来世では異世界最強の勇者でハーレム生活と信じていたのになぜかギャルゲー的モブキャラになっていた話

石田夏目

第1話どうせ俺はモブキャラ人生

「危ない!」


またありふれた一日がはじまるはずだった。

学校に行って退屈な授業を受け

家に帰ってゲームやアニメを見る

そんなごく普通の一日が。

けれど俺の人生は今この一瞬ですべて消えて

しまった。

振り返ってみると

特にこれといっていいことはひとつも

なかった。

顔も正直イケてる方ではないし

成績もよくて中の中くらい。

けれどルールを破ったことはおろか

誰かを苛めたこともなければ悪口をいった

こともない。

自分で言うのも何だがこんなに真面目な

男は世界中を探しても俺しかいないはずだ。

なのに人生というのはこうもあっけなく

閉じてしまうものなのか。

あぁでも、

ラノベとかではこういうはじまり方を

すると異世界に転生して勇者に

なったりするんだっけ。

きっと俺も真面目に生きてきたんだから

そういう展開があってもおかしくないよな!

神様頼む。

来世では異世界最強の勇者でハーレム生活。

うん。最高だな。

うわぁぁぁ…んん…なんかやたらと

眠たくなってきたな。

とりあえずちょっと一眠りするか。

きっと目が覚めた頃には素晴らしい

人生が待ってるはず…


ジリリリリリリリ

「うるせぇ!…ってあれ?」

けたたましい目覚まし時計の音で

目覚めると俺は横断歩道ではなく

ベットの上にいた。

まさか、夢だったのかとほほをつねってみるとヒリヒリとした感触が確かに残る。

どうやら夢ではないらしいが

周りを見渡してみると見覚えのない

アイドルのポスターや制服が壁に

かかっていた。

「俺の部屋ではない…ということは」

ラノベ的展開キタコレ。

はっはぁーん。どうやら俺はギャルゲー

みたく女子にフラグたてまくりの男主人公

ポジションだな。

うん。これはこれで悪くないぞ。

前世で徳積んどいてよかった。

これはどんなイケメンに生まれ変わっているのだろうとルンルン気分でベットから降り

鏡をみるとそこにはあまりパッとしない

顔の男が映って…って

「いや、前世の俺のまんまじゃん!」

はぁと思わずガックリと肩を落とす。

ん?いやまてよ。

イケメンと美女が恋に落ちるシナリオより

冴えない男子が美女達にモテまくるシナリオのほうがおいしいか。

神様、意外と分かってんな!

意気揚々とベットから降りるとトントンと

扉をノックする音が聞こえた。

「太郎ー?お友達来てるわよ?」

「ん?友達?…太郎?」

そうか。俺の名前か。と納得し適当に

返事をすると階段を下り玄関を開けると

俺の前にはこれまたいかにも

冴えない眼鏡の男子がにこにこと

笑っていた。

「おーい。迎えにきたぞ。って

お前なんでまだパジャマなんだ?」

「ん?なんでって今起きたからだけど」

うわぁぁぁとあくびをひとつ。

ほんと十年ぐらい眠ってた気分だ。

「はぁ!?今って今日入学式だぞ!

頭大丈夫か?」

「…え?入学式?」

「早く着替えてこいよ!

入学そうそう遅刻とかまじでしゃれに

なんねぇぞ!」

事情がいまいち飲み込めないまま

二階にあがり

壁にかかっていた真新しい制服に

袖をとおす。

うん。なかなか似合うな。

「お待たせって…うわっ!ちょっ…

まじで待っ…」

腕をおもいっきり引っ張られ

思わず前につんのめりそうになる。

「ほら走るぞ!ってお前そんなに

足遅かったか!?」

…悪かったな。

どうせ小学生の頃のあだ名はカメでしたよ。

なにも足遅い設定まで引き継がなくてもいいのになぁと思いつつも自分史上

最高速度でなんとか離れないように走り

校門を潜り抜けた。

酸素不足で死にかけている俺とは対照的に

そいつは涼しい顔をして掲示板を眺めていた。

「おっ俺ら同じクラスだな。」

「はぁ…はぁ…はぁ…それ…は

…よ…かった。」

(くそっ見た目は文化部顔なのに

なんでそんなに足速いんだよ!)

