「彼の前職はミシュラン調査員。死んだ人肉のレビューを提出してきた者がいるとの情報を受け、1度は勾留した。

しかし新大陸の存在が明らかになった頃、牢を破壊し脱走、その後軍を振り切り行方を眩ませていた。

……脱走の際、看守は皆無傷で気絶させられていた上に、他の投獄者も全員縛られ脱走出来ないようになっていた。

尋問でも奴の人となりに異常性は見られなかった。悪人ではない、のだろうが、」


「2年前と言ったら、世界が変わってすぐじゃないか」


「そんなに早く、」


「……Mr.、彼の実力は?」


「あんなものでは無い。ガブリエーレには1個旅団を蹴散らされている」


世界融合初期も初期でその実力。確実に実力を隠しているな。……これは、当たりを引いたか。フレデリックは内心ほくそ笑む。


「Mr.、彼の処遇はうちに任せていただいても?」


「……いや、それは困るなフレデリック殿?私は貴殿に彼の素性を伝えただけだ。誠意としてね。ガブリエーレの身柄は我が国が引き取る」


フレデリックは心の中で舌打ちする。


「……そうだな。彼の今後だ。彼の意見を尊重するとしよう」


「……そうしよう」


微笑むフレデリックを見て、見美は呆れる。ガッつきすぎだ。


続いてアルバニア首相が立ち上がる。


「我が国にはモンスターはそれ程湧かなかったが、同時に強力な個人も生まれていない。

……それでだ、頼まれていたことだが、」


アルバニア首相がフレデリックを見る。


「ギリシャとの国境だが、何か見えない壁があって入ることが出来なかった」


共有された映像には、鏡面の様な壁がギリシャの国境を囲っている。

石を投げ入れると同時に別の場所から出てくる現象を見るに、この壁自体の空間が歪んでいると推測出来る。


他のギリシャと隣接する国々の首相も「同じく」と頷く。


「……なるほど、協力感謝する。

皆にも説明しておこう。ギリシャだが、今回唯一我々の誘いを断った国だ。何かあると見て間違いない」


騒めく周囲を、フレデリックは手を上げ制す。


「今は報告を優先したい。続きを頼む」


「……では、」


中国の首相が立ち上がる。


「私達の国の現状も、貴国らとあまり変わりませんね。

大事も無く、都市は全て奪還済みです。

大陸を渡れる者は、5人程でしょうか。是非取りに行かせていただきたいですね」


「……ああ、歓迎する」


中国首相は微笑み、席に着いた。



――それからも各国の報告談合は続き、解散する頃には、既に月が夜空を照らしていた。




「……」


フレデリックは完全防護室で、見美のホログラムを前にウイスキーを転がす。


『で、どうでした?』


「黒だ」


『どこがです?』


「まぁ言ってしまえば、全ての国がそれぞれ嘘を混ぜているな」


『それは当然でしょう?』


「ああ。だがその中でも、とりわけ反応したのが2カ国。……イギリスと中国」


見美が銀縁の眼鏡の下、目を細める。


「イギリスは『3人』、中国は『5人』『大事も無く』の部分が嘘だな」


『保有個人戦力は少なく言うでしょう?』


「ああ。だが私の能力は、その嘘が私にとって障害になる確率が高ければ高い程、濃く見える。

この2カ国の『3』と『5』は、視界が染まる程のドス黒さだ」


『……つまり、』


「……そうだ。既にアメリカの脅威になる程の戦力を保有している可能性が高い」


フレデリックは溜息を吐き、頭を一旦冷やす。


『……イギリス、中国、フランスの指名手配犯、ガブリエーレ、そしてギリシャ、ですか』


「とりあえず、纏め整理することが多すぎる。一旦持ち帰ろう」


『同意です』


「では、また後日」


「はい。お疲れ様です」


静かになった室内。


フレデリックは背もたれをギィ、と倒し、1人思考の海に沈むのだった。



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