利点09. 「使用者を選ばない」

 無課金ライト層エンジョイ勢プレイヤーのImitationCat145はその日、久しぶりに【テイム】スキルを発動した。

 【テイム】はフィールド上のモンスターMOBに使用すると確率で対象をペットとして捕獲できるスキルで、捕獲したペットは戦闘や愛玩等に役立つ。ただしこれを最序盤~序盤を越えても活用するには、テイマー特化と言うべき装備、スキル構成、最低限のINTとLUK、またペットに合わせたステータス構成等が求められる。そのため、スキルの利用者も玄人と素人の両極端だ。

 ImitationCat145の場合は、ゲームを始めた当初にスキルショップで見かけて興味を持ち、同時期にゲームを始めたリアル知人のStrawberryEater427に資金を借りて購入し、何度か使った後はスキルスロットから外して忘れ去っていた。

 今回、StrawberryEater427の指示を受けなければ、永久にそのままだったかも知れない。


「シズナさん、言われた通りステップウルフを【テイム】して来ましたけど、何に使うんです?」

「すまないねピヨコくん。後は、この【拳銃】を頭部に固定して、銃爪ひきがねと尻尾を【鋼線】で繋げば……ふふふ、完成だ」

「えええ……何ということを……」


 頭に【拳銃】を乗せたステップウルフは、その異物に気付いた様子もなく、大人しくその場に伏せ続けている。何らかの拍子に尻尾を大きく動かせば、その頭上の銃口からは銃弾が放たれることだろう。


「名付けてガンウルフ。ガンドッグは鳥撃ち猟のサポート役だが、ガンウルフは自ら銃を撃つのさ」

「動物愛護の人に怒られますよ?」


 どこにでもいる動物愛護主義者は、動物のように見えるデータに対してもその旺盛な愛護精神を発揮し、その裏に人間という名の動物が実在するプレイヤーをも追い詰めると言う。

 事実『Ken & Maho Online』においても、ステップウルフに【爆弾剣】を縛りつけた「アンチタンクウルフ」戦法を発明したプレイヤーがオンライン/オフライン問わず激しい糾弾を受け、遂には精神を病んでゲームを引退したという過去がある。


「それに、ガンウルフと言っても威力は【拳銃】ですよね」

「ふふふ、ピヨコくん。ガンウルフの仕事は銃撃ではないのだよ」

「どういうことで、うわっ」


 パン、と乾いた音。ガンウルフが待機モーションで尻尾を一振りし、同時に【拳銃】の弾がImitationCat145の目前を通過した。

 StrawberryEater427は確かに銃撃が成功したことに少し微笑むと、そのまま説明を始める。


「テイムモンスターはシステム上、自滅行動を取ることが出来ないのは知っているだろう。

 死に瀕するダメージを負った場合や、絶対に勝てない相手への攻撃を指示された場合、プレイヤーのスキル構成やステータスにもよるが……基本的には敵前逃亡し、野に帰る」

「……私の最初のペットも、それで居なくなりましたからね」

「勿論、穴に落ちろとか、マグマに飛び込めとか、【爆弾剣】を起爆しろとか、そう言った命令も同様だ」


 そこまで聞いて、ImitationCat145は少し嫌な予感がした。


「しかしこのガンウルフならば、攻撃意思に関わらない方法で攻撃行動を命令することが可能だ。例えば強敵の釣り出し、例えば大量に用意してのヘイト分散、例えば【爆弾剣】の起爆」

「動物愛護の人に怒られますよ」


 かくしてガンウルフ計画は途絶。

 いつ暴発するかわからないステップウルフが、最序盤エリアの野に放たれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る