第二巻 一章 国と魔獣

黒夜の一幕

 


 時は遡り十二月二十四日、クリスマスイヴ。


 世界が変わった、あの日。




 モンスターの出現も一旦収まった真夜中。

 池袋駅東口は、不気味な静けさに覆われていた。


 聖なる日を祝福するクリスマスツリーは根元からへし折られ、光の象徴たる星は見るも無残に踏み潰され輝きを失っている。


 辺り一面に車が横転し、倒壊した建物の断片が各所に傷を残す。


 そしてまだ掃除屋がいないこの日は、冷風に乗って何処からともなく血の臭いが漂い、充満していた。



 閑寂な宵闇に光を落とす満月。


 一縷の希望も許さない汚濁した球体。


 幻想的なコントラストを映す情景は、一つの終末の完成形だ。


 何者も邪魔となり得るその空間に、




 しかし次の瞬間、それら二つが霞むほどの『白』が生まれ落ちた。




 純白の鱗は、寒月の下、月光を受け淡く煌めく。


 手も足もない三m弱の細長い体は、余計な物の一切を削ぎ落した流麗さを感じさせる。


「……シュルル」


 舌をチロチロと出し入れした後、アメジストの様な瞳が一つの建物を見つめた。


「……シュルルル」


 数秒、目を逸らした白蛇は、ゆっくりと夜の中へ消えて行った。


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