「おーい。早く来いよ?置いてくぞ?」

「おぅ…いま…いく。」

呼吸を整えつつ教室へむかい

扉の前につくと深く深呼吸をした。

ここから俺の第二の人生がはじまる。

そう思うとなんだか急に胸がドキドキと

高鳴る。

今日から俺の薔薇色学園生活が

はじまるんだ!

そう意気込み扉を開けると

目を疑うような光景に出くわした。

なんだあれ。

俺の目がおかしいのかとごしごしと

こすってみるがやはり変わらない。

「なぁなんであいつあんなに

輝いてるんだ?」

「輝いてる?なんのことだ?」

どうやら俺にしか見えないらしいが

なぜかそいつだけ背後から

キラキラとした光が出ている。

一体どういうことなんだ?

「ねぇ、そこ邪魔だから退いてくれる?」

あっすみませんと後ろを振り返ると

そこには今まで見たことないような

かわいさの女子が凛とした表情をして

立っていた。

透き通るような肌に、くりくりとした目

肩まであるボブヘアーはその顔の小ささを

引き立て彼女によく似合っている。

思わずボーと眺めていると不思議な顔を

浮かべながらも

俺たちの横をスルーしキラキラ男子の

方へ向かっていった。

知り合いなのかなにやら親しげに

話し込んでいる。

ん?ちょっと待てよ。

冷静に考えたらおかしくないか?

なんで俺じゃなくて

あのキラキラ男子と話しているんだよ!

というかなんであいつだけキラキラ

してるんだよ!

おい、どういうことだ!神様!

(呼んだかの?)


その瞬間リンという鈴の音と共に

時が止まると

獣耳をつけたツインテールの幼女が俺の前に現れた。

「呼んだかの?」

「は?もしかしてこの幼女が神様?」

「むぅ!幼女ではない!わしはもう何百年も

生きておる!お前よりもはるかに

年上じゃ!」

しかしぷくっと頬を膨らましているその

見た目は明らかに小学生だ。

いや、もしかしたらそれ以下か?

「まぁよぃ。しておぬし。なぜわしを

呼んだのじゃ?」

「なぜって、なんであいつだけきらきらしてて俺はしてないんだ?

それにあいつだけあんなにかわいい女子と

喋ってるし…

俺ってこの世界の主人公のはずだよな?」

「いやわしもな、おぬしの願いを叶えて

やろうと思ったんじゃけど…その…。

つまりはじゃな…。すまぬ。」

「は?なんで謝るんだ?」

「じゃから…おぬしは所謂モブで

あのキラキラしておるやつが主人公なの

じゃ。」

「俺がモブ?それって前世と全く

変わんねぇじゃねぇか!」

「じゃからすまぬと申しておる。」

「謝って済む問題じゃねぇ!」

「むむー!わしじゃっておぬしの願いを

叶えてやろうと必死だったのじゃ!

少しの間違いぐらい許せ!」

「いや、少しどころの騒ぎじゃねぇぞ!?

なぁ今からでも異世界転生出来たり

しないのか?お前神様なんだろ?」

「そんなことはできん。

人を生まれ変わらせるのはそれは

もうとてつもないパワーがいるのじゃ。

次にできるのはおそらく

100年後くらいかの。」

「ひゃっ100年。」

そんなの生きてる確率の方が低いし

ましてそんなじじいになってまで転生なんて

したくねぇ。

「なに、おぬしは大船にのった気でいれば

なにせこのわしがついておるんじゃからな!

どうにかこうにかしておぬしの願いを

叶えてやろう!

「どうにかこうにかって?」

「どっどうにかこうにかは

どうにかこうにかじゃ!でっでは

サラバじゃ!」

リンと鈴がなる音が聞こえるとあたりは

何事もなかったかのように再び動き出した。

(あいつ逃げたな。)

せっかく薔薇色の人生が送れる思ったのに

待ち受ける未来が絶望しかないなんて

俺は一体これからどうしたらいいんだ?

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