045.着意
エンコ隊長の部隊が全滅!?一体何が起きた?
一次試験で軽く手合わせした程度だが、そう簡単にやられるとは思えない。ただ事ではない事態が起きている。
「何があったのです?」
負傷していた紅蓮隊の隊員に治癒魔法をかけながらクレアが訊ねる。
『ガライ隊長が…、ガライ隊長が突然我々に刃を向けてきたのです…!』
「ガライ隊長が?!」
クレアが驚く。予想の斜め上をいっていた。
事態がうまく飲み込めず、クレアに説明を求める。
「雷鳴隊と紅蓮隊の配置は?」
「雷鳴隊はエルフショット、紅蓮隊はモノクロームの監督となっていました」
紅蓮隊と交戦したということは、エルフショット――リリアはどうなったのだろうか。ガライ隊長が単独で動いているのか、それとも組織的に雷鳴隊ごと動いているのかが問題だ。後者だとかなり絶望的と言える。いずれにせよ情報が足りなさすぎる。
『私にも突然の出来事で詳しいことはわかりません…、突然襲われてエンコ隊長が応戦しました。しかし、ガライ隊長の攻撃で深手を負ってしまったところでクレア隊長に応援を要請するように指示を受け、自分だけこちらにやってきた次第です。ただ道中で、高ランクの魔物と遭遇してしまい来るのが遅れてしまいました」
それで傷を負っていたのか。
『こうしている間にも状況はさらに悪くなっているかもしれません。お願いします。力をお貸しください』
クレアは強く頷いた。
「分かりました。もちろん放っておくわけにはいきません。すぐに向かいます」
クレアは回復魔法を止めると、自分とフェリィを見て指示を出した。
「フェリィ隊長、治癒の続きはお願いします。動けるようになったら受験者たちを誘導して下山を始めてください」
「……、私はまだ戦えます」
フェリィもリリアやミハルが心配なのだろう。救援に同行したいという意志表示するがクレアは首を縦には振らなかった。
「体調が万全であるようには見えません。相手はガライ隊長です。中途半端な力では立ち打ちできません。それに下山するにしても、また高ランクの魔物が出ないとも限りません。受験者たちの安全を確保することも重要な任務です」
フェリィは何も言い返すことができなかった。クレアの見立ては正しく、ハイエーテルを飲んで回復していたものの万全と言うには程遠い状態だった。
「……わかりました」
渋々と言った様子で頷くフェリィ。
「ソーシさんは受験者という立場で申し訳ないですが、私と来てもらえますか。あなたの気配を察知するスキルは探索するのにとても役に立ちます。もちろん、少しでも危険を感じたら退いて頂いても構いませんが……」
退くはずがないでしょうね、と言外に伝わってくる。もちろんその通りだ。親しい友人が危険に遭っているのだ。たとえ下山しろと言われても丁重にお断りさせてもらう。
クレアが紅蓮隊の隊員に大体の位置を確認し始めると、その間にフェリィが近づいてきた。
「ソウシが強いのはわかった。リリアやミハルをお願い」
「……任せてくれ」
「では、早速ですが救援に向かいましょう」
クレアが紅連隊の隊員がやってきた方向に向かって走り始めたので、その後を追った。
しばらく走ると前方から禍々しい気配を感じ始めた。これがガライ隊長だろうか。進む方向は正しそうだ。しかし、一次試験のときはそんな気配は微塵も感じなかったのに何がどうなっているのだろうか。
表情に出ていたのだろうか。走りながらクレアが話し出す。
「ガライ隊長がエンコ隊長を攻撃する理由がまったくわかりません」
「もともと仲が悪かった……なんて単純な話ではないですよね?」
「ええ。上下関係にあるわけでもないですし、彼に一体何の特があるのでしょうか」
難しい質問だ。そもそもガライ隊長について、性格はおろか、実績や生い立ちなど、何一つ知らないのだ。そういうのはカスミに任せきりだった。
そういえば。カスミで一つ思いついた。
「ガライ隊長は元々ガリオンの出身ですか?」
「……?いや、確か彼はクレストの近くの街の出身だったはずです」
「クレスト…?」
クレストといえば聞いたことがある。ガリオンと同じく世界五大都市の一つで、ガリオンからは一番近い大都市だ。確かガリオンのように多種族が共存している中立の都市ではなく、
それはさておき、わざわざ故郷の近くの五大都市ではなくガリオンで軍に入った?
何となく違和感を感じなくはないが、そんなことが実際にあるだろうか?いや、一番身近にカスミという例がいる。しかし、仮にそうだとして、ガライ隊長はガリオン一の強さで名を馳せている。知名度からすると本来の役目とは逆行している。が、もしかしてそれがかえって疑いの目が向けられない手段なのか…?
「まさか…いえ、そんなはずは……」
質問の意図を察したのか、一瞬クレアがハッとした表情になるが、すぐに頭を振って想像したものを否定する。
「単なる偶然…だといいのですが」
妄想と深読みを重ねただけであることを願う。
が、得てして嫌な予感というのは当たってしまうものなのであった。
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