第222話 去って行く人々

「買ってきましたよ!」 


 勢い良くコンビニ袋を抱えた西が駆け込んできた。両手のコンビニ袋の中には缶入りの飲み物がぎっしりと詰め込まれていた。 


「カウラはメロンソーダだろ?」 


 そう言うとかなめはすばやく西から袋を奪って、その中の緑の缶を手にするとカウラに手渡した。


「なんかイメージ通りですね」 


 岡部がコーヒーを探し当てながらカウラを見つめている。


「ああ、コイツの髪の色はメロンソーダの合成色素から来ているからな」 


「西園寺、あからさまな嘘はつくな」 


 プルタブを開けながらカウラは緑のポニーテールの毛先を自分で手に取り何か納得したような顔をして缶に口をつけた。


「神前曹長。君はコーラで良いか」 


 岡部は手にしたコーラを誠に押し付けた。思いを見透かされた誠は苦笑いを浮かべる。その様子を見ながらフェデロは岡部に手に取ったものを押し付けられる前に自分の飲みたいものを探す。


 そこにトイレから帰ったアイシャがやってきた。


「ああ、飲み物買ってきたの?言ってくれれば私が出したのに」


 アイシャの白々しい言葉にサラとパーラが顔を見合わせる。


「なんなら今から出しても良いんだぞ」


 メロンソーダを飲みながら釣りを西から受け取っていたカウラの言葉を聞くとアイシャはそのまま背を向けた。


「どこ行くんだ?」


「コレクション整理よ」


 アイシャが出ていくがあまりにも彼女らしい言葉に誰も呼び止めることはしなかった。


「それじゃあココアだ!」


 全員がアイシャの方を見ていた間も飲むものに迷っていたフェデロはそう言って袋からココアを取り出した。


「ああ、ごめんね。マルケス中尉。アイシャはこういう時はココアなのよ」 


 サラはそう言うとフェデロの手からココアを取り上げた。


「サラさん、アイシャさんに届けてあげるんですね。それなら私が持っていきましょうか?」 


 そう言ったのはジンジャエールを手にしたレベッカだった。


「え?お願いできるの」 


 サラのの言葉にレベッカは嬉しそうにうなづいた。


「じゃあ僕も行きます」 


 釣銭を数えていた西がそう言った。立ち上がった二人は昨日と同じく楽しげな笑みを浮かべながら食堂を出て行く。


「おっぱいお化けに手を出そうってつもりだな、西の奴。あれだな、そのうち誰かにシメられるぜ」 


 かなめはそう言うと緑茶缶を袋から取り出して飲みだす。


「まあ、菰田君達は手を出さないでしょうけど」 


 パーラはそう言ってカウラを見つめた。菰田の名前を聞いてメロンソーダを飲んでいるカウラの視線が厳しさを増す。


「菰田はツルペッタンマニアだが、嫉妬深さも一流だぜ。あいつの嫉妬には胸の有り無し関係なしだ。自分より下の奴に彼女が出来たらそりゃあ……」 


 面白いネタを見つけたかなめは満足そうに緑茶を飲んでいた。


 誠がコーラを飲みながら食堂の窓をなんとなく見つめた。晩夏の日差しが次第に色を朱に変えつつあった。


「それじゃあ俺達は失礼するかな」 


 ロナルドが立ち上がるのにあわせて、岡部とフェデロが缶を置く。


「そば、ありがとうございます」 


 パーラの声にフェデロは軽く手を上げて答える。


「ああ、上の眼鏡っ娘も連れて帰れよ」 


「ああ、そう言えばいたんだな。岡部、とりあえず呼んできてくれ」 


 ロナルドの言葉に、岡部は小走りに食堂を出て行く。


「まあいろいろ思うところはあるかもしれないが、よろしく頼む」 


 ロナルドはそれだけ言うと振り向くことなく食堂を出ていく。


「そう言うことで」 


 愛想がウリのフェデロは手を振りながら笑顔を浮かべて去って行った。

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