第20節 決着3
―天空の城 大広間―
自由の子どもたちは、勝利の余韻に浸っていたが、息がピッタリと合うように笑い終わった。
「……さて、オレたちの目的は達成した。みんなはこれからどうしたい?」
リーダーのサムは静かに一同を見渡した。
他のみんなはサムの質問に、意味のないことにくすっと笑った。
「何言ってるんだ、サム? オレたちに聞かなくても始めっから決めているだろ?」
「へへ。さすがだな、相棒? ……じゃあ行こうぜ、ピサロのところへ。このクソみたいな戦いの決着を見届けよう」
自由の子どもたちは頷き、シュヴァリエ兄弟とピサロの戦っている司令室に向かって歩いていった。
☆☆☆
―天空の城、転移部屋外側通路―
「……あーあ。ちょっと手間取っちゃったわ」
「でしね」
「……うん(棒)」
アリスたち三人は、その場に立って一息ついた。
その足元にはアルカディア聖騎士隊が転がっている。
「う、く。まだ終わりではありませんよ」
と、元聖騎士隊副隊長が足元をふらつかせながら立ち上がった。
完全に決着をついていたが、まだ完全に心までは折られていなかった。
「へぇ? 根性あるじゃない。あんたをあんなクソひげエロオヤジの部下にしておくにはもったいないわね」
「は、はは。ここまで無様に一方的にやられては、ただの皮肉にしか聞こえませんよ」
「別にあんたを貶したわけじゃないわよ。それにね、あんた程の男があんなクズに従う理由も分かるわ。どうせ、大切な誰かを人質に取られてるんでしょ?」
「な、なぜそれを!?」
元副隊長は驚愕の表情で、涼しげに佇むアリスを真っ直ぐに見た。
アリスは肩をすくめ、背を向けて歩き出した。
「……ま、大切な誰かを失いたくない気持ちはよく分かるわ。他に選択肢がないほど追い込まれる状況もね。でも、安心して倒れなさい。あたしたちがあのクソの首を取って終わらせてあげるわ」
もう、これだけで充分だった。
元副隊長は膝をついて、堰が切れたように泣き出した。
「す、すみません! わ、私は、私は」
流石は氷の女王、凛とした態度によって相手の闘争心を砕いた。
だが、絶対零度の冷たさだけではない、暖かい慈愛の心もあった。
彼女もまた、大切な相手を失い、痛みを知っているから。
☆☆☆
―天空の城 司令室―
「な、何だ、これは!? オリハルコン製のゴーレム!? ピサロは中に乗り込んでいる、だと!?」
オリヴィエは明らかに異常なオーバーテクノロジーに混乱している。
元ネタと原因を知っている俺ですら戸惑っているのに、全く情報がないのだから無理はない話だ。
「落ち着けよ! 何が出てきたって、俺たちのやることは一つだろ!」
「む!? う、うむ。そうだな。まったく、お前に叱責される日が来るとは。アルセーヌ、お前も成長したな」
オリヴィエは何だか嬉しいものを見るように、フッと笑った。
実は中身は違うんだけどな、とはもちろん言わなかった。
俺はピサロが乗り込んでいる機体をじっと観察した。
赤みがかった非緋色、まるで赤◯彗星のようだ。
他のマシンが無いから比べられないが、まさか生身の三倍速とか無いだろうな?
それだったら、いくらオリヴィエでも……
「うおっ!?」
「チィッ!?」
俺が考え込んでいると、ピサロはオリヴィエにガトリングガンを繰り出した。
オリヴィエはとっさに避けたが、すでにピサロはオリヴィエの間合いまで詰めていた。
「あ、危ねえ!」
「う、おおおお!」
オリヴィエが聖闘気をまとって防御したが、ピサロの一撃を喰らい壁を突き抜けて吹っ飛ばされた。
「クハハハ! 素晴らしい力だ! あの生意気な小僧を一撃か!」
機体の中からピサロの下品な高笑いが聞こえる。
モビ◯スーツの力に完全に酔っている。
だが、強すぎる。
こんなのどうすれば?
「まだ、まだだ!」
オリヴィエは左腕がおかしな方向に曲がり、頭から血を流している。
たったの一撃で大ダメージを受けてしまっているが、まだ気持ちが折れていない。
流石だぜ!
