3
「彼の前職はミシュラン調査員。死んだ人肉のレビューを提出してきた者がいるとの情報を受け、1度は勾留した。
しかし新大陸の存在が明らかになった頃、牢を破壊し脱走、その後軍を振り切り行方を眩ませていた。
……脱走の際、看守は皆無傷で気絶させられていた上に、他の投獄者も全員縛られ脱走出来ないようになっていた。
尋問でも奴の人となりに異常性は見られなかった。悪人ではない、のだろうが、」
「2年前と言ったら、世界が変わってすぐじゃないか」
「そんなに早く、」
「……Mr.、彼の実力は?」
「あんなものでは無い。ガブリエーレには1個旅団を蹴散らされている」
世界融合初期も初期でその実力。確実に実力を隠しているな。……これは、当たりを引いたか。フレデリックは内心ほくそ笑む。
「Mr.、彼の処遇はうちに任せていただいても?」
「……いや、それは困るなフレデリック殿?私は貴殿に彼の素性を伝えただけだ。誠意としてね。ガブリエーレの身柄は我が国が引き取る」
フレデリックは心の中で舌打ちする。
「……そうだな。彼の今後だ。彼の意見を尊重するとしよう」
「……そうしよう」
微笑むフレデリックを見て、見美は呆れる。ガッつきすぎだ。
続いてアルバニア首相が立ち上がる。
「我が国にはモンスターはそれ程湧かなかったが、同時に強力な個人も生まれていない。
……それでだ、頼まれていたことだが、」
アルバニア首相がフレデリックを見る。
「ギリシャとの国境だが、何か見えない壁があって入ることが出来なかった」
共有された映像には、鏡面の様な壁がギリシャの国境を囲っている。
石を投げ入れると同時に別の場所から出てくる現象を見るに、この壁自体の空間が歪んでいると推測出来る。
他のギリシャと隣接する国々の首相も「同じく」と頷く。
「……なるほど、協力感謝する。
皆にも説明しておこう。ギリシャだが、今回唯一我々の誘いを断った国だ。何かあると見て間違いない」
騒めく周囲を、フレデリックは手を上げ制す。
「今は報告を優先したい。続きを頼む」
「……では、」
中国の首相が立ち上がる。
「私達の国の現状も、貴国らとあまり変わりませんね。
大事も無く、都市は全て奪還済みです。
大陸を渡れる者は、5人程でしょうか。是非取りに行かせていただきたいですね」
「……ああ、歓迎する」
中国首相は微笑み、席に着いた。
――それからも各国の報告談合は続き、解散する頃には、既に月が夜空を照らしていた。
「……」
フレデリックは完全防護室で、見美のホログラムを前にウイスキーを転がす。
『で、どうでした?』
「黒だ」
『どこがです?』
「まぁ言ってしまえば、全ての国がそれぞれ嘘を混ぜているな」
『それは当然でしょう?』
「ああ。だがその中でも、とりわけ反応したのが2カ国。……イギリスと中国」
見美が銀縁の眼鏡の下、目を細める。
「イギリスは『3人』、中国は『5人』『大事も無く』の部分が嘘だな」
『保有個人戦力は少なく言うでしょう?』
「ああ。だが私の能力は、その嘘が私にとって障害になる確率が高ければ高い程、濃く見える。
この2カ国の『3』と『5』は、視界が染まる程のドス黒さだ」
『……つまり、』
「……そうだ。既にアメリカの脅威になる程の戦力を保有している可能性が高い」
フレデリックは溜息を吐き、頭を一旦冷やす。
『……イギリス、中国、フランスの指名手配犯、ガブリエーレ、そしてギリシャ、ですか』
「とりあえず、纏め整理することが多すぎる。一旦持ち帰ろう」
『同意です』
「では、また後日」
「はい。お疲れ様です」
静かになった室内。
フレデリックは背もたれをギィ、と倒し、1人思考の海に沈むのだった。
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