六章~序-弐
「嫌な予感がするな」
なにがかはわからないが、嫌な感じだ。このままでは、終わってしまう。あの二人が。あの二人の物語が。それは嫌だ、駄目だ。
「俺が消えてしまう」
それだけは嫌だ。いや、俺の存在の存続のために我が儘は言いたくはない。だが、貫きたい。この我が儘を。俺の我が儘であり、希望を。
「おい、阿呆。様子を見てきたぞ」
「どうだった?」
「そうだな……まぁ、思案中といったところか。希望は潰えていない、安心しろ」
「……っ……そうか! なら、一安心だ」
「だが、油断はするな。嫌な気配もあるからな」
ああ、やはりそうなんだな。俺でもわかるくらい、嫌なものが肌でわかる。物語の書き手に、邪魔をするような……原稿用紙に、洋墨を撒き散らすかのような。そんな、嫌な感じが。
「やはり、自分の目で見て判断したい」
「そうだな。他人からの話を鵜呑みにはせず、きちんと自身で見て考え、判断すべきだ。阿呆のくせにちゃんとしてるな」
「ひどいぞお師匠っ! 阿呆阿呆言うな!」
「阿呆に阿呆と言って何が悪い」
酷い。俺は別に阿呆ではない。と思う。
「大蛇のやつも、青天になにを話しておるのかわからんしな。ま、妾はとりあえず朱音の様子を窺っておく」
「ありがとう、お師匠。俺も、青天たちの所へ行く。どうなったか気になるし、もし大蛇じじいがまた変な事言っていたり、最悪自分を悪者にして……としていたら殴ってでも止めねばな」
「おーおー、あんなちびだった白露が頼もしい限りだな」
「茶化さないでくれお師匠」
「いんや、成長が嬉しいだけだ。妾はお前のお師匠だからな」
くしゃくしゃと、頭を撫でてくれるお師匠。数百年前から変わらない、優しさだ。
「じゃ、お互いやるとするか」
「そうだな。お師匠も巻き込んでいるんだ、必ず……元通りかはわからないが、最悪の事態だけは避けねばな」
俺が終わり、二人も終わる事のないように。願いながら、動くとしよう。舞台の上の、黒子のように──
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