2−2



 ガラガラと崩れる瓦礫にキョトン、としていたムジカが腹を抱えて笑う。


「っブッハッハハー!嘘だろ⁉︎何考えてんだキリボーイ⁉︎大丈夫か⁉︎」


「大丈ブッ、でずッ。やっぶァッ、『音』でァッ、すぐァッ」


「っやめろやめろ!youも分かってるだろ⁉︎喋るな喋るな!」


 頭をグンッ、グンッ、と揺らしながら無理矢理喋る東条に、ムジカは笑いながら地面を叩く。


「マジかよ、オリビアの言った通りじゃねぇの!本当に対戦相手のこと何も調べないで来たのな?」


「そっちの方が面白いでしょ。あ、喋れた」


「いいねぇ〜ナメてるね〜!嫌いじゃないぜcrazy boy!」


 東条が1歩踏み込む、と同時に足場が爆発し片足が宙に浮く。


 体勢の崩れた東条に向かって、


「BANG☆」

「――ッ」


 ムジカが指パッチン。

 打ち出された鋭い衝撃波が東条の腹に突き刺さった。


 足に力を込め地面にタイヤ痕を残した東条は、腹を摩りながらニヤリと顔を上げる。


 ……タネは割れている。というか向こうも隠す気はないだろう。ムジカの能力は『音』。音のエネルギーを操作して衝撃波を生み出している。


 東条が片足を上げ、踏み出す。


「まだ分からねぇかボーイ?歩くだけwhat!?」


 ズガンッッと踏み込んだ足が地面を衝撃波ごと押し潰し、1歩目。


「ウッソだろオイ⁉︎来んな来んな⁉︎」


 ズガンッッズガンッッと歩きながら、東条はこのcellの凶悪性に呆れ笑う。

 不可視、音速、俺が仰反る程の威力。このcellの恐ろしいところは、しかしそこではない。


「――ッ」


 遂にはガンガンガンガンッッと走り出した東条に、ムジカはバックステップからナイフを抜き払う。


 ――ヒュシュッ


 足元の衝撃波を利用して跳躍した東条。その靴紐の端が切り飛んだ。

 音の種類で斬撃にもなるとは驚きだ。しかしそこでもない。


 勢いよく落下する東条、風に靡くユニフォーム、そして立ち上がる


 余裕の笑顔を浮かべるムジカ。



 ……そう、これだ。



「『Bumble Bee』」



 瞬間東条の身体が空中で吹っ飛び、縦横無尽に跳ね回る。

 空中で暴れ回り、地面に衝突、外壁に衝突、粉塵を突き抜け再び天に打ち上がり急落下。


「っっっっっ」


 前後左右がメチャクチャに乱れる中、東条は改めて理解する。

 このcellの本当に恐ろしいところは、その能力が自分の出した音のみならず、万象の出すあらゆる音に作用しているところだ。


 風の音、衣擦れの音、観客の声援、周囲に漂う微細な音まで、その全てがムジカの攻撃手段。


 正直、理不尽さで言ったら過去トップクラスかもしれない。


「ッ何でこの状況で笑えるんだァ、アオゥッ‼︎」

「――ッッ」


 全方位からの衝撃波で暴れ散らかす中、それでもニヤニヤしている東条に向かってムジカはリボルバーを抜銃。


 銀色に輝く44マグナムが、躊躇いなく火を吹いた。


 刹那――爆音。増幅された射撃音が、銃弾を吹き飛ばし、追い抜き、東条の身体をくの字に曲げる。


 地表を抉り飛ばす程のソニックブームが外壁にぶつかり破壊。濛々と砂煙を打ち上げた。



『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『やったか⁉︎』『ザマァ‼︎』



「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、頼むから倒れててくれ〜」


 期待の眼差しで砂煙を見るムジカと日本スレは、……しかし


「ッオゥfuck!!」


 砂煙の中から現れる人影に頭を抱え膝を着く。


「いっへ〜〜、ペッ」


 バチバチと白雷を纏う東条は、咥えた弾丸を吐き捨て首を鳴らす。

 ま、耐えられるんだけどね!


 ……んじゃ楽しかったし、そろそろ終わらせようか。


「――YOッッ」


 悔しそうに地面を叩いていたムジカが、瞬間隙を見て発砲。再び爆音が東条に襲い掛かる。


 地面を抉り、突き刺さった衝撃波と弾丸は


「……」

「……fuck」


 ……黒い身体に当たり消失。


 ポテ、と地面に落ちる弾丸に、ムジカは乾いた笑みを浮かべる。


「やぁっぱり音波にも有効なのね、それ?」


「勿論。遊びは終わりってやつです」


 東条は思う。それなりに強い人間でも完封出来る、彼のcellはそれ程に凶悪で理不尽だ。


 ……ただ1つだけ、自分とは絶望的に相性が悪かった。


 漆黒を纏ってしまったら、もうお遊びにすらならない。

 同情するよムジカさん。


『Beast』の口がガッヴァァアと開き、息を吸い込んだ胸部が8倍程の大きさに膨れ上がる。


 ムジカは笑い、大きく身体を逸らすその黒い怪物を


「ッハハッ!聞かせてくれよキリボーイ‼︎テメェの音をよぉオ⁉︎」


 大きく手を広げ受け入れた。







「――ッッYEAHHHHHHHHHHHHHHHHHHッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」







 ――放たれた咆哮は、最早兵器であった。


 前方目視出来る範囲の地面を根こそぎ捲り上げ、吹き飛ばし、木っ端微塵に爆砕する。


 外壁の周囲に張られた障壁を貫通する程の爆音波に、吸音機は全てイカれ、全ての観客が耳を塞いだ。



「……………」


 荒れ果てた地面に、白目を剥いて直立するムジカ。

 Cellで何とか鼓膜を守ったものの、内臓をメチャクチャに掻き回された彼は、


「……――

 満足そうな表情を浮かべながら、血を吐いてぶっ倒れた。










【後書き】

 cellリクエスト……音で戦う能力が見てみたいです。

 とんでもなく強い能力できちゃった( ; ˘-ω-)ちょっと困るんでもう表出てこないで下さい。音楽活動に専念してください。

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