第32話



 ノエルはビデオカメラとパソコンををADに投げ渡し、東条と共に日陰のビーチチェアに座りジュースを飲む。


「お久」


「うお、同接エグ。暇かよお前ら」



『お久〜』『おひさー』『ノエたんお久〜』『お久!』『ノエルたん可愛い!』『うるせぇ』『うるせぇカオナシ』『黙れ』『お前のために集まったんだよアホが』『調子のんな』『隣譲れ』



「……当たり強くね?」


「ノエル達は今ハワイにいる。見ての通り、ハワイは生きてる。というか他の国も生きてると思う。日本が1番過酷な環境だったし、ノエルのせいで。はっはっは」


「おいバカ炎上するぞ」



『w』『ww』『こいつw』『やめとけ』『ブラックが過ぎるて!』『w』『やめなぁ』『怖い怖い』『反省しろ』『可愛いから良い』『可愛いから許す』『可愛いは正義』『東条は許さん』



 とそこで、ビーチにハンバーガーショップのお姉さんがセットを運んでくる。


「はいこれ。……あんた達、配信者だったの?」


「おおサンキュ!お前らここのハンバーガーマジうめぇから食えよ!」


「ん。映る?」


「へ〜……は?何この数……。1、10、……ご、5千万⁉︎」



『わ、美女だ』『金髪美女だ』『裏山』『店の名前言えや』『まずそこまで行けねぇよ』『は?自慢?』『ぶっ飛ばすぞ』『ノエル英語喋れたのか』『すごい!』『ノエたん凄い!』『英語喋れて偉い!』『おー驚いとる驚いとる』『そりゃ驚くわ』『あなたの隣にいる人危険人物ですよ〜』『お姉さん逃げて〜』



 お姉さんは目を瞬かせ、見たことのない数字に呆れる。


「普通じゃないとは思ってたけど、……ホントに凄い人達だったのね」


「ん。ノエルは凄い。セットありがと」


「ありがとさん!また来るぜ!」


「あいよ。……」


 お姉さんは溌剌とした東条に苦笑する。


「ったく、あんたもあんただよ。フラれた私の気持ちも考えてよ」


「ん?」


 それは彼女のちょっとした意趣返し。

 手をヒラヒラと去ってゆくお姉さん、と同時にコメ欄が湧き上がる。



『は?』『おいおいおいおい⁉︎』『え、なに?』『どした?』『マジかよw』『ほんと隅に置けねぇな!』『どゆこと?』『フラれた私の気持ちも考えてくれってさ』『!』『!』『⁉︎』『俺やっぱコイツ嫌い』『同じく』『w』『妬むな』『コイツ彼女いたよな』『あ、』『あ、』『あ、』『ハイネ?』『殺すぞ』『まぁフったらしいし』『でも』『まぁ』『ムカつくのに変わりはない』



「え?は?何でバレてんの⁉︎」


 東条はジュースを吹き出しパソコンを掴む。


「今言ってた」


「何してくれてんの⁉︎」



『まぁカオナシは後で処すとして、ノエルいつハワイ着いたの?』『気になる』『それな』『何してたの?』



「昨日。あのハンバーガショップで無銭飲食してバイトして、マサが日本で言う調査員、ハンター3人を半殺しにして、逮捕されて、釈放されて、ハンターになって、高級ホテル使って良いって言われた」



『うんうん』『うん』『うん……』『……』『……?』『ちょっと待て』『その話詳しく』『情報量情報量w』『え、何お前ら逮捕されたの?』『渡航早々?』『草』『面白すぎんだろww』『何やってんねん‼︎』



「あいつらが弱すぎんだよ。ウゼェし」


「ん。殺さなかっただけ有難いと思え」



『w』『お〜い誰かコイツらに常識教えてやれ』『これは国交断絶の予感』『草』

『東条さん、ノエルさん。後で話があります』

『⁉︎』『⁉︎』『⁉︎』『今政府の公式アカ流れなかったか⁉︎』『いや見間違いだ!』『触れるな!』『俺は何も見てない』『見てない』『しーらね』



 そんなことはどうでも良い、と2人は昼ご飯を食べながら観光マップを広げる。


「ノエルもハワイで遊びたいし、どうせだからお前らにも見せてやる」


「別にお前らの行きたい所には行かねぇけどな」


「歩いてるだけで金稼げるし」


「楽な仕事だぜ」



『w』『もうちょっと媚び売れやw』『え、俺ら喧嘩売られてる?』『変わらねーなー』『そこがいい』『痺れる』『憧れる』『憧れはしない』『間違いない』



「ノエルどこ行きたいよ?」


「まずはダイヤモンドヘッド」


「はぁ?山じゃん、ただの」


「ハワイ1の観光スポットらしい」


「山が?」


「山が」


 東条は「え〜」と遠くのダイヤモンドヘッドつまらなそうにを眺める。



『おい』『登山なめんなよ?』『はいこいつ全ての登山家敵にまわしましたー!』



「あんなのよりデカい山、新大陸にいっぱいあったろ。何ならぶっ壊したろ」



『ぶっ壊したらしいぞ』『環境省ーー‼︎』『再逮捕しろ‼︎』『何で釈放した‼︎』



 ノエルはもぐもぐを飲み込み、ハンバーガーのゴミをゴミ箱に投げる。


「楽しいか楽しくないかで言えば、別に楽しくない」


「だろ?」


 でも違う、とノエルは立ち上がる。


「ノエルは人の文化を知りたい。日本とは違う国の色を、自分の目で見たいだけ。楽しかったら良いけど、楽しくなくてもそれでいい」


「……そんなもんか」


「ん。そんなもん」


 2人は立ち上がり、残りのゴミを捨てた後、海の中へザバザバと入ってゆく。



『流石ノエルちゃん。良いこと言うぜ』『カオナシなんかとは大違いだ』『ノエルたんのお腹綺麗』



 周囲に人がいないのを確認し、東条はノエルを背負いADの頭部を掴む。


 その際、首に手を回す彼女が、耳元でそっと呟いた。


「……ノエルはマサと一緒なら、どこでも楽しいけど」


「……くくっ、お前のそういうところが、――っ大好きだよッ!」



『『『『『『『『――ノロケかよッッ‼︎‼︎‼︎』』』』』』』』



 海水を弾けさせ、東条が飛び上がる。

 武装した両足で空気を蹴り、2人と1機は空を駆けた。

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