第45話

 

 二人は驚愕し、臨戦態勢に入る。しかし音の出どころはここではない。恐らく、下階。


「東条!」


「分かってる!」


 嫌な予感が過り、すぐに駆けだす。もし防火扉をこじ開けられるような奴が相手なら、今の屋上の戦力ではまずい。


 逸る気持ちに地を蹴り、身体強化の準備をした。




 §




 穏やかな日常に響いた轟音が、皆を一瞬凍り付かせる。

 次いで汚い叫び声の様なものが近づき、大量のゴブリンが入口を殴り壊し飛び込んできた。


「――ッ武器を持て‼一か所に集まれ‼」


 若葉の怒号に、事のヤバさに気付いた戦闘員が現実に引き戻される。


「佐藤さん、すぐ彼等に連絡を」


「分かりまし――ッ……」


「……なんじゃあれは」


 二十数匹のゴブリンの後ろから、二m後半はある筋骨隆々のゴブリンが姿を現した。

 その手には巨大な六角棒が握られている。


 有象無象とは違う、圧倒的なまでの存在感。誰もが例外なく恐怖に固まった。


「……紗命さん、連絡をお願いします。あれは私が見ます」


「あい分かった」


 水の壁を展開し、防御態勢を整える。スマホを取り出し、震える手で電話を掛けた。


「……グルァッ」


 筋肉ゴブリンが低く唸り、一斉にゴブリンが動き出す。


「雑魚共は任せろ」


「はい」


 若葉率いる部隊が正面から衝突する。佐藤は緊張に汗を流すが、奴が動く気配はない。


「っ桐将はんっ」


『もう着くっ』


 電話が繋がったのか、紗命が安堵し、束の間、筋肉ゴブリンの立っている場所を見て彼女の血相が変わる。

 入口はそのまま階段に繋がっている、下から見てもすぐそばに奴がいることが分からない。


 もし二人が飛び込んできたら、至近距離で鉢合わせることになる。


「っダメや!別のとこ「「――ッ!?」」


 間に合わず。


 東条と葵獅の目が驚愕に染まる。


「――ッ」「ぐぉっ」


 東条は躊躇わず葵獅を蹴り飛ばす。同時に六角棒が豪速で振り抜かれた。


 強化中だというのに、目で追うのもギリギリの速度。


 だが、見えているなら問題ない。


「?ガっ!?ゴぁッ――」


 漆黒を殴った力がそのまま筋肉ゴブリンの腕を弾き飛ばす。

 ガラ空きになった腹に、今まで地道に溜め込んできた全てのエネルギーを放出。


 巨体が軽々吹き飛び、九階と屋上を隔てる壁を爆音を上げてぶち抜いた。


 あまりの破壊力にゴブリンですら動きを止める中、しかし、


(……まるで手応えがねぇっ)


 彼だけは相手の頑丈すぎる肉体に冷汗を垂らした。


「佐藤さん!俺だけじゃ無理です、手を貸してくださいっ」


 戦場を切り離せた好機を逃してはいけない。東条は穴に向かって走る。


「っ分かりました!葵獅さん、ここは頼みます!」


「任せろ」


 佐藤も全体のサポートを葵獅に任せ、恐怖に竦みそうになる脚で彼に続いた。

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