53話



「次どこ行くよ?」


「技術展示エリアっ」

「ジェットコースター!プール!アトラクション!」


「うちは何処でもええでぇー」


「俺もー」


 やんややんやと言い合うノエルと灰音ににジャンケンをさせ数秒後、

 勝ち鬨を上げるノエルの背中に続き、一行はリニアで技術展示エリアへと向かった。


「……ここ?」


「ん。……たぶん」


 地図をもう1度確認する4人が、揃って首を捻る。


 ポツンと置かれたゲートの先には、真っ白いタイルで舗装されただけのだだっ広い平地が続いているだけ。

 その中を沢山の人が思い思いに歩き回っている。なんか怖い。


「あれじゃない?メタファーじゃない?技術に囚われるな人間よ、的な」


「この規模でそれやるんは頭おかしいやろ」


 ノエルがブスくれていると、ゲートからニコニコとキャストさんが走ってきた。


「ようこそ技術展示エリアへ!見学なされますか?」


「ああ、はい」


「ではこちらをどうぞ!」


「?ども」


 東条が渡されたサングラス型のゴーグルを訝しんでいると、真っ先に装着した3人が口をポカぁと開けたまま動かなくなった。


「な、何だ?」


「どうぞ付けて見てください!きっと驚きますよ!」


 テンションの高いキャストさんに促されるまま、東条もサングラスを装着する


「は?」


 ――とそこに現れるお洒落な博物館の様な空間。

 薄暗い館内は間接照明で照らされ、ガラスケース、発明品、そこら辺を歩き回るモンスターの全てが立体型ホログラムによって作られた仮想現実。

 あのぶらぶら歩き回っている人達が何を見ていたのか、4人は1発で理解した。


「ヤッバ」


「すごー……」


「見てこれ触れない!っわ、タッチしたら説明出る!」


「か、勝手に触れてもええん?っゴブリンキング歩いとるやん⁉︎気色悪いっ」


 4人の驚きように満足したキャストさんが、ふんふんと得意げにサングラスを掛ける。


「こちらはaugmented拡張 reality現実、俗に言うAR技術の粋を集めて作成された、拡張型デジタル仮想空間です。床部分に搭載された投影装置からの信号をこのサングラスで読み取り、まるで実物がそこにあるかの様に見せてくれるのです」


「「SA◯で見たやつだぁ!」」


 騒ぐ東条とノエルに「そうでしょう凄いでしょう」と頷くキャストさん。

 新型武器のホログラムを手に取り振り回す灰音。

 ゴブリンキングのホログラムに蹴りを入れる紗命。

 最新技術を各々楽しむ4人であった。


 ――「マサ見てっ、魔素電波操作装置だって」


「ははぁ〜、これがありゃ世界の裏でも電話通じるようになるのか。お前ら使ってたのこれ?」


「日本にあったんは試作型やなぁ。これが完成版やろ」


「……あれ無しに電波操作してた焔李やっぱおかしいって、」


 ――「マサ見てっ、魔剣だって」


「なになに?『途轍もなく固い。固すぎて加工が出来ない。叩いて使う』剣じゃねぇよそれはもう」


 ――「マサ見てっ、爆発する盾だって」


「なになに?『使用したモンスターの特性で、衝撃を与えると爆破する。内側も爆破するため注意が必要』盾知らないだろ製作者」


 ――「マサ見てっ、トレントの細胞を利用した野菜の品種改良。その実験結果だって」


「なになに?『数種類の野菜にトレントの自己修復細胞を結合した結果、味を損なわずに成長を加速させることに成功』おお凄いじゃん。『次の日畑から逃走』おもしろ」


 監視カメラが録画した、走って逃げるポテトとトマト。


 4人が他にも面白いかったり凄かったりする作品を見て歩いていると、一際多くの人を集めている展示品が目に入った。


 他より広いスペースを取られ飾られている。アーチ型の、機械?


