? 何を、戯れ言をいっておるのじゃ? 領地を脅かす魔物を、攻撃魔法で討伐できずに、下らない道具作りだと⁉ キサマは貴族の誇りと責務を忘れたのか⁉」


「あっ、それは……」


 この大陸の各地には、魔物が常に発生している。

 そのため魔法が使えない領民を、守ることが貴族の一番の役目。つまり攻撃魔法を使えない貴族の者は、貴族として認められていない風習なのだ。


「で、でも、父上。ボクの作った道具を改造したら、実は魔物を討伐することも……」


「うるさい、黙れ! 道具作りなどという下賤な者は、当アルバート家の恥でしかない! 今すぐ、この屋敷を出ていけ!」


「えっ、今すぐですか⁉ でも北の森に奥を、ボクが何とかしないと……」


 アルバート領の北部には、深い森が広がっていた。

 数日前、魔道具作りの材料を探しに行った時に、ボクは危険な場所を発見したのだ。

 一応は仮の魔道具で結界を張っておいたけど、早めに本格的な結界を設置する必要がある。


 こんな急に追放されたら、アルバート領に危険が及ぶかもしれないのだ。


「ふん! そんなモノはワシや他の優秀な息子たちで、どうにでもなる! ほら、早く立ち去らなければ、反逆罪で今すぐ死刑にしてやるぞ!」


「し、死刑⁉ はい、分かりました……」


 義理とはいえ、まさか父に死刑の宣告をされると、夢にも思ってもなかった。ボクはしぶしぶ従うことにした。


 自室に戻り、自分の荷物をまとめる。

 部屋の秘密の地下室に移動。魔道具と材料をすべて、自分の収納袋の中にしまっておく。


「ふう……この地下室の入り口も、厳重に封印しておこう。さよなら思い出のボクの研究室……」


 この地下室は家族に内緒で、七歳の時に魔道具で、ボクが掘り起こした場所だ。

 それ以来、八年間、家族の目を盗んで、自分の好きな魔道具を製造してきた。でも追放された今後は、二度と足を踏み入れることは出来ない。


「おい、早くしろ! クズライル!」

「遅ぇんだよ、ノルマライル!」


 そんな時、部屋の廊下から、兄たちの怒声が聞こえてきた。

 ボクは急いで地下室を封印。リュックを背負って廊下に出ていく。


「ダラン兄さん、エバリン兄さん、お待たせしました」


「兄さん呼ばわりだと⁉ 何を言っているんだ⁉ 今日からお前は、アルバート家から追放されるんだぜ!」


「ああ、そうだぜ! 早く、屋敷から出ていけ! 義理とはいえ、お前のような無能な弟が、居なくなると思うと、せいせいするぜ!」


 二人の兄は攻撃魔法用の杖で、ボクのことを威嚇してきた。

 戸惑うボクは屋敷から追い立てられる。

 この二人の兄は攻撃魔法を使えないボクのことを、昔から毛嫌いして見下していたのだ。


 そんな兄たちに脅されながら、屋敷の正面玄関に向かう。

 途中で他の姉弟や義母たちも、ボクに向けて嘲笑をしてきた。みんな『アルバート家の恥を追い出せて清々する!』と厳しい言葉を放ってくる。


「おい、クズライル。これに乗れ!」


「えっ……でも、これは護送車じゃ?」


 屋敷の前にあったのは、馬に引かれた鉄製の荷台。椅子も何も無い、荷台の鉄の檻だ。


「お前には、お似合いだよ! この無能者が!」


「……はい。分かりました」


 このままでは殺気だった兄たちに、攻撃魔法で殺されてしまう。

 仕方ないので護送車に乗り込む。


 うっ……乗り心地が悪いな。

 椅子も何も無い鉄の床だ。


「最後の情けだ。それじゃ、“お前の新しい領地”に送ってやるぜ、クソ野郎」


 兄たちの操る馬で、護送車は出発する。

 アルバート本家とは別の領地で、追放されたボクはこれから暮らしていく。そのために運ばれていたのだ。


「うっ……これは……」


 ボクのいる鉄の荷台の乗り心地は、予想以上に最悪だった。

 しかも道中でも、ろくに食事も与えられなかった。

 ボクで固いパンを、水で流し込む。


 一方で兄たちは酒を飲みながら、美味そうな肉にかぶりついている。

 本当に辛い道中だった。


 ◇


 アルバート家を出発してから、数日が経つ。


「さぁ、キサマの“新しい領地”に着いたぞ。早く降りろ、無能ライル!」


「はい……えっ、ここが⁉」


 強制的に降ろされたのは、周囲に何もない荒野。

 遠くに深い森があるけど、明らかに魔物がいそうで危険な雰囲気。周囲には人が住んでいる気配はない。


「に、兄さん……本当にここなんですか? もしかしたら間違いとか……」


「はぁ? 何を言っているんだ。ここは間違いなくアルバート家の領地さ! まぁ、飛び地な上に、領民は誰一人いないけどな!」


「昔から開拓に挑戦したが、全部、ああなっちまったらしいぜ!」


 兄たちが指差した先に、小さな廃村があった。木造の建物は魔物の攻撃によって、ボロボロに崩れ落ちている。

 それを見ただけでも、この場所が危険なことが理解できる。


「そ、そんなボクは攻撃魔法が使えないのに、こんな場所にいたら死んじゃうよ……」


「まだ分からないのか、ライル! 貴様は追放じゃなくて、実質的な流刑で死刑なのさ!」


「あっはっはっは……じゃあな。ライル。名義上はこの地図の場所が、お前の名義になっている! 頑張って開拓して、二日くらいは生き延びてくれよな! はっはっは……!」


 そう言い残して、兄たちは立ち去っていく。

 途中の宿場町で女を買いに行こうぜ、と笑い声が聞こえてきた。


「はぁ……本当にボクは追放されたのか……」


 一人になって残酷な現実を受けいれる。何とも言えない虚無感に襲ってきた。


「でも、後悔しても仕方がない。生きていくために、次に進もう。さて、まずは住む所を探そう!」


 こうしてボクは実家を追放。

 新しい領地という名の流刑地で、生き延びていくことにしたのだ。


 ◇


 ◇


 ◇


 ――――だが追放したアルバート家の者たちは、知らなかった。


 実はライルは大陸でただ一人チート魔道具師の才能を有することを。


 彼が作り出す魔道具は、全て規格外の能力を発揮すること。


 そしてアルバート家がここ数年間、順調だったのは、ライルが影ながら魔道具で解決をしていたことを。


 ライルがいなくなると魔道具のメンテナンスが出来ずに、アルバート領に大問題が引き起こることを。


 何も知らずに追放したアルバート家は、これから一気に衰退していくのであった。

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