第97話 集う仲間達

「よく見ると殺風景な部屋だねえ。お前の好きなアニメのポスターの一枚も貼ればいいのに」


 グビリと嵯峨は酒を口に含む。


「お前、あれだろ。アニメのディスクとかに付いてきたポスターとか、きっちり保存用に溜め込む口だろ?まあシャムやアイシャもそんなこと言ってたからなあ。アイシャなんかは保存用、布教用、観賞用って三つも同じアイテムを買い込んでるみたいだからな」 


 確かに自分もそうなので誠は苦笑いを浮かべるしかなかった。


「せめてカレンダーくらい貼っといた方が気が休まるんじゃないか?こんなに殺風景だと……おい、誰か来てるみたいだぞ」 


 入り口の所を指差し、嵯峨はそう言った。誠は指示されるままに扉を開く。


「よう!元気か!って、なんだ、叔父貴もいたのかよ」 


 もう少しばかり酔って上機嫌になっているかなめがそこにいた。自分も酔ってはいるものの、かなめの息は大量の蒸留酒を飲んだ後のようで、アルコールに満ち溢れたそれだった。


「おいおいかなめ坊。一応お前さんも待機中なんだぜ、もうちょっと自重して飲んでもいいんじゃないのか?」 


「叔父貴……かてえこと言うなよ!おい神前!」 


 直立不動の態勢をとった誠だが、シャムの『かなめのタレ眼』と言う指摘を思い出し、じっとかなめの顔を見ていた。


「どうした?アタシのあまりの美しさに言葉もねえのか?」 


 確かにタレ眼だった。笑顔を浮かべるとさらにタレ眼になる。


「虐めんなよ、かなめ坊。それよりこいつ飲むか?」 


 嵯峨は一升瓶を掲げた。ぬらりと視線を一升瓶に移したかなめだったが、すぐそのタレ眼が輝きだした。


「これって『銀鶴』の純米大吟醸じゃないか!胡州でも手に入れるの大変なんだぜ!叔父貴!どこで売ってた」 


「ああ、ここの店主とは西園寺家に養子に入ってからの付き合いでね。まあ年に5本くらいは贈ってもらってるよ。それこそ兄貴の所にゃあもっと送ってると思うけど。飲んだ事ないのか?」 


「オヤジの野郎がそんな親切な人間に見えるか?ほとんど客が来た時飲むのがこれだから。アタシはめったに飲ませてもらえねえよ」 


 そう言いながら酒瓶を嘗め回すように見つめるかなめを気にすることなく、嵯峨は悠々と自分のコップに酒を注いだ。


「いくら頼んでも無駄だぞ、こいつは俺と誠で飲もうと思って持ってきたんだ。それにそんだけ出来上がってりゃあ味も何も関係ねえだろ?消毒用のエチルでも飲んでな」 


 まったく取り付く島が無いとでも言うように、かなめの羨望の視線を尻目に嵯峨は悠然と酒をあおる。


「ちょっと待て叔父貴。神前!ちょっとここに座らせろ!」 


 かなめはそう言ってベッドに腰掛ける。そのままじっと嵯峨が酒を飲むさまを指をくわえて眺める。


「叔父貴……飲ませろよ」


「やなこった」


 嵯峨はかなめをまるで相手にしなかった。そんなかなめが誠のグラスに気づいた時、誠は部屋の外に人の気配を感じた。


「神前少尉、何をして……隊長!」 


 開けっ放しの入り口に今度はカウラが顔をのぞかせた。


「千客万来だなあ、誠。まあカウラもこっち来いや。それでかなめ坊。アルコールは抜けたか?」


「まあな、この状態なら飲んでもいいだろ?」 


 体内のプラントをフル回転させてアルコールを分解させ、すっかりしらふに戻ったかなめがまた目じりを下げながらじっと酒瓶を見つめていた。


「そうだ、かなめとベルガー。それに……ちょっと後ろ見てみ」 


 入り口で立ち止まっているカウラが言われるとおりに後ろを見た。そして誠達からも分かるような驚きの表情を見せた。


「アイシャ!なんで貴様がいる」 


「それは無いんじゃない?カウラちゃん。こんな狭い艦だもの、暇つぶしに歩いてたらたまたまここを通っただけよ。それよりなんでカウラちゃんがこんなとこに……ってかなめちゃんや隊長まで!」 


 長い紺色の髪をなびかせてアイシャがカウラに付き添うようにして誠の私室に入る。


「こりゃちょっとコップとか足りねえな。かなめ坊、コップあと三つ、それにカウラ用にジュースでももらって来いや」 


「何でアタシなんだ!」 


「お前もこれ飲むんだろ?それにここは誠の部屋だ。つまりこいつがここの主人だ。そして階級は俺は大佐、ベルガーとクラウゼは大尉。お前は中尉。つまり上官命令って奴だ」 


「分かったよ!」 


 そう言うと仕方ないと言ったようにかなめは渋々立ち上がる。


「ああそうだ。出来れば食堂でなんかつまむ物でも持ってきてくれや」 


「わあったよ!叔父貴は人使いが荒いねえ」 


 ドアが閉まる。アイシャはベッドの脇、カウラの隣に座った。


「タレ目ですね」 


 誠はしみじみとした調子でつい思いついた事を口にした。


「誠。それあいつの前では言わん方がいいぞ。血を見る事になるからな」 


 完全に乾燥し、硬くなった干し肉を引きちぎりながら嵯峨はそう言った。

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