27話

 

 ――頭上に切り上げ、左に下ろし、右に振り抜き、右足を軸に左に半回転、斜めに切り上げ背後の蜂を軌道上のついで諸共ぶった斬る。


 有識者からすれば、強引で稚拙な刀捌き。


 しかし数多の戦闘を潜り抜けて来た彼の動きは、武器の種類関係なく、命を刈り取る為に最適化されている。


 構え?足運び?型?そんなのどうでも良い。


 殺せれば、それでいい。


「ォウラァアッ‼︎やべっ」


 バットの如く振り抜いた刀がすっぽ抜け、回転しながら数百体を惨殺、最後にノエルの隠れるドームにぶっ刺さった。


 東条はビチャビチャと死体を踏み潰しながら、刀を引っこ抜く。


「わりぃわりぃ。……結構減ったし、拡声もういらなくね?」


「ん」


「あー、あー、こんなもんか?」


 東条は音エネルギーのボリュームを下げる。


「ん、戻った」


「おけおけ。……ビビってんのか?」


「多分あれの作戦待ち」


 二人は襲うのをやめ滞空している蜂共を見上げる。


 その一番奥にいるのが、他の蜂より一回りデカい女王。針と顎が異常に発達している。あんなんで卵生めんのか?


「もう充分撮れた、片付けていいよ」


「お前なぁ、もうちょっと労われ。結構疲れてんだぞ」


 東条は汁を切り、刀を鞘に戻す。


「んじゃ、最後は派手にいくか」


「よっ、いったれー」


 彼はドームの上に登り、左足を大きく引いた。


 目を瞑り、左手で鞘を掴み、柄に右手を添える。


 凡そ抜刀の型ともかけ離れた、超前傾姿勢。



「……シィィィイイイイイ――」



 噛み合わせた歯の隙間から、蒸気機関の如き息吹が漏れ出る。


 それを隙と見た蜂の群れが、特攻をかけた。

 同胞を踏みつける人間を串刺しにすべく、牙を剥き出し、針を構え、標的を複眼に映す。


 耳障りな羽音の中、



 ――カチンッ

 東条は親指でつばを弾く。



 彼の全身を覆っていた漆黒が剥がれ、一瞬で隙間から鞘の中へと流れ込んだ。



「……雷の○吸、○の型、霹靂――



 瞬間、抜刀された刀身から漆黒が解放。

 東条を中心に、半径約五百mの円環が出来上がった。



「……カチカチ?」


 束の間の思考の中、円環に触れた蜂は困惑していた。


 斬撃では、ない。

 衝撃も、ない。

 ダメージ、なし。

 追撃、再会――


 ――一閃ッ‼︎」




 バヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッッ‼︎‼︎




 漆黒の円環が、無数の迅雷を生み出し青く輝いた。


 大気が震え、蜂は燃え、崩れ、塵すら残らない。

 周囲のガラスがドラムロールの如く弾け飛び、晴天の下、ガラス片と雷が織り成す星空が完成した。



「……ほ、」


 数秒後、ノエルの作り出した傘の中で、東条は満足気な溜息を漏らす。


 ガラスの雨が地面を打つ音が何とも心地良い。


「どうだった?」


 彼の顔面には、赤文字で悪鬼滅殺の文字。


 ノエルは笑いながら、


「最高」


 ビシ、とサムズアップした。

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