第786話 正親町三条邸
予想通りすでに警備の兵士達が外で待機していた。構える自動小銃ににやりと笑みを浮かべながら明石が羽交い絞めにしている赤松を見せつけながら別所は兵士達をにらみつける。
「見ての通りや。何もするな」
落ち着いて兵士に叫ぶ赤松。別所は拳銃をちらつかせて道をあけるように指示する。
開いた先、黒田が車に飛び乗りそのまま運転席に座る。明石は後部座席に赤松を押し込みそのまま別所と赤松をはさむようにして座った。
兵士達はそのまま呆然と走り去っていく車を見守ることしか出来なかった。
「さてと、これでワシは無理やり青年将校に拉致されて会見場へ引き出されたいう証言が作れるなあ」
赤松はそう言って両手を伸ばす。
「別所!貴様!」
明石は自分が完全に踊らされていることに気づいて叫んだ。若手海軍士官による強制的和睦。それが今回のシナリオだった。
「ああ、坊さんすまんな。別所のやり方はどうも乱暴でいかんわ」
そう言って赤松は隣で黙って前を向いている別所をかばう。
「さてと、正親町三条邸へ……そや、正親町三条さんは明石の部下やったな」
赤松の言葉にしばらく混乱していた明石だが、それが彼の唯一の女性の部下正親町三条楓をさすことを思い出し手を打つ。
「仕組んだのは嵯峨大公でんな」
じっと赤松をにらみつける明石。自分の顔が闇屋の用心棒のときのものになっていることくらいは明石も分かっていた。だが赤松も別所も黙って車に揺られている。追跡する車は無い。ただ黒田の運転する車は官庁街を抜け、貴族の邸宅の並ぶ町並みを進んでいた。
「ですが西園寺大公は家から出ていない言いますけど」
「新三のことや、康子はんをつこうて首根っこ掴んで引き出したんとちゃうか?」
そう言って赤松は笑う。車が減速し大きな門構えをくぐる。車止めには先客がいた。陸軍の公用車、自然に赤松の顔が曇る。
「清原さんか」
車が止まり、書生がドアを開ける。別所、赤松、明石の順で正親町三条家の玄関に降り立つ。
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