だったら俺はどうする?
「ふん! 強がるな、小僧! さっさと絶望に飲まれるがいい!」
「ふ、ふざけるな! 貴様みたいな外道に屈してたまるものか!」
「クックック。シュヴァリエ家の誇りとやらか? くだらん。誇りなんぞで、生き延びられるものか。まずは貴様を……」
「うおらぁあああ!」
ピサロがオリヴィエにトドメを刺そうとしたところで、俺はピサロに斬りかかった。
だが、俺の全力の闘気を纏った剣は、機体に傷一つ付けることなく弾き返された。
「クソ、硬すぎる!」
「ん? 何だ、いたのか、木っ端? 死ねい!」
ピサロは機体の拳を振り下ろしてきた。
俺はとっさに避けることはできたが、その衝撃波だけで吹っ飛ばされた。
「くっそー、どうすれば!? ……ん?」
俺は吹き飛ばされた先、格納庫のようなところである物を見つけた。
だが、俺には使い方は分からない。
でも、他に何の手もなく、このままではなぶり殺しにされるだけだ。
「む? どこに行った、木っ端?」
「へ! こっちだ、クソ野郎!」
ピサロの乗っている機体がキョロキョロと俺を探している。
俺は、すでにどこかの初号機みたいな兵器に乗り込んでいた。
だが、ここからどうすればいい?
「クハハハ! 無駄だ、木っ端! その機体は誰にも操れん、無用のガラクタだ!」
「知るか、そんなもん! 夢幻闘気、全解放だ!」
俺は武器や防具に闘気を纏わせるように、兵器に闘気を纏わせた。
正しいか間違いかも分からない、ただの賭だ!
「な、何ぃ!?」
ピサロの一撃を俺の機体は腕を振り上げて防いだ。
それだけではなく、ピサロを吹っ飛ばしたのだ。
「へ、へへ、やったぜ! ……って、あれ、あらら?」
俺の目の前のスクリーンには、シンクロ率400%と出ている。
おいおい、意味わかんねえ数字だな?
と、苦笑いをしていたが、鼻血がたれていきなり目眩がした。
すごい性能だが、SPの消費が激しすぎる。
一気に魂が燃え尽きそうだ。
「クハハハ! 驚かせよって! どうやら、ただのマグレだったようだな?」
俺の機体が動かなくなったのを見て、ピサロが下卑た高笑いをした。
ゆっくりと近づいてきて、俺を機体ごと叩き潰そうとしている。
く、クソ。
こんなところで死んでたまるかよ。
――では、力を貸しましょうか?
え?
また、この声?
――聞こえませんでしたか? 力を貸しますよ?
幻聴じゃ、ないのか?
一体、何者なんだ?
――私のことはまだ知らなくても良いです。今大事なのは、この状況を乗り越えることです。
お、おう、そうだな。
目の前のクソ野郎をぶっ飛ばせるんなら、あんたが何者でも関係ねえ。
――うふふ。では、力を貸しましょう。今は貴方が世界の柱の真上にいるので、私も出て来やすいのです。ですが、持って1分です。すでに貴方を大事に想う身体に乗り移って、少々力を使っていますからね。それ以上はこの世界に干渉はできません。
ああ、いいぜ。
1分以内にケリを付けてやるよ。
――はい。それでは受け取ってください。
う、おおおお!?
何か、すげえ力が入ってきた!
――どうか、これだけは忘れないでください。貴方が絶望の底まで落ちても、私は側で見守っています。だから……
途中で不思議な声が途切れてしまった。
一体、何を俺に伝えたかったのだろうか?
「クハハハ! 死ねい、木っ端!」
まるで、今まで時間が止まっていたかのように、ピサロの赤い機体がようやく目の前に迫っていた。
余計なこと考えてる場合じゃねえ。
1分以内にこいつを倒すために、気合を入れろ!
