第31話
§
「はぁっ、はぁっ、やっべぇこれっ、めっちゃ疲れる、んぐっ――」
真冬だというのに、パンツ以外全てを脱いだ東条が、滝の様に汗を流しながら荒い息を吐く。
気付けば夜の帳が下りていた。点々と差し込む月明かりが、幻想的に木々を照らしている。
彼の行っていた肉体強化の修練は、過酷を極めるものであった。
原理としては、大気中に漂う魔素を己の身体の中に取り込み、限界の腹五分目くらいで止め、外に漏れださないよう気を引き締め、体内に循環させる。これの繰り返し。
自分の魔力許容量は感覚で分かるのだが、溜めようとすればするほど、薄ら寒い悪寒のようなものを感じる。限界はまずいという本能の警鐘だろう。
そしてこれは彼の知らない事だが、風や火などの属性魔法は、体外の魔素を自分を通して色を付け、そのまま外に出す行為だ。身体の中に留め、循環させるという過程がない。
一手間も二手間もある肉体強化は、それだけに高難易度の魔法なのだ。
余談だが、凜が見た赤や青の魔力や、東条が感じた気配や覇気などは、身体中に定着した操作不可能な魔力だ。
これが素の身体能力を向上させ、魔法に色を付ける変換機構の役割を果たしている。
これらを動かすことは、人間が神経や臓器を動かすことと同義。故に無理。
力を抜いた東条は、ぐで~と木に凭れる。
朝から比べれば大分様になったと感じるが、それでも二分程度が限界。ここに戦闘中の集中力が加わるのだから、実戦になれば一分弱の切り札としてしか使えない。
「……要練習だな」
夢のある鍛錬に、目を閉じた。
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