三章~奇譚黒の章零話

 寂れた山に好き好んで住んでいる、物好きな同胞から届いた手紙。伝書鳩のような鳥が運んできてくれたその手紙には、俺を驚愕させる内容が綴られていた。

「……人間の娘と暮らしてる……だって……?」

 見間違いかと思い、何度も何度も読み直した。だが、何度読んでも変わらない。人間の娘と暮らしてるという内容。天変地異の前触れかと思った。だってあいつは、同族の中でも人間嫌いだから。

 あいつは。青天は、母親も妹も人間により命を奪われている。そうでなくても、鬼族の村でいやってほど人間がどれ程狡猾で汚い存在なのかと教わっていたのに。あんなにも、人間を毛嫌いしているというのに。

「なにがあった……?」

 疑問を抱きながらも手紙の続きを読み進めると、そこにはその人間の娘が【陽光花ようこうか】を象った髪飾りをつけている旨が記されていた。人間が、陽光花の髪飾り……? なんでだ、あの花は鬼族の村にしか咲いていない花だから、人間が知るはずもない。青天からの手紙には、俺がなにか知っているかもしれないからまだ聞いていないと記されている。

「知るわけねぇだろ……って言いたいところだが……いや、まさか……な……」

 一つだけ、思い当たる節がある。だが、その場合その娘は──いや、やはり考えるのをやめよう。そんなはずがない。そんなはずが……頭を振り、考え付いた事を忘れようとしたがやめた。まぁ、頭にいれといて損はないもんだしな。

 混乱しながら、手紙をもう一度読むと最後に書いてあったのは、原稿が出来たから近日中に渡しに来るという内容。そして、その時にその人間の娘と共に赴くと、達筆な字で記されている。人間、と……。

「ふーん……随分変わったなぁ……青天だってどうせ、まだ血がないと駄目な【人喰い鬼】のくせに」

「……黒紅? うるさい、静かにしてよ眠れないから」

「うっせ、空隠くおん。もう朝なんだ、まともな奴は起きて働いてる時間なんだよ」

 俺の言葉に、空隠はあからさまに不機嫌そうにしている。

「その割に閑古鳥鳴いてるじゃん。まず、黒紅は自分の事まともだと思ってるの? 金の亡者の鬼族って、普通じゃないよね」

「うるせ」

「ま、僕には関係ないしどうでもいいけど」

 居候である空隠は欠伸をしながら、奥の部屋へと姿を消した。全く、なにしに来たんだっての。ため息をつきながら、もう一度青天からの手紙を最初から読み直した。何度読んでも、どう読んでも人間の娘について書いてある。なんとなく伝わる、その娘との暮らしを楽しんでいるような雰囲気が。

「……なんのために一緒にいるんだか……近くに人間がいりゃ、生き血に困らねぇから……とかだったら笑うなぁ。それこそ本当の【人喰い鬼】だもんな」

 だが、まぁ仕方のないこと。人間のでなくても、俺達鬼族が血を口にするのは……。

「そろそろ青天も疑問に思う頃かな、聞かれたら答えるか……俺達鬼族が──ってのを」

 そんな大それた理由じゃねぇけど……ま、教えてやるか。せっかくの、面白い同胞なのだから。

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