「死ぬのは、てめえだ!」
「な、何ぃ!?」
ピサロの機体の繰り出して来た拳を、俺の機体の拳で真っ向から弾き飛ばした。
そして、ピサロの機体の腕が根本から外れて転がっていった。
「おお! 見事だ、アルセーヌ! お前に任すぞ!」
「おう、任せろよ!」
オリヴィエが折れた腕を押さえ、俺に全てを託してくれた。
嬉しいじゃねえか。
出会いは最悪だったけど、信頼に応えてやる。
この世界に兄弟がいても、悪くねえな。
「ぐぬぅ! おのれ、ぐぅおおおお!」
ピサロはガトリングガンを乱射してきた。
だが、今の俺の機体にはびくともしない。
「へへ、効かねえよ! 無駄無駄無駄!」
どっかの悪の帝王みたいな掛け声になってしまったけど、ピサロにラッシュを繰り出した。
ピサロの機体は完全に防戦一方だ。
よし、いける!
そう思っていた。
だが、いつまでも決定打を与えることができない。
「な、なんでだ? 機体の性能は勝ってるのに、なんで当たらない?」
俺は制限時間が過ぎていく中で、焦りが生じていた。
そんな俺をピサロは嘲笑った。
「クハハハ! 戦い方がなっていない。まるで素人ではないか」
「く、クソ、こんな……」
お互いに機体を操ってはいるが、やっていることは格闘戦だ。
ピサロはクズだが、元聖騎士幹部だ。
元々持っている、戦闘技術が格段に違う。
「う、うおお! ……あ、し、しま……」
急に腰が抜けたかのようにがっくりと前のめりに倒れた。
そんな。
結局、何もできずに時間切れ?
「クックック。どうやら、エネルギー切れのようだな? さぁて、スクラップにしてくれるわ!」
「ち、チクショウ」
「アルセーヌ、逃げろ!」
オリヴィエの叫びが聞こえてきた。
だが、俺がここで諦めるわけには……
「そうだ、後は僕に任せろ!」
こ、この声は!
悔しいが、あいつに任せるしか無い。
真打ちは、いつだって遅れてやってくる、か。
俺にできたのは、あいつが来るまでの時間稼ぎだけか。
「ええい、ポチッとな!」
俺は脱出ボタンらしきものを叩くように思いっきり押した。
「のわぁあああ!?」
俺は空中に放り出され、顔から真っ逆さまに金属の床に叩きつけられるかと思った。
だが、弾力のあるクッションのような何かに衝撃を吸収されて助かった。
「ああ、いてて。助かったぜ。クッションまで用意してくれるなんて気が効くじゃ……」
と思い、顔を上げたところで、一気に血の気が引いた。
「……ほう? 貴様、よほど死にたいらしいな?」
カーミラのでかい胸に顔から突っ込み、今は鷲掴みにして固まっていた。
当然、俺はカーミラにタコ殴りにされ、ついでにいつの間にか来ていたロザリーにもボコボコにされた。
お、俺のせいじゃないのに。
突然、大きな爆発音が鳴り響いた。
ピサロが俺の乗っていた機体をヒートホークで真っ二つにしていた。
「ふん! これで貴様らは終わりだ。皆殺しにしてくれるわ!」
「それは、できないよ。僕がいる」
ピサロの機体の前に、ジークフリートが大剣を構えて立っている。
ジークフリートは、気負いも恐れもない、完全な自然体だ。
「クックック。生身でこのエルフの最高兵器を相手にするのか?」
「ああ、僕は聖教会の最強兵器らしいからね」
「クハハハ! 傲慢な小僧だ、神の子よ。聖騎士最強とはいえ、人には限界があるのだ。まあいい。戦略上貴様との直接対決は避けてきたが、この兵器の力を知った今、貴様など恐るるに足らんわ。死ねい!」
ピサロの機体がヒートアクスを振りかぶった瞬間、ジークフリートはゾッとするほど綺麗でありながら、戦慄させる修羅のような顔で笑った。
と、同時に次元の違う聖闘気が瞬間的に迸った。
「光牙地喰斬!」
その時、閃光が突き抜けたようにしか見えなかった。
だが、このたったの一撃で決着がついた。
「……なん……だと……?」
ピサロの機体は天辺から真っ二つに斬られていた。
そして、遅れて大爆発した。
「残念だったね。あんたの敗因は、僕と直接戦ったことだ。僕に斬れないものは、ないからね」
ジークフリートは、まるで子供のように無邪気に笑い、大剣を下ろした。
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