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サムは翼をはためかせながら、立ち上がる影に驚愕する。
「誰にも見せたことなかったんだけどなぁ……これも防ぐのか、」
「っゲフッ……どう見ても防げてねぇだろ。ゴホっ、ってぇなクソッ、ペッ」
血を吐き捨てる朧は、黒から輝白へとその色を変えた大鷲を睨みつける。
いよいよ分かんねぇぞ、何だアレは?
瞬間全力でその場から飛び退く。
「――ッ」
横を爆速で通過したサムが、外壁に沿って直角に上昇。遅れて吹き飛ぶ地表。
初速から音速を超えてやがるッ。朧は転がりすぐに起き上がり、ナイフとマチェットを逆手に持ち顔の前に構える。完全防御体勢。
マサの速さに慣れていなかったら、さっきのでやられていたッ。
刹那――ゴッッギャギャギャガギィンッッ‼︎‼︎
白翼と2刀が衝突し、途轍もない金属音と火花が散る。
「――ッッックゥッ⁉︎」
「ッ(いなされた⁉︎)」
サムは驚愕しながら、体勢を崩しながらもこちらを睨みつける朧を横目で見る。
無理矢理通過させられた。しかし即座に両翼を捻り180度回転。
「ッッチィッ!」
ギリギリ間に合ったガードが再び火花を散らし、暴風が通過する。羽先を躱し損ねた朧の頬から血が飛ぶ。
ッ落ち着け、集中しろっ、あと少し、――ッ、その後の、打開策を考えろッ。奴の防御を、ッ突破にするには?頭を回せッ想像力を働かせろ!
――途轍もない轟音と金属音の連鎖、巻き上がる瓦礫と暴風が中央に竜巻を生み、衝撃にバリアが揺れる。
「――ッ、何て奴だよ」
頭から血を流し、ボロボロのジャンパーを旗めかせ、されど眼光鋭く期を狙う朧の姿を見て、サムの全身に鳥肌が走る。
……そして訪れる、タイムリミット。
「っ(……この波長か)」
「――ックソ!」
サムは翼を広げ、焦り一気に加速する。
しかし、大きく跳んで逃げた朧の姿が、……完全に消える。
そう、今度こそ――完全に。
「――ッッ」
同時にサムは竜巻を突き破り、天高く上昇、ドーム上空数1000mまで一気に飛び上がり大翼を広げ急停止した。
そして、
「『
急転直下。――ドドンッ‼︎と空気の膜を突き破り、0・01秒で最高速度へ、
――瞬間、音速を超えた、鳥類最強の筋力を持つ、翼長5mを越す巨体が、魔力を凝縮した鉤爪で、闘技場の中央に蹴りを放った。
「「「「『『『 ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』』』」」」」
大地震。地盤大沈下、闘技場全体が大陥没し、亀裂が走り木っ端微塵に砕け散り吹き飛び、バリア内部全域に天高く瓦礫と砂煙が打ち上がる。
「(――ッッッッこい、つ⁉︎⁉︎⁉︎)」
同じく中を舞う朧は、どんでもない荒技に出たサムに驚愕。
瞬時にその意図を理解する。――俺の場所を、砂煙で捉えやがったッッ。
ギョロリと合う目。
「――ドッラァッ‼︎」
「――ッ⁉︎グッゲガハッッ⁉︎」
朧はガードした左腕が砕ける音を聞きながら、地面に叩き落とされ血を吐く。
サムが即座に追撃をしようと翼を広げる。……しかしその時、サムは見た。
……絶体絶命の筈の朧の顔に浮かぶ、不敵な笑みを。――何を
「――っ」
朧が地面にナイフを突き立てた瞬間、
「なっ⁉︎」
姿を現す、闘技場外周に天高く起立する、電雷を纏った6柱の砂鉄の塔。
「……俺がいつ、触れてるもんしか透過出来ないって言った?」
「Shitttt!!!!!!」
サムが翼をたゆませ、一気に朧へ向け突貫。
――刹那、一筋の雷鳴が曇天を照らす。
塔に呼ばれた天の怒りが、砂鉄の纏う電雷により破壊力を増幅、方向を指定され、――落ちる。
「『
閃光が瞬き、爆雷が轟いた。
「ィギギギギギギッッッ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
メチャクチャに周囲を破壊しながらも落ち続ける大落雷のプレスに、
「……嘘だろおい」
しかしサムは全身を焦がし煙を上げながら、焼き爛れさせながら、膝をつきながらも眼球を血走らせ耐え続けていた。
朧は自分の血で髪を掻き上げ、大きく溜息を吐く。
最早ここまで来たら呆れる他ない。素の耐久力だけで言ったら、筒香さん以上かもしれない。
……朧はマチェットを掌で遊びながら、動けないサムへと歩いてゆく。
「ヌゥオオオオオッッ‼︎」
「……」
朧はチラリ、とベンチに座る東条に目を向けてから、闘技場全域の砂鉄を操り、自分とサムを覆い隠す。
何も見えなくなってしまい、誰もが困惑する。
……暗い砂鉄のドームの中、朧は白く発光する大鷲を見下ろす。
「ッッてべっ、ゴンニャロロロッッ」
「……成長ってのは、案外一気に来るもんなんだな。感謝するぜ。
……あんたのおかげで、師匠に届くかもしれねぇ」
「『ッッッGod b――
――黒いマチェットが閃いた。
砂鉄のドームが崩れ、中から出てきたのは、
「……疲れた」
白目を剥き血を吐くサムに肩を貸し引きずる、朧。
その姿に、誰もが決着を悟る。
歓声の中、朧は駆けつけて来た医療班にサムを渡す。
「すぐに緊急手術をお願いします」
「親切に有難うございます。それよりあなたの方が重症でしょう?早く見てもらった方がいい」
自陣の医療班に応急処置を施されながら帰ってゆく朧に背を向け、カリフォルニア陣営の医療班はすぐにサムの処置に取り掛かる。
酷い火傷だが、それ以外の外傷は見えない。そう安堵した。
……のも束の間、触診をしていた者の顔が、みるみると青ざめてゆく。
「っな、何だこれ⁉︎すぐに病院に運べ‼︎一刻を争うぞ‼︎」
走り去って行く敵陣の慌ただしい声を聞きながら、朧もベンチに向かう。
「……(……少しミスったか。……ムズいな)」
「お疲れ」
「流石だ。凄かったぞ朧」
「ども」
ノエルと葵獅とハイタッチをし、ニヤリと笑う東条に、朧もニヤリと笑う。
「……最後何で隠した?」
「……首洗って待ってて下さいよ。師匠?」
「……ククっ、ほざけ」
好戦的な師弟のハイタッチが、高らかと鳴り響いた。
第1試合 勝者――朧 正宗
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