「何だありゃ」


 空中をタッチし、コードを読み取る。




 時空間歪曲渡航装置Space-time distortion travel device:仮称――『GATE




 ノエルが目を見開き、東条その他が難しい顔をする。


「……ん?つまりあれか?ワープ装置か?」


「凄!」


「凄いなぁ」


 3人は説明を読むが、英語だし難しい専門用語だらけだし何が何だか分からん。たぶん日本語でも読めないが。

 周りには食い入る様に眺めたり、必死にメモを取ったり、涙を流している者もいる。やはりトンデモない発明なのだろう。


「まぁ確かに、人類全員瞬間移動出来るようになったらスゲェな」


「今じゃ飛行機とか、自国の中でしか使えないもんね」


「これがあったら、大陸無視して旅行出来るんやろ?」


「……え?そう考えたらヤバくね?革命じゃん。やっと追いついた」


 ホケー、とゲートを眺める3人とは別に、ノエルは説明文を読み苦い顔をする。


「……表面上の説明しかない。大切な原理とか運用方法、今まで課題だった点をどうやってパスしたのか分からない」


「まぁ、そりゃそうやろぉ」


 紗命が周囲の人間をチラリと見る。


「あそこの人、イギリスの大統領や。テレビで見たことある。実体もあらへん」


「わ、ほんとだ。ホログラムの人結構いる」


 サングラスを外した灰音が驚く。


「みすみす自国の技術渡す訳もねぇってか」


「デモンストレーションやなぁ、力を示す」


「ギスギスしてるねぇ」


 国の裏事情には巻き込まれたくないもんだ。東条はゲートに背を向け歩き出す。


「……重力波を利用……いや、そもそもワームホールの中の潮汐力をどうやって回避した?素粒子レベルで身体が引き裂かれる筈……魔素を膜に、いや流石に……。あのゲートの維持は?どうやって?負の質量の生成を?……アルクビエレ・ドライブなら、でもそれでも……分からない。結果死ぬ」


「ほらノエル、物騒なこと言ってないで行くぞ〜」


「マサっマサっ」


「んー?」


「分からない!気になる!ノエル、気になるます!」


「チタンダエルかアーニャかどっちかにしろー」


「ノエル!」


「ノエルだそうです」


 ボケる東条にクスクスと灰音と紗命が笑う。


「マサ、この製作者、天才。ノエルよりずっと」


「そりゃヤベェな。お前が自分を天才だと疑ってないのもヤベェな」


 東条は悔しそうなノエルの頭を笑いながらワシャる。


「製作者何て人?書いてあんだろ最後の方」



「……ステラ」



「お前色んな論文読んでたじゃん。知らんの?」


「知らない」


「世界は広いってこった。自惚れんなってことだよ」


「むー」


 次のエリアへと去ってゆく4人。







 ……そんな彼らの背中を、不敵に笑いながら見つめる少女が1人。

 サングラスもかけていないことから、展示鑑賞目的ではないことは明らか。


 金髪のロングツインテールを揺らし、少女――ステラは踵を返す。


「……ククっ、ありゃぁ無理だな。勝手にのは」


「ボスでもですか?」


 近くに侍っていたサムが一緒に歩き出す。


「お前はどう感じた?」


「リラックスしているように見えて、周囲の実力者を常時警戒していましたね。目があった時は肝が冷えました」


「やっぱ王の護衛は一味違うねぇ〜」


「彼だけではありませんよ。あのガールフレンド2人も、途轍もない実力者です」


「ん〜」


 ステラは頭の後ろで腕を組みながら、サムの開けたキャスト専用扉から外に出る。


「どうすっか……色仕掛けでもしてみっか」


「ハッ」


「っんだテメェ⁉︎笑ったな今!」


「いえいえ、応援しますよ。どうぞ世の厳しさを知ってください」


「テンメっ!このっ、fuck!」


「ハハハ、口が悪いですよボス。また親父に怒られますよ?」


「ウルセェ!」


「ハハハハハ」


 ムカつく護衛をゲシゲシと本気で蹴りながら、天才ステラは喚くのだった。

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