002.全能
大事なことなのでもう一回確認しよう。
所持ユニークスキル:
……ふぅ。
某野球ゲームでサクセスして一軍にでも昇格したような達成感。もちろん、まだどんなスキルかはわからない。わからないが、字面や言葉の意味で予想はつく。そう。いわゆるチート的なあれかな、と。
この地に転生して早五年。転生した当時はまさかと心踊ったものだったが、神に会うわけでもなければ啓示を受けるわけでもなく。この世界についての知識も説明も皆無だった。
唯一の救いは言葉が通じたことぐらいか。あまりにも自然にこの世界で目覚めたものだから、実は現実の世界で死ぬと人は誰でもこの世界に生きるんじゃないかと錯覚したほどだ。もし何かの拍子で転生前の世界に戻った暁には来来来世とでも題して歌っていたかもしれない。
実際は前世の記憶があるなんて人とは今のところ会ってはないし、転生前の世界に戻ることもなかったけれども。
さて冷静に考えればあくまで
知っている、ソーシさんは何でも知っている、なんてことにはならない。何でもは知らない。知っていることだけ。紙一重で神にでもなるところだったかもしれないがそうではないのだ。全知がついてたら人生がつまらなくなって、まじぴえんだったわー…なんて、前世では聞くことしかなかった流行りの若者言葉が思わず出てくるほど現実逃避していたちょうどそのとき、突然家の扉を激しく叩く音と同時に聞こえてきた声に現実に呼び戻される。
「ソウちゃん!ソウちゃん!?ちょっと起きてる!?大変なの!!」
近くに住む二つ年下のミハル、愛称ハルの声だった。声の様子からすると珍しくやけに慌てている。
「ハル?どうかした……」
玄関の扉を開けると、そこには顔面蒼白なハルの顔があった。
「街に、街に、モンスターの大群が!早く避難しないと!」
「なっ…!?」
突然の衝撃的な情報に頭の中が真っ白になり…そうでならなかった。急激に頭が冴える感覚。何を確認すべきか、どう対応すべきか、あらゆる選択肢が脳内を駆け巡っていく、いつもと違う視点。これはもしかしてもしかしなくてもオールマイティの効果なのか…?
「ハル、落ち着いて状況を教えてくれ。モンスターはどこから来て、皆はどこに避難している?」
「えっ?!え、えっと…」
いつもと違う目の前の少年の雰囲気に驚き、ハルは少し冷静になった。
「モンスターは街の正面入口から…、今、衛兵の人たちが集まって防護壁を作ってて、みんな教会の方に逃げろって…」
「わかった。ハルは先に教会の方へ向かってくれ」
「ソ、ソウちゃんは?!」
「俺はちょっと様子を調べてから行く」
「あ、危ないよっ?!」
「いや、ほら、俺も今日から大人だからさ」
「あ、そうだ。誕生日おめでとう!…ってなったばかりじゃん!ユニークスキルだってまだ…」
まるで百面相だ。ころころ変わる表情は見てて微笑ましい。今は近い年齢だが、実際の年齢からするとダブルスコア以上。いや、こっちにきて五年経っているから気持ち的には三十五歳とするとトリプルスコアの方が近い。妹を通り越して下手したら娘の可能性があるぐらいか。親になったらこんな目線なのかな、かな。
「スキルは…さっき悟ったよ」
と言ったところで少しだけ後悔した。オールマイティなんて正直に言うとどんな反応されるだろうか。そもそも聞いたことのないスキルで素直に信じてもらえるか、頭がおかしくなったと思われるか。ただこの流れで非戦闘スキルだったと言うと止められるだろうし。仮にオールマイティだと認められて広まって、あまり仕事や責任を負わされるのも嬉しくない流れだ。ならいっそ…。
「……?」
ハルが続きを待ってる。
心配してくれているのか少し涙目になっているハルの頭をポンポンっと優しく叩くとハルの横を通り過ぎて街の正面入口の方へと歩き出す。
「正義の味方さ」
そう言ってハルの返事を待たずに駆け出した。
「……正義の味方って…スキル?職?」
取り残されたハルの頭にはただ疑問符が残るだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます