第11話 リィンフォルトとフィー
「あ、あの。大丈夫ですか、、?」
クリスタが鎧を着た女性に恐る恐る近づく。
屈みながら仰向けに倒れた女性の様子を確認しようとした瞬間。
ガバァ
倒れていた女性がいきなり起き上がる。
それにビックリしたクリスタがその勢いで尻餅をついてしまう。
「きゃっ」
クリスタには気付なかったのか、
鎧姿の女性は額から血を流しつつ、アークスに向き直る。そして高らかに宣言した。
「清らかな乙女を拐かし、その邪悪な意志で弄ぶ憎きモンスターめ。この私騎士リィンフォルトが成敗してくれる。」
そして勢いそのままに剣を引き抜ことして、あるべき物がそこに無い事に気付く。
「あ、あれ?私の剣は?」
「はぁ、もしかしてこれの事か?」
アークスは先程受け止めた剣を手に持って、女性に指し示した。
女性はアークスの持つ剣を何度か瞬きしながら見つめると。
「ひ、卑怯な。さては先程私が転んだ時に盗んだのですね。返しなさい!」
「お、お前な、、、」
アークスがあまりの言い掛かりに文句を言おうとしたその時。
「リ、リィンちゃん、置いてかないでくださいよぉ~。」
先程リィンフォルトが走ってきた通路から、もう1人走ってくる。こちらもリィンフォルトと同じ様な鎧を付けており、会話の様子からも顔見知りの様だ。
「ちょっと、フィー。遅いじゃないの。」
「ご、ごめ、ごめんなさい。だっ、だってリィンちゃん、いきなり走って行ってしまうんだもの。」
(こいつら、、一体なんなんだ。)
「おい、お前ら。さっきから一体なんなんだ?コントなら他所でやってくれ。」
アークスは2人を無視しながら、先程治療した2名と最初に救助した女性を村に連れて行く準備をする。
「ちょ、ちょっと、私達を無視して勝手に何してるのよ!」
リィンフォルトがアークスに詰め寄ると、焦った様にフィーが止める。
「リィンちゃん、この人達多分私達と一緒だよ。村の人に頼まれて此処に来たんだよ。きっと。」
「えっ?そうなの?」
リィンフォルトが訝しげな表情で倒れている女性とアークス、ユウキ、そして尻餅をついて此方を茫然と見ているクリスタを観察する。
そして気付いた様だ。
自分が勘違いしていた事に。
「えーと、ごめんなさい!」
リィンフォルトとフィーが頭を下げて謝ってくる。
「はぁ、もういいから。それよりこの女性達を村に運ぶのを手伝ってくれ。」
「も、もちろん手伝うわ。ねぇフィー。」
「は、はい。もちろんです。」
*
「ブレンダ!ライラ!ニコ!」
3人の女性を村に連れて帰ると、村の村長はじめ住人達総出で出迎えてくれた。自分達の娘を見つけた家族が抱き合って再開を喜んでいる。心に受けた傷は全て癒しきれない、時が彼女達を癒してくれる様に祈るしか無い。
「こ、この度は村の者を救って頂きありがとうございます。何とお礼を言っていいか。」
「無事助けられて良かったです。ゴブリン達は全て駆除しましたが、また別の集団が住み着かないとも限りません。定期的に冒険者に依頼を出して様子を見るのが良いでしょう。」
「騎士様達もありがとうございます。お陰でこうやって娘達も帰って来ました。本当に、本当にありがとうございます。」
涙ながらにお礼を言っている男性は、救助した女性の父親なのだろう。リィンフォルトとフィーの手を握って、ずっとあんな調子だ。
「あなた方も本来にありがとう。村はあなた方達の事への恩を忘れません。」
ユウキとクリスタは初めて依頼を成し遂げ、依頼人からの心よりの感謝を受け、照れている様子だ。
「さて、そろそろ帰るぞ。ユウキ、クリスタ。ギルドに報告しないといけないからな。」
名残惜しそうな村長と村人達に挨拶をして、村を離れようとする。
「ちょ、ちょっとあんた達。私達を無視して、勝手に出て行くなんて酷いじゃない。」
「いや、元々別口で依頼があって現場でたまたま会っただけだろう。なんで俺がお前たちにいちいち挨拶しないといけないんだよ。」
話を聞くとリィンフォルトとフィーは、キリバスの街に向かう道中にこの村人からゴブリンに攫われた娘の話を聞いて、駆け付けたらしい。
そしてあの洞窟を探し出し、アークス達とは反対の入り口から入った様だ。
(あの時探知魔法に引っかかった反応はコイツらだった訳だな。)
「俺はなキリバスの街で人を待たせてるの。早くユウキとクリスタの依頼報告も片付け無いといけないし、もう時間もない。お前達に付き合ってられるか。」
「行くぞ、ユウキ、クリスタ。」
そう言いながらユウキとクリスタの背を押して村を出る。
「あ、あの良いんですか?あの人達無視しちゃって。」
後ろでまだギャーギャー言っているのが聞こえる。
「良いんだよ。さぁ急いで戻るぞ。」
*
キリバスの街 西区
冒険者ギルド 「ダブルフェイス」
「依頼完了の報告終わりました!」
ユウキとクリスタが受付で依頼完了の報告をして戻ってくる。
「そうか、どうだった?はじめての依頼は。」
ユウキとクリスタをテーブル席に座らせてから、今日の感想を聞く。
「正直怖かったです。冒険者という物を舐めてました。」
「私もあんなに危険だなんて想像してませんでした。」
ユウキとクリスタは、少し目を伏せながら、
自らが想像していた以上に危険な仕事である事を痛感していた。自分達は冒険者の仕事を甘く見ていたのだと。
「そうだな、初依頼であのレベルは少し高かったが、これから更に困難で無慈悲な経験は山程する事になる。」
「だが、まぁなんだ。初めてにしてはお前達はよく動いていたよ。及第点だ。」
それを聞いたクリスタの表情が変わる。
「そ、それじゃあ。」
「ああ、お前達を鍛えてやる。」
「ほ、本当に、、、?」
ユウキは信じられないといった表情だ。
自分は全く活躍出来なかったとキリバスへの帰り道で嘆いていた様子だったから意外だったのだろう。
「ああ、だが俺は専業の冒険者じゃない。詳しくは後日話すが、もし俺に師事したいのならこの街から離れる覚悟はあるか?」
流石に急だったのか、2人とも答えに窮している。まぁ当然だろう。家族と過ごした思い出があるだろうし、直ぐに決めるべき事じゃない。
「今すぐじゃなくて良い、後1週間後に此処に書かれている所に来い。もし付いてくる気があるなら荷物も纏めてな。」
そう言って紙に書いた住所を渡す。
「適当に料理を頼んでおいたから、今日は沢山食べてゆっくり休め。」
そう言ってテーブルを立とうとすると。
「あ、あのアークスさん。俺は、、、」
クリスタの表情を見ながら、中々言い出せない様だ。
その兄の想いが伝わったのか、クリスタがアークスを呼び止める。
「アークスさん、今日はありがとうございました。私達兄妹はアークスさんに付いて行きます。ただ色々準備もあるので頂いた1週間で全部終わらせて、アークスさんの所に行きます!」
「そうか。さっきも言ったがお前達の人生を左右する大事な事だ。ゆっくり考えろ。」
そう言ってアークスはギルドを後にした。
*
(しまった、、時間掛けすぎた。もう夕刻過ぎてしまったし、待たせてるよな。)
ギルドを出るなり急いで走る。
カッコつけて出てきた手前、内心とても恥ずかしい。あの2人には見せたくはない姿だった。
*
キリバスの街 正門前 兵士詰所
夜19時
「すまない、此処にクリスティナ皇女を訪ねて来た、、、」
詰所に入るなりアークスは思い掛けない人物と目が合う。
「あ、、」
「なんであんたが此処にいるのよ!」
リィンフォルトとフィーだ。
テーブルに座って寛いでいた所、いきなり入ってきたアークスに驚いている。
「そ、それはこっちのセリフだ。なんでお前らが此処に、、ってまさか。」
「紅蓮隊に今日配属されるっていう補充要員、、まさかお前達か、、